特集

48号(2019年7月発行)掲載

ダンスパフォーマンスコース特別客員教授
ケント・モリ氏による特別講義を開催

 GW明けの5月9日、ダンスパフォーマンスコース 特別客員教授 ケント・モリ氏が来学され、特別講義が行われました。ケント・モリ氏は、愛知県の出身。講義の前に伺ったお話では、「愛知は自分にとって地元といえる場所。東京や大阪といった都会ではない場所からでも自分はダンサーとして世界を巡ってきた。どんな場所からでも、ハートさえあれば必ずできる。このことを自分自身が実証しており、次なる若い世代ならもっともっと超えられるはず。学生のみなさんにとっても、自分自身にとっても、今日の講義は素晴らしいチャンスになる」と力強い言葉をいただきました。
 特別講義は、ダンスパフォーマンスコース、ミュージカルコースの学生が受講。まずは、全員がケント氏に自分のパフォーマンスを見てもらうことから始まりました。腰を下ろし見守るケント氏を前に、学生たちは臆することなく、それぞれ元気いっぱいのダンスと歌を披露しました。パフォーマンスに対してケント氏は、それぞれの試みを高く評価し、「ダンスもコミュニケーションと同じで、相手に伝えたいことをしっかりと伝えること」「伝えるための技術として、指先まで神経を使い、抑揚をつけたり、タイミングをずらしたりすることで見る人の視線を見せたい場所へ集めることができる」など、ひとりひとりに熱心にアドバイスを与えてくれました。
 学生たちのパフォーマンスにケント氏も大いに発奮した様子で、お礼のパフォーマンスを披露してくれました。目が離せなくなるような一挙手一投足、すごみを感じさせる魅せるダンスに、講義は大いに盛り上がりました。
 その後、ケント氏は学生たちと一緒にウオーミングアップ。ケント氏オリジナルの楽曲で、身体を動かします。まるでライブコンサートのような楽しさで、学生たちも息を弾ませます。そして、ケント氏は、未公開の妖怪をモチーフとしたオリジナルの楽曲を用意、学生たちに自由にゾンビを表現するよう指示を出し、振り付けを始めました。学生たちは、1時間ほどかけて、しっかりと振り付けを覚え、それぞれが自由にゾンビをダンスで表現しました。通しでは、2つのチームに分かれて、それぞれのダンスを観察し人の動きを確認し、ひとつひとつの動きを大切にするように説明します。
 講義を通して印象に残ったのは、学生たちの、まだ未熟なダンスであっても、個性と面白い部分を見いだして高く評価し、学生たちの可能性を広げようとするケント氏の姿勢。さらに、学生の反応に感化されてケント氏が動く、それにまた学生が感化されて…と、相乗効果で全体が高まっていく様子には感銘を受けました。

 ダンスの後は、大アンサンブル室での公開講座となりました。1時間ほど、ケント氏に自由に質問し、そのことについてディスカッションするという形式で行われました。始めにケント氏から、「今、この瞬間をできるだけ有効に活用して一緒に何かを作り出そう。この時間を一緒にものにしよう」と宣言がありました。ダンスを始めたきっかけに始まり、上手くいかないときはどうするか、やめたくなったときはあるか、自分のスタイルをどうやって見つけたか、がむしゃらにやってきたか、それともコツコツか、などなど、学生からいくつもの質問が出されました。質問のひとつひとつに丁寧に答えながら、壁に当たったとき、やめたくなるようなときには幅広く考えや見方を変えること、ダンスに絶対的な答えはなく、自分が良いと思ったことを追求すればいいこと、そうして人真似や人の評価に頼るのではなく、自分自身のダンスのスタイルを作り上げていくことが大事だと説きます。見えていることだけがすべてではなく、感じることや気持ちを表現することが重要だと話しました。また、「こうでなければならないというものはなく、自分だけのかたちを追求していって欲しい。そのためにできることがあれば、今すぐ始めるべき」と強く訴えました。熱の入ったケント氏の言葉に、学生たちからも多くの意見が出され、非常に有意義な講義となりました。

音楽領域  ダンスパフォーマンスコース  特別客員教授 ケント・モリ氏

音楽領域 ダンスパフォーマンスコース 特別客員教授

ケント・モリ

大学の客員教授、どんなふうにお感じですか?

とてもうれしいです。ワクワクしてます。学生のみなさんには、この機会を最大限に生かして欲しいなと考えています。今、僕がこういう立場にいますが、若い人たちにはもっと大きな可能性があります。次の世代なら、僕ができたことよりももっと超えたことができるようになると思います。こうして大学で教えることができるのは、学生のみなさんにも僕自身にとっても素晴らしいチャンスで、とても光栄に感じています。

自分が思っていることを実現して叶える。そこで大事なことはどんなことですか?

クサい文句かもしれませんが、“ハート”ですね。ハート以外、ありません。表面的なテクニックはメッキと同じで剥がれてしまうものですが、内に秘めるハートはそうではありません。ハートひとつで、人間、どんなことでもできます。僕のいるエンターテインメントの世界では、何がいつどうなるかわかりません。誰かが保証してくれるわけではありません。常に真剣勝負、僕はそういうつもりでいます。

上手くいかないときなど、どうやって乗り越えましたか?

やっぱりハートですね。男たるもの、やると決めたことはやりきる、それだけです。熱い思い、これ以外にありません。人生のレールを誰かが敷いてくれるわけではないですし、誰かが最後まで面倒を見てくれるわけではありません。最後は自分です。ダンスに限らず、作品を創るというとき、誰かがこう描いてるから、こういうものがあるから真似すればいいというものではないですよね。最終的には自分で決めて、自分で創っていく。それと同じことだと思います。自分でやりきる、その思い、それを一言でいうと心、つまりハートでしかないですよね。

アートについてお考えを教えて下さい

ダンスや音楽、もっと広くアートに対して、一番魅力に感じている部分は、言葉や時代を超えてしまうことです。クラシック音楽など100年も前のメロディーが奏でられると、その曲が作られた当時の雰囲気を感じ、当時聴いていた人が感じたことと同じことを感じることができます。アートは、時代を超え、言葉を超えて、そのときのフィーリングや思いを伝えてくれます。ものすごいパワーです。しかも、そのアートを見たり、聴いたりしている人が同じ気持ちでひとつになっています。その瞬間、皆同じ気持ちでいて、喧嘩したり、いがみ合ったりすることなく、人間として存在しています。それを感じさせてくれるのがアートだと思います。ダンスも音楽も美術も、同じですよね。
地球のどこにいても素晴らしいものは素晴らしく、みんなにチャンスがあって、何か表現したものは必ず海を越えて伝わると思います。僕自身、この大学でやることにすごく可能性を感じています。本当にシンプルに、学生たちが盛り上がってくれたらなと期待しています。ダンスだけでなくいろいろな創造物が、何の壁もなく世界につながって広がっていってくれればいいなと思っています。そういうことのできる若い人たちに、どんどん出てきて欲しいですね。