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第19回 私の研究を語る

研究テーマ:ドイツのトーンマイスター教育とクラシック音楽の録音事情について 日時 2014年2月19日 (水)17:30-19:00 会場 東キャンパス 1号館701教室 発表者 音楽学部 音楽文化創造学科 講師 長江和哉 主幹 全学図書委員会 2012年4月より1年間、ベルリンに滞在して行った、トーンマイスター教育とクラシック音楽録音についての研究調査の報告です。研究場所はドイツの首都ベルリンで、トーンマイスター教育とその録音についての研究を行いました。具体的にはベルリン芸術大学のトーンマイスターコースの入試、カリキュラム、卒業試験の内容を翻訳し、聴講生として授業、録音実習、卒業試験を聴講。また、教員・学生と交流を持ちながらヒアリングを行いました。  ドイツでは、1949年昭和24年から音楽大学で、レコーディングプロデューサーとバランスエンジニアの両方の能力を兼ね備えた、「トーンマイスター」を養成するコースが設けられてきました。Tonはドイツ語で音、meisterはドイツの資格制度の意味であり、トーンマイスター(Tonmeister)とは、録音の専門資格です。英語では、サウンドエンジニア(sound engineer)に当たりますが、技術的な部分のみでなく、音楽を録音する際の芸術的な部分と技術的な部分の両方の役割を果たしています。そのため、音楽的な理解が必要で、創造的な作業ができるよう、音楽を聞き分ける能力と技術的な知識が必要です。その仕事は、音楽や映像メディアの録音制作・コンサートの音響などであり、演奏家と聴き手をつなぐのが役割です。トーンマイスターの誕生は、第二次大戦後、大衆がラジオやレコードといった「新しいメディアを通じて音楽を聴く」という機会が急速に浸透し、技術的な知識と音楽的な知識・センスを持った音の専門家が必要となったことがそのきっかけとなりました。  私が聴講したベルリン芸術大学トーンマイスターコースの入学条件には、ドイツの大学に入るための大学入学資格が必要で、外国人の場合はドイツ語も必須。C2検定資格、芸術的な素質と才能、聴力(100Hz~10kHzまでの聴力を証明する医師が発行する証明書)が必要です。可聴周波数の広域の上限が年齢とともに下がるため、入学時の年齢が28歳までと明示されています。入学試験は、バチェラー(学士)の場合、7つの試験が2日間にわたり行われ、試験の内容は、聴音筆記試験や和声学の理論に基づいた筆記試験、専科楽器の演奏と必修ピアノとなっており、非常に高度な内容となっています。  次にカリキュラムですが、バチェラーを取得するには8ゼメスター以上在籍し、音楽録音基礎やスタジオ技術基礎などの10に区分される専門学群を修め、計240単位の取得が必要です。また、週1時間のレッスンが行われる専科の演奏と必修ピアノに73単位と、もっとも多くの単位が割り当てられます。特色としては、クラシック音楽の録音を基本としながらも、ポピュラー音楽や映像分野の録音も選択できるようになっています。ただし、多くの学生がクラシック音楽の録音を専門としています。 一方、マスター(修士)の取得には2ゼメスター以上在籍し、音楽録音や録音芸術の実践など4つに区分される専門学群を修め、計60単位が必要です。こちらの特色は、クラシック音楽・ポピュラー音楽・映像音楽のいずれかから一つを選択します。同時にそれが卒業試験の課題内容となります。  最後に卒業試験ですが、クラシック音楽を専攻している場合、ベルリン芸術大学オーケストラによる交響曲の演奏を実際にセッション録音します。受験学生は二人一組で、音楽監督とバランスエンジニアを交互に担当し、音楽的な助言と適切な録音技術でオーケストラ録音が行えるかを問うものでした。 以上、ベルリン芸術大学トーンマイスターコースの入試試験、カリキュラム、卒業試験を詳細に見て、その特徴としては以下があげられ、今後の音楽大学における録音の教育に日本の現状にあわせながら、取り入れていくことが必要であると思います。 1.特徴として以下のaからcが挙げられ、これらが音楽家から信頼される要素になります。 a)演奏家と同等の高い演奏能力の習得 b)演奏家と同等以上の音を聴き分ける能力の訓練 c)芸術性を養うための音楽基礎理論や音楽学の習得 2.各科目内容が明確で、最終的には録音芸術を研究していく内容を持つ。 3.従って、その内容に沿って学生自身が何を勉強していくかが明瞭である。 4.卒業試験のテーマが「いかにして芸術的な録音を行っていくか」である。 続いて、トーンマイスターの実際の録音についての研究です。CDプロダクションや放送中継におけるトーンマイスターの仕事の実態を調査するため、約30件の録音中継のセッションに加わり、見学する機会を得られました。その中でも、ドイツ公共放送ドイチュラントラディオ・クルトゥアーによるベルリン・フィルハーモニーのラジオ中継・録音をご紹介いたします。  こちらは2012年4月15日に行われたコンサートで、収録は1963年に竣工した旧西ベルリン側にあるコンサートホールで行われました。大ホールの最上階に録音・中継コントロールルームがあり、小ホール、映像スタジオ、中継車スペースまで光ファイバー接続されています。また、天井より電動吊りマイクシステムが30個設置されており、省力化をしながら、音質や音楽性を最優先にした設備が整っています。スタッフは2人のトーンマイスターと2人のトーンエンジニアで構成されており、役割分担して助け合いながら中継を行います。音楽監督のトーンマイスターがスコアを先読みし、客観的にミキシングを担当するトーンマイスターにバランスの指示を出していっていました。  最後に、私が専任講師として担当する名古屋芸術大学のサウンドメディアコースには、音楽を制作する学生や私のように録音したりする学生、コンサートのPAを目指す学生たちが在籍し、勉強に励んでいます。音楽大学で録音・音響を学ぶには、音楽家として音楽に接することが最も重要で、そのためには演奏者と同じように演奏を勉強し、さらに理論や音楽学を学び、また、曲を作りながら音楽の構造を理解していくことが必要です。これは、ドイツでトーンマイスターになるための勉強やその仕事ぶりを実際に見て、私自身が感じたことです。技術的な側面は卒業後でも十分に勉強していけるので、大学では音楽の基本を学ばなければいけません。サウンドメディアコースでは、2年に一度、ドイツからトーンマイスターを招き、ワークショップを行っています。学生たちはその録音に触れ、どのようなことを考えていけばいいのかを実践しています。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。