ワールドミュージック・カルチャーコース
岡野弘幹氏、三上賢治氏、中村岳氏による特別講義
「民族楽器が持つ生命力への影響と可能性」を開催

 2020年12月10日、東キャンパス2号館 大アンサンブル室にて特別客員教授 岡野弘幹氏、ディジュリドゥ奏者 三上賢治氏、カホン奏者 中村岳氏を迎えて、特別講義「民族楽器が持つ生命力への影響と可能性」を開催しました。民族楽器とその楽器の背景についてお話しいただき、演奏とその精神に触れることで、音楽が持つ生命力への影響と可能性について考える講義です。

 演奏の前に、岡野氏からこれまでの経験を交え、民族音楽とのかかわりや自然界の音と音楽についてのお話がありました。岡野氏は、ドイツのレーベルと契約したあとのこと、年に1枚ずつアルバムを制作しなければならない契約にもかかわらず左手首を複雑骨折し、楽器の演奏ができなくなってしまいます。その頃、たまたま聞いた風鈴の音を風が音楽を演奏しているととらえ、音程が異なる風鈴を数多く用意し自然の中に設置、その場所ごとの自然音と一体となったサウンド・インスタレーションを制作する着想を得ます。ここから自然を録音する仕事に取り組み、自然界そのものが音楽であることに気が付いたといいます。生体音響学者 バーニー・クラウス博士を引用し、「自然界の音は不協和音ではなく、生物ごとの鳴き声や発する音は周波数帯域が異なり、オーケストラと同じように調和がとれている」という考え方を紹介して、音楽の幅の広さを感じ、人間も自然界の中にいるという感覚を持つことが大事ではないかと説明しました。音の波長を視覚化するサイマティクスの研究を紹介し、民族音楽は太古から続くものであり、心に響く音で精神を安定させ自身を癒すような効果もあり、長い歴史の中で得られた人間の英知のようなものが含まれているのではないかと話します。マサイ族が地球そのものを楽器ととらえジャンプすることで太鼓のように叩いているといったことや、世界中で出会った音と人の関係について紹介し、五線紙に書かれた音以外にも自然界には音楽があふれていると説明しました。自分の心や感覚をもっと大事にし、音楽に生かすことがますます大事になっていくのではないかとまとめました。

 後半は、ディジュリドゥ奏者 三上賢治氏、カホン奏者 中村岳氏も加わり、演奏となりました。岡野氏は、三上氏についてディジュリドゥを日本に紹介したパイオニアの一人と紹介。92年にカメラマンとして岡野氏に同行したイギリスでディジュリドゥと出会い、その後、カメラマンを辞めディジュリドゥ奏者になってしまったという異色の経歴を持ちます。2001年からは、オーストラリア、ノーザンテリトリー州へ渡り、ディジュリドゥマスターのジャルー・グルウィウィ氏から伝統的な演奏方法を学んだことなど、写真を交えて紹介していただきました。ディジュリドゥは1000年以上前から存在する世界最古の楽器の一つといわれており、雨期と乾期の気候が激しいオーストラリアの北部のごく一部の地方でしか作ることができないものだそうで、芯をシロアリが食べ筒状になったユーカリの木から作ります。表面には、4色でヘビ、ワニ、植物などの模様が描かれ、その形だけでも非常に魅力的な楽器です。楽器とともに、その背景となるアボリジニの人々の暮らしや文化、祭りなどを紹介。ディジュリドゥがどのように結びついているかを説明しました。
 続いて、日本でもっとも尊敬するパーカッショニストであると岡野氏が紹介する中、中村岳氏が登場。この日は、カホンのほか、マリンバの原型となったアフリカのバラフォンという楽器、ブラジルのカシシ、瓢箪のまわりにビーズを通した網で覆ったキューバのチェケレを紹介、しかも、いずれの楽器も中村氏の手製であると説明します。カホンについて、箱に座って演奏するスタイルはペルーで発達、それをフラメンコのギタリスト パコ・デ・ルシアが取り入れフラメンコで広く使われるようになり、90年代のアンプラグドブームでドラムセットの代わりとしてポピュラーミュージックにも拡がったと、カホンの歴史について説明しました。低音から高音まで出せドラムセットの代わりとなる打楽器としては、カホンのほか、アフリカのジャンベ、ブラジルのパンデーロの3つがありますが、その中でもカホンが広く使われているのが現状だといいます。
 民族楽器は世界をめぐり、使う人によって新しい使い方が生まれ進化していっていると岡野氏はいいます。そのことがワールドミュージックの大きな力になっているのではないか説明しました。

ディジュリドゥ奏者 三上賢治氏

カホン奏者 中村岳氏

 紹介のあとはいよいよ演奏です。3人の息の合ったセッションが始まりました。1曲目は、ネイティブアメリカンフルート、ディジュリドゥ、カホン、バラフォンで演奏。演奏が始まった瞬間、独特な音色と幻想的な雰囲気に会場は包まれました。2曲目は、ギリシアの弦楽器がアイルランドで使われるようになりそこで生まれたフラットブズーキを用いた曲です。アップテンポでノリのよい曲ながら哀愁が漂います。最後は、ネイティブアメリカン曲を会場と一緒に歌い、大いに盛り上げました。
 岡野氏は、自分も長くワールドミュージックにかかわってきているが、長く続けること、やりたいことを思いきってやってみること、それらが新しいつながりを作り、新しい音楽を作っていくことにつながっている、興味があることを、ぜひ、思いきってやって欲しいと講義をまとめました。

 演奏終了後も、学生らは演者と楽器のまわりに集まり、個々に質問したり説明を受けたり、演奏の余韻に浸っているようでした。