第52回 卒業制作展・大学院修了制作展アーカイブ

 2025年2月15日(土)〜2月24日(月・祝)、本学西キャンパスで名古屋芸術大学卒業制作展・大学院修了制作展を開催しました。
 本特集では、特に優秀だった作品をピックアップ、キーパーソンのコメントと共に、今回で52回目となる名古屋芸術大学卒業制作展・大学院修了制作展を振り返ります。

第52回卒業制作展・大学院修了制作展を振り返って

副学長/芸術学部長/技術センター長 萩原 周

萩原周 教授
 WebやSNS、それらを含めた“情報”が身の回りにあふれる時代になり、経験や体験、さらには記憶に似た感覚などを手軽に入手することのできる時代になり久しいです。そうした仮想の体験のようなものを通していろいろなことができる時代を経て、どこかそうしたものへの不安を持ち始めているのではと思います。多くの作品から、“本物” “本当” “本来” “本質”…、そうした“本”というところへの要求を強く感じました。今回は「確からしさ」というか、リアルな実感や身体的な感覚を取り戻そうとしているように見受けられました。学生だけでなく、教員や来場者も同じ環境に浸っています。以前ならば、どんなものにおいても、もっと確からしい感覚があったように思います。最近では“それらしさ”を簡単に手に入れられるようになりましたが、それが本物や本質かというと、そうではない。人間は、暑さや寒さ、怪我をすれば血を流し痛みを感じるといった現実と、“それらしさ”との乖離のようなものをどうにかして埋めよう、そんな衝動が作品化されたものが数多くあったように感じます。
 来場者からは、例年にくらべ学生らしいインパクトに欠ける、完成度は高いが小さくまとまっているといった声も聞かれました。しかしながら、非常に丁寧な仕事を行って本質を追究し、深いところへたどり着いている作品も印象に残りました。最優秀賞の「線は呼吸している」(ヴィジュアルデザインコース 鈴木雅也さん)は、表現の基礎的な研究であり、従来のグラフィカルな考えに生物学的な見方を持ち込んだ、これまでのデザインの研究に対するひとつの答えになっていると思います。細やかさの中に身体的な感覚を模索する、「確からしさ」への探求を感じさせる作品となっています。
 今年度は、2021年度に開設した舞台芸術領域から初めての卒業生を輩出することができました。その記念すべき第1回の卒業公演が「コジ・ファン・トゥッテ」。モーツアルトのオペラを上演したということに、同じように“本質”への回帰といった印象を受けました。
 学校側の課題ではありますが、音楽領域内での協調と専門性の棲み分けがまだ完成していないように思っています。舞台芸術領域も含めてどんな形で協働していけるのか、その組み立てをより良いものにしていきたいと考えています。
 昨年度の卒業制作展では来場者数が6,000人を超えましたが、今年度はさらに増加し、過去最高の来場者数となりました。学生の作品発表の場として、また、大学の教育成果やブランド力を広くアピールするための機会として位置づけ、発信に力を入れていきたいと考えています。

制作者インタビュー