名古屋芸術大学

久保田 進子

音楽文化創造学科  教授

音楽療法コースで培った知識や技能を発展、
社会に音楽を生かす

音楽ケアデザインコースが目指すところを教えて下さい

 2001年に音楽療法コースができまして、そこから14年が経ちました。今回が初めての見直しとなります。この間の社会の動きに応じ、音楽療法コースをさらに広げ社会のニーズに応えられるコースをと考えています。音楽ケアデザインというと、ちょっと伝わりにくいかもしれませんが、ケアワークショップデザイン、音楽を使ったケアを行う場合の、プランを立てられる人材、ケアワークショップのデザイナー、プランナーを育成するコースとなります。
 狙いとして大きく2つのことがあります。最近では全世界的に高齢者の問題があります。日本での場合、認知症になってしまわれた方の問題が大きくクローズアップされていますが、厚生労働省では認知症の予防に重点がおかれ、数年前から、認知症予防の取り組みが行われています。いろんな地域や自治体で研究が行われていますが、私は、2013年から、大府市にある国立長寿研究センターが行う認知症予防プログラム開発に、分担研究員として携わってきました。学習プログラムは出来上がりましたが、それをどうやって普及させていくかという問題があります。これからは、こういった講座ができる人、先頭に立ってプランを立てられる人、そういう人材の育成が急務といえます。音楽療法士の仕事に近いところで、一緒に結びつけてやってみてはというのが、大きな狙いです。
 もう一つは、これまで、授業外で行われてきたアートとのコラボレーションです。美術学部、デザイン学部との合同の動きですね。これらをもっと発展させて、カリキュラムの中に取り入れて、他学部と共同して作っていくことを考えています。実際のカリキュラムについては、まだこれからの作成になりますが、それぞれ専門性の高い分野の学生たちと、学部単位ではなく、一緒になって物事を進めていけるような学生を育てていけたらと考えています。

これまでの音楽療法コースと同じように、音楽療法士としての知識と技術を学ぶということに加え、ケアデザインも専門的に学ぶことができるようになるということでしょうか?

 音楽ケアデザインコースを選択していれば、音楽療法士の資格を希望があれば取得することができます。これは、今までと同じです。音楽ケアデザインコースになって変更される部分は、音楽療法士を取得しない場合でも、自治体の職員あるいは施設の職員となってケアプログラムを作ることのできる人、その育成もしますということになります。具体的には、音楽療法士とケアデザイナーは、3年時にカリキュラムを選択することで分かれます。音楽の構造も勉強し、状況に応じた音楽を使う、あるいは、合ったものがなければ作曲する、即興で演奏するなど、それができる知識と技術を身につけた人を育成したいと考えています。

卒業後の進路についてはいかがでしょうか?

 音楽療法コースの卒業生は、ほとんどが医療機関や福祉施設などに就職している状況ですが、音楽療法士を取得しない場合は、療法士としての専門性は薄まりますが、音楽ケアや、健康と音楽に係わる仕事全般、医療機関や福祉施設の他にも様々な分野が想定されます。例えば、現在は楽器店では、健康と音楽講座、いきいき音楽教室など、高齢者を対象にした音楽講座が数多く開催されています。健康講座を開催する自治体、楽器店、スポーツクラブなども就職先として考えられます。近年では、音楽療法コースの就職状況は非常によく、多くの求人が本学に来ています。音楽療法士をはじめ、音楽と健康に係わる仕事の現場では人材が不足している状況で、卒業後の進路については、大学側としても心配はしていません。関連領域も含めて、音楽療法士とケアデザインを学んだ人とが、連携して仕事を進めていけるようになるのではないかと考えています。そういった意味では、社会のニーズに応える形で新しいコースを設立していると考えてもらった方がいいのではないかと思います。

伊藤 孝子

音楽文化創造学科主任 准教授

人と地域、人と人、キーワードは「つなぐ」

カリキュラムについて、音楽療法との違いはどんなことでしょう?

 音楽療法とケアデザインの分野は、完全に分かれていて違う仕事というわけではなくつながっている部分があります。音楽療法士の場合は、医療現場、福祉の施設などで、例えば自閉症の子や認知症や失語症の方などに適切な音楽と活動はどういうことかということを考えてそれを行い、学校へ戻って自分たちが行った音楽プログラムがどうであったかを評価し、次につなげるという活動をしています。ケアデザインでは、もう少し広い概念で音楽と人の関係を捉えています。活動する場所としても病院や福祉施設に限らず、例えば、北名古屋市であれば「回想法センター」や、このところ、学生たちの間で広まってきている保育園児と地域の高齢者が一緒に季節の行事や遊びを楽しむ「お楽しみ会」というものに参加します。医療現場ではなく、地域の人たちの集いがあって、そこへ学生たちが音楽を持って行って参加し、その場にいる方々にあった音楽を演奏しコミュニケーションを活性化させる、そんなことをやっていきます。

「旧加藤邸アートプロジェクト」のようなものでしょうか?

 昨年は、美術学部が主体となって回想法センターでアートプロジェクトをやり、その音楽イベントを音楽療法コースで担当させていただいたんですが、作品とのコラボレーションであるとか作品の中で演奏するとか、すごく可能性のあるこれからの分野だと考えています。昨年の場合は授業外だったのですが、今度からはカリキュラムとして組み入れることになります。カリキュラムの内容ですが、アートプロジェクトのような地域のケアデザインワークショップというものが一つの核になってくると思います。いく先としては、認知症の方にというよりも認知症になる前の方とか、そのことに気をつけている高齢者の方とか、病院や施設でないところで楽しみながらケアをやっていく、そんなイメージです。教員と一緒にその場のニーズ、どういったことが望まれているのかということをよく聞きその場にあった活動、選曲だとか音楽を作る、場合によっては即興で演奏するということを実際に行います。ヒアリングに始まり、提供するものを作っていくプロセス全体が、講義の内容です。決まったものを提供するだけではなく、ニーズを把握する方法、ニーズに合わせて学んだものをアレンジしてふさわしい形にして提供する、このことをしっかりとやっていきたいと考えています。そのプロセスの中で、美術やデザインの学生と一緒に作業をできないないかと、現在、調整しています。

音楽を使ってコミュニケーションすること全体がカリキュラムに含まれるということですね。

 「つなげる」ということが大きなキーワードです。地域の方、障害を持っている方だけでなくその家族、障害のことを理解してもらえないことや地域とつながりづらいとか、障害を持つ方と、家族・地域とのコミュニケーションにはたくさんの問題が含まれています。同じ障害を持っている人同士のコミュニティはありますが、地域の中ではコミュニケーションがない、そういったことがあります。音楽というのは、そういったつながりを作っていくことが得意だと思います。地域の和だとか障害を持っている人、持っていない人とか、いろいろなことをつないでいくようなことが望まれています。

 これまでの音楽療法コースの学生を見ていると、吹奏楽部出身や小さいころからピアノをやっているような学生が多かったのですが、最近になってそれらに加えバンド活動をやっている学生が増えてきました。そういった学生は音楽を通して輪の中に入っていくようなことが上手なんですよね。演奏が完ぺきじゃなくても、楽しさをアピールして上手に入っていける。これがとてもいいと思います。これからの時代、フォーク世代の方たちが対象として増えてきます。コミュニケーションするのにギターや70年代の音楽というものがますます大事になっていくと考えられ、バンドをやっている学生はそれが活かせるのではないかと思っています。

和太鼓を使った認知症予防プログラムを実演。文字で表した譜面を見ながら太鼓をたたく。脳を使いながら運動を行うというプログラムに、音楽は最適。

音楽療法、音楽ケアには多様な楽器が用いられる。久保田先生が抱えているのは、たて琴のライアー。簡単に演奏できる打楽器をはじめ、各国の民族楽器や音の出る玩具などが集められている。楽器には自由に鳴らしても不快な音が出ないよう音階が調整されているものもある。

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