株式会社菊谷生進堂×インダストリアル&セラミックデザインコース
「お香文化を楽しむ新しい道具のデザイン開発 (香源プロジェクト)」始動

 デザイン領域 インダストリアル&セラミックデザインコースでは、株式会社菊谷生進堂(以下、菊谷生進堂)と連携し、「お香文化を楽しむ新しい道具のデザイン開発 (香源プロジェクト)」という、お香文化を楽しむ道具を提案するというプロジェクトに取り組んでいます。
 菊谷生進堂は、「香源」というブランドで名古屋市に本社、銀座、上野にも店舗を置くお香の老舗。インターネット販売や海外への通信販売を手がけるなど、お香についての情報発信、新しい商品やサービスの提案を通し、お香文化を広く伝えることを経営理念として活動しています。今回のプロジェクトでは、お香文化の歴史や伝統を踏まえつつ、現代の生活にマッチした香源ブランドの新商品のコンセプトを考案し提案するというものです。
 2021年7月1日に行われた授業は、プロジェクトの第1回で菊谷生進堂 菊谷勝彦代表取締役社長にお越しいただき、予備知識としてお香についての講義を行っていただきました。

 講義に先立ち、担当する後藤規文教授から、学生はお香について馴染みがないかもしれないが、今回に限らずプロダクトを考える上では「コト」というところから発想することがとても大事であり、「モノ」を作る前にその世界観をできるだけ拡げて考えて欲しい。デザインの提案というと不便を見つけその問題を解決するというやり方で普段は考えているが、今回は理想的な生活の創造、お香という馴染みのないものを自分の生活に取り入れるためにはどうあるべきか、どんな道具があればいいか、そうしたことを考えてその世界観を模索して欲しい、とプロジェクトの趣旨が説明されました。

 菊谷氏の講義は、お香の素材、たくさんのお香の商品、お香を楽しむための道具が用意され、文字通り香りを感じながらのお話となりました。はじめに菊谷氏からは、お香屋さんが考えるとこういう商品になってしまう、今回はこうした現状をお伝えするので学生の皆さんでぜひ新しいものを考えて欲しい、いわばこちらからの悩み相談です、と挨拶がありました。
 講座は、まずお香の基本的なことの説明から始まりました。お香には七種類あるといいます。ひとつ目はお香の原料にもなる香木。白檀、沈香、伽羅の三種類で、香炉で熱を加えると香るものです。香木は、線香や匂い袋の原料にもなるお香の中心となるもので、非常に高価なものでもあります。二つ目は匂い袋で、香木や香原料を刻んで常温で香りが出るようにしたもので、火を使えない場所でも香りを楽しむことができます。もともとは虫除けとして使われたのがはじまりといいます。ほかには、茶の湯の席で使われるお香の原料に蜜を入れて練った煉香、一般的に知られよく使われている線香、葬儀や法事で使われる香木や香草などを細かく刻んで混ぜ合わせた焼香、仏教で身体に塗り身を清めるために使う香原料をパウダーにして携帯できる入れ物に入れた塗香(ずこう)、椨(タブノキ)を粉末にし香木や焼香を焚くときの導火線の役割として使う抹香。これら七種類のお香を紹介しつつ、場や自身を清めるために使われたことや、燃え終わるまで一定の時間がかかるため時間を計るタイマーのように使われたことなど、お香の役割を説明していただきました。また、それにあわせ、これまでに企画された商品の紹介、燃やすタイプのものであれば灰が落ちることや燃えない部分が残ってしまう香炉の問題なども紹介してしていただきました。
 お香の文化としては、時間を計るための時香盤といった道具や古典に登場するお香のエピソード、香りの異同を鑑賞する香道とそこで用いられる源氏香の図、香道と名古屋にお香が伝わった歴史的な背景なども解説していただきました。

 説明のあと、学生らは、実際にお香を焚いて香りを確認したり、香木そのものや香炉、商品を手に取りパッケージや問題点を個別に聞き取ったりしました。学生らは、自分の生活や利用シーンを想像し、さっそくアイデアを検討している様子でした。このあと講義は7週に渡り行われ、8月に最終プレゼンテーション、展示発表が行われます。新しい視点でのアイデアが期待されます。