舞台芸術領域 開設記念事業

「演劇/第七劇場 oboro」

 新型コロナウィルスの予想しなかったパンデミックは、世界中の舞台芸術に大きな影響を及ぼしています。多くの関係者たちが、舞台芸術や、広く文化芸術の意味、意義、目的と直面せざるを得ない事態に陥ったと言えます。そこから生まれた葛藤、目の前の脅威や迫り来る不安との戦いは、まだ続いています。魅惑的な劇場が閉鎖空間であることも、突きつけられました。

 しかしこの衝撃は、劇場で行われる舞台芸術と、劇場の外にある社会との接点に、私たち関係者の目を向けさせる強制力も持っていました。オンラインでの配信、さまざまな場所での短時間の上演、非接触のワークショップ、これまでの上演作品のアーカイブ化、リアルとオンラインのハイブリッド上演、上演後のオンライン鑑賞会。なぜ今までやらなかったのか、というくらいに数多のアイディアが次々に実現されていきました。舞台芸術は誰かの力になれるのか、誰かの苦しみや悲しみに寄り添えるのか、迷う誰かに勇気を与えられるのか、そして背中を押すことができるのかを考える機会を与えられたことで、舞台芸術は広がりを見せているのです。

 「舞台に立つだけが舞台芸術の全部じゃない、あなたが舞台をつくる」をコンセプトとして、名古屋芸術大学芸術学部に2021年4月に開設した舞台芸術領域。今回、その開設記念公演では、現代の舞台芸術の在り方そのものを反映した作品をラインナップしました。

2022年3月
舞台芸術領域主任 梶田美香

「oboro」

 目の前のあの人は現実か、それとも夢か。今この時間は現実か、私の夢か、それとも誰かの夢かー。

 コンビニで働く東と七月、そして七月の恋人の三郷が生きる「いくつもの」日常。いつも、何度も目覚め続けるそれは、誰かの夢のようで、私の夢のようで、いつもいつのまにか重みを失う。私も、あなたも、この張り紙に写るあのひとと同じように、存在することも、存在していたことも曖昧になっていく。

 北九州を拠点に活動する気鋭の劇作家・穴迫信一の書き下ろし新作短編を、第七劇場・鳴海康平の演出で、2021年6月に初演された作品。舞台芸術領域開設記念事業のための特別版での再演。

作:穴迫信一
出演:諏訪七海 増田知就
演出:鳴海康平