名古屋芸術大学

ここからが本当のスタート!

萩原 周

改革準備室長
学長補佐
デザイン学部教授

萩原 周

いよいよ4月から新しいカリキュラムが始まります。今の状況について教えて下さい(取材は2016年12月)

 美術、デザイン、音楽学部を統合し、新たに芸術教養領域を作りました。枠組みを考えて、文部科学省に申請し、設置基準を満たしているということで正式に開設。そういうことでスタートにこぎ着けたところです。諸々の計画に必ずしも充分な余裕があったわけではなく、短い時間の中で練り上げてきましたので、まずは4月から無事にスタートを切ることができることでひとつ課題をクリアすることになります。その上で現在行っていることは、カリキュラムの調整です。芸術学部では従来のカリキュラム、3領域を統合して、これに新たに加わる芸術教養領域を加え、学則上のカリキュラムとしては、一つにとりまとめられています。このカリキュラムでは、大きく必修科目と選択科目とに分けるとすれば、学部共通の必修科目として「大学生になる」、「英語」、「日本語表現」、「情報メディア演習」を置き、それ以外を選択科目としています。そして選択科目の中に従来の教育科目、および各専門領域の科目等が入っています。目下、各専門で設計していたカリキュラムをさまざまな観点から検証し、それらを新しいカリキュラムとして成立するようさまざまな調整をするという作業を行っています。

単に、これまでの専門のカリキュラムを他の領域の学生が履修できる可能性を広げるというだけではなく、新たな構想があるのですか

 従来、芸術大学の卒業生は、演奏すること、描くこと、あるいは芸術的な素養を使って構想することなどが能力として期待されていました。 反面、事務処理能力であるとか、語学力といった、現代社会においてより要求度が高まってきている能力の期待値はさほど高いものではありませんでした。そこで新しく芸術学部に入学する学生たちが身に付けていくことは、社会人としての基礎力を高める能力や常識を一般大学の学生にも大きく引けを取らないようなかたちにし、そこにさらにこれまで通り芸術大学卒業生としての専門性をしっかり身につけた人間を育成していこうというものです。これを実現するために必要なカリキュラムは、従来の芸術的な素養を養うものに特化したものに新しいカリキュラムをプラスしたものである必要があります。ここで問題が生じます。芸術学部の必須科目では、既存の人間発達学部とも共通となることから、限られた条件の中で、人間発達学部も加え、学年で500名近い学生に対してどうやってこのカリキュラムを実施するか。単純にスペースの問題もありますし、内容についても適切に設定されたクオリティーを満たすものにしなければなりません。カリキュラム全体を、効率のいい、効果的なものに仕上げる必要があります。ですので、そのための調整を行っています。それぞれの領域で行われているカリキュラムの内容を精査していかに効率よく、かつ教育の質を高める方向に運用できるか、さまざまな部署との意見交換を行いながら進めています。

学部がまとまるということで、例えば美術領域の学生でも一定の条件のもとで音楽の専門性の講座を受講することができるようになるわけですよね。横断的な取り組みとして、カリキュラム上で何か特色はあるのでしょうか

 4月から新しいカリキュラムがスタートします。スタートしますが、BORDERLESSを旗印にしたこの改革の成果は4年後、最初の卒業生を出したところで明らかになるわけです。修学上必要な事項を定めた学則科目は、改正後は完成年度まで、つまり4年間は変更することができません。ですから今回の改編によるカリキュラムの成果は、4年後になって初めて評価ができるわけです。とはいえ、成果をより早く見込める科目もあります。全学総合共通科目の横断科目群には、各専門から全学に開いて配置された科目が並びますが、中でもアートプロジェクトという科目に期待しています。それぞれ専門性を持った学生が集まりひとつのプロジェクトとして何かを作っていく、そういったカリキュラムです。じつは、これまでにもアートプロジェクトの実施内容に準じた活動は本学で既に行われてきましたが、夏期や冬期の休みを利用し、また単位認定されないもので、多くのプロジェクトは活動趣旨に共感する教員同士の個別のつながりでできあがったものでしかありませんでした。それを来年度からは、カリキュラムの中に組み込んで大学としてもしっかりとサポートしていくかたちを取ります。例えば、文芸・ライティングコースとミュージカルコースの学生が連携してイベントを計画・運営するとか、あるいは、リベラルアーツコースがコアとなって音楽と芸術を集約した活動を新たに立ち上げるとか、そういう企画ができるようになります。これまでも領域ごとには地域との結びつきや企業との連携などでさまざまな試みを行ってきました。それらを大学としてもっと積極的に行っていきます。地域や企業との関係を橋渡ししたり、取り組みそのものを大学が組織として応援していけるようになればと考えています。
 美術領域だけでなく音楽とも積極的に係わりが持てる領域はたくさんあると思いますので、東キャンパスと西キャンパス、 物理的には2キロほど距離がありますがこの距離感を学生たちの連携の生みだす活力や、 コンテンツで埋めていく必要があると考えています。

音楽、美術、工芸、教職課程はこれまで通り

従来は単位に含まれていなかった活動が認められるようになるわけですね。他領域との連携を増やしつつ、これまで通りの専門教育も新たな教養もということになると、講義の効率も良くなる必要がありますね。

 もちろんこれまで通り、音楽領域、美術領域では、プロフェッショナルなアーティストとして活動していける人材を輩出していきます。デザイン領域でも先端的なことに取り組む卒業生を輩出していくということは、これまでと変わることなく目指していかなければなりません。1つの学科に、本学が採用する4領域があるような大学は、全国的にも珍しい存在です。従来の音楽、美術、デザインの3つの領域で、それぞれ教員免許を取得するための課程申請も行いました。先例がなくこれはなかなか神経を使う難しい試みでしたが、皆様のご協力で無事にクリアすることができました。美術、音楽、工芸、これらの免許をひとつの学科で取得する申請行為は、これまでの常識では考えられない本学の一つの大きな特質となりました。 そういう意味においても、改編はほぼ当初思い描いていた通りの枠組みを作ることができましたし、それを国としても公式に認めていただいたことになります。それだけに今後とも全体を見回し大学教育のグランドデザインを描き、推進する人材がいないと、せっかくの可能性に満ちた仕組みも意味がなくなってしまいます。各領域はもちろん、さまざまな部署を率いる先生方にはものすごくプレッシャーがかかってくるでしょう。そこでは自分の専門だけを考えるのではなく、いかに芸術学科という中でものを考えていけるか、全教員がこうした意識を持つことが重要になりますが、特にそこでリーダーとなる先生方になるほど、いつもそのことを念頭に教育環境について考えていなければならないのです。

枠組みは、いよいよ整ったということですね。

 これまで通りの専門性と芸術全般への素養、さらに社会で必要とされ、卒業生がそれぞれの夢を実現させる礎となる教養、これらを教育の中で達成していけるような仕組みを構築していく、これをこの4年間で、より目的に近づけなければなりません。もうほんの数ヶ月後の4月からは、この新しい枠組み学生が入学してきます。これにしっかりと応えていけるようなカリキュラムであり組織を構築していけるように、教職員側も意識を新たにしていかなければなりません。ここまでは学校のかたちを整えることでした。ようやく枠組みは整いました。これからはその中のエネルギーといいますか、それを新しい枠組みに結びつけていくことが必要です。個々の教員や、その集団が培ってきた教育資産であるとか、個別な専門性という宝物を、教育力、ひいては大学のブランド力につなげていくことが大きな仕事ではないかと思います。 新しい枠組みができた上で、入学してくる学生はもちろんのことですが、教職員側にとって新しいやり方で新しい卒業生を輩出していくんだ、という強い意識がやはり必要です。今後改革を成功に繋げるためには、これを支える側にもこの新しい「BORDERLESS」という改革に希望を感じるような、さまざまな角度からの施策も今後必要ではないかと感じています。

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