名古屋芸術大学

マスターtoアーティスト

神戸峰男(かんべ みねお)

美術学部長

1944年
岐阜県生まれ
1963年
武蔵野美術大学造形学部 清水多嘉示、木下繁に師事
1967年
武蔵野美術大学彫刻科卒業
1983年
日本彫刻会運営委員
1988年
名古屋芸術大学教授
1996年
日展 評議員
2002年
中国新疆芸術学院 客員教授
2009年
公益社団法人 日展 理事
2011年
公益社団法人 日本彫刻会 理事委員長
2012年
日本芸術院会員

1968年
第11回日展入選〈以後連続入選、日彫会会員〉
1970年
第13回日展中日賞受賞
1974年
第4回日彫展日彫賞受賞
1976年
第8回日展特選受賞
1978年
第10回日展特選受賞
1979年
岐阜県文化特別奨励賞受賞
2006年
第38回日展文部科学大臣賞受賞
2008年
第64回日本芸術院賞受賞
2012年
岐阜県芸術文化顕彰受彰

マスターtoアーティスト

夢中に、流れるままに、

 土岐市と可児市の境界のあたり。県道を折れて私道だろうか、車のギアを下げ坂道を100メートルほど駆け上がるようにして登ると、森の中に巨大な建物が現れた。文字通り、山中の一軒家。主は、にこやかに迎えてくれた。そこここに作品が置かれ、さながら美術館である。純和風建築でありながらどこかモダンに感じる建物は、飛騨古川町に在ったものを移設したもの。縁あって譲り受けたものだそうだ。明治初期に建てられ、もとは医院として使われていたのだという。普段、書斎として使われていると思しき掘り炬燵の部屋に通された。隣の床の間には、郷土の画家、前田青邨の軸が掲げられている。明治になって解禁された檜や欅が贅沢に使った柱たちは、100年以上経った今でも、その香りを放つ。

 時の流れの大きさと巡り合わせの不思議に、思いを馳せる。「美術の歴史を眺めていると、その大きな流れの中に自分も居るんだなと思いますね。その世界の一端、末席にいて、でも、その流れに棹さしたところでどうなるとも……」 大学時代、清水多嘉示、木下繁という日本を代表する彫刻家に師事した。当時、学内には三坂耿一郎、井上武吉、山口長男ら、錚々たる顔ぶれが揃っていた。一升瓶を手土産に、自宅やアトリエに押しかけることもしばしばだったという。「清水先生、木下先生のアトリエに作品を運び入れて、黙って見ていただいているだけで、自分の作品の欠点に気付いていくものです」 清水から「彫刻」を、木下からは「制作への姿勢」を学んだという。アトリエの作品たちは、アントワーヌ・ブールデル-清水の流れを汲み、瑞々しく立っている。

 「大きな流れの中にいて、そこで大事なことは『個』であること。『個』でなきゃ、一人であることが大事。あえて言えば、『個』であるために必要なことはやってきましたね。自分の『かたち』が言えるようになるためには、作品が構築的意志を持たなければいけない。言葉としての作品を大切にしたい」

 彫刻作品は、長い生命を持っている。古代文明の多くの彫刻群が、作者はわからぬまま愛され続け、今も人を魅了し続ける。歴史を突き通すように、形を変えず彫刻はあり続ける。そのためか、彫刻家と呼ばれる人間の視線は、他の芸術家よりも遠くを見ているように思うことが多い。その言葉は、いつも原点に立ち返り、本質を射る。

 「問題はいつも自分自身です。その問題に、正直に向かうこと。目の前に現れた現象に対して、正面から捉えればいい」 夢中に、流れるままに、やってきただけという。思う結果と違うかもしれないが、それでも結果は出る。そしてそれを運命だと思って受け入れる。ただし、いつも夢中でいられるように、自分の問題に真摯でいる。最も難しいことが、じつは一番簡単で、最も遠回りが一番の近道じゃないかと、優しくも厳しく、問いかけ続ける。

『MISORA』20×20×20㎝ ブロンズ

『ターバンの少女』50×35×35㎝ 漆

『野』(部分)(130×40×40㎝)ブロンズ

『朝』平成19年度日本芸術院賞授賞 180×55×45㎝ ブロンズ

『西の国よりⅢ』120×60×60㎝ 石膏

『戈壁灘Ⅲ』130×60×60㎝ 石膏

もともとは台所だった場所を改築してアトリエとしている。天井を吹き抜けにし、大きな作品も制作できる。「ちょっと直すつもりが、気がついたら朝。ときどきあるんですよ(笑)」

自分は自分の仕事をすればいいと、思いいたるのに4年は短すぎる。夢中になれることと覚悟を決めるまでは長くかかって当たり前でしょう。

学生とふれあうことは代え難いことだという。「なんて言うんでしょう、ずっと一緒にいたい感じがするんです。面倒じゃない。皆、立派な人格を持っている。大勢じゃない、一人ひとりなんですよ」 学生一人ひとりに可能性を強く感じるのだろう。

毎月、第3水曜日の夜、自主的に集まった学生やOBで行う勉強会の「三水会」。年を追うごとに、いい形になってきたと話す。「群れるための会じゃないということを明確に打ち出してから、参加する学生が増えてきた。彫刻だけじゃなくて、陶芸やパッチワーク、いろんな人が来だした。面白い会になってきた」