卒業/修了制作展記念講演 ひびのこづえさん「ふくであそぼ」

 2025年2月16日(日)、卒業/修了制作展記念講演会として、ひびのこづえさんの講演「ふくであそぼ」を開催しました。
 ひびのこづえさんは、東京藝術大学デザイン科を卒業後、グラフィックデザインを志すも、就職活動の過程で当時の社会における女性デザイナーの採用の難しさに直面しました。その後、ファッション業界に進み、偶然の出会いから衣装デザインの道を歩み始めました。
 大学卒業後、グラフィックデザインの仕事を希望していたものの、知人の紹介でアパレルブランドのデザイン部に所属。しかし、最初はブランドイメージを表現することに苦戦し、試行錯誤の日々を送ります。そこでの経験を通じて、単なるロゴやグラフィックではなく、服そのものが持つストーリー性や表現の可能性に気づきました。
 最初の大きな転機は、「日常にあるオブジェを頭に載せる衣装」 というアイデアでした。たとえば、タンスや階段などの形状をそのまま衣装に組み込むことで、平面デザインを立体化する試みを行いました。これによって、「衣装=着るためのもの」という固定概念を超え、「身体とともに動くアート」としての新たな表現方法を確立しました。
 その後、コム・デ・ギャルソンンのショーで、クラゲやイソギンチャクをモチーフにした帽子を制作、帽子を単なるファッションアイテムではなく、頭の上に載せる立体的な造形物として帽子を捉え直しました。2003年からはNHK Eテレ「にほんごであそぼ」の衣装デザインを担当し、子ども向け番組でありながら、人にも響くビジュアル表現を目指し、日本の伝統文化や言葉の持つリズム、視覚的な形で立体化しました。さらに、野田秀樹氏の舞台作品やオペラの衣装デザインにも携わり、演劇の世界でも活躍の幅を広げました。

 ひびのさんの作品は、グラフィックデザインの発想を取り入れながらも単なる装飾ではなく、動きや空間との関係を意識した立体造形 になっています。服そのものが完成形ではなく、人が身に着け、動くことで初めて完成するという考え方が根底にあります。そのため、衣装を制作する際には、動き・空間・素材の特性を最大限に活かす工夫がなされています。
 着る人がどのように動くか、また動きによって衣装がどのように変化するかを常に意識し、特に舞台衣装やダンスパフォーマンスの衣装では、動いたときに美しく見えるように設計されているのが特徴です。スカートや袖の形を工夫し動くたびに布が流れるように見えるデザイン、軽やかな素材を使いダンサーがジャンプしたときに服がふわっと浮くようにしたり、手を上げたときに特定の模様が見えることや腕を振ると布が波打つなど動作とデザインを一体化するよう、さまざまな工夫が凝らされています。

 「グラフィックを立体で表現する」という考え方は、衣装を単なるファッションではなく身体と一体化するアート作品へと昇華させる発想から生まれています。素材の特性や動きとの調和を考えながら、静的なデザインを動きのある造形物へと変換することで、観る人に新しい驚きや感動を与える表現 を追求し続けています。
 学生たちへのメッセージとして、最後までやり切ること、肩書きにとらわれず自分の表現を探し続けること、旅をして視野を広げる、好きなことを突き詰めることを挙げ、自分だけの表現やスタイルを確立することが重要だと強調しました。