名古屋芸術大学

境界なき時代に、大学が何を為すべきか
名古屋芸術大学だからできる改革を

名古屋芸術大学
学長 竹本義明

大学改革の狙い
名古屋芸術大学 学長に聞く

ボーダーレスの時代に対応する

-改編の背景についてどのようにお考えですか?

 本学は、1970年創立ですので、今年度で開学46年目です。当時も音楽と美術という2つの学部、芸術系学部というのは全国でも初めてだったのではないかと思います。そういう中で46年間歩んできましたが、社会の変化のスピードが予想以上に速く、しかも大きく変化してきています。そういう中で教育の中身をもう一度考え直し、次のステップにいくためにはどうすればいいか。常に考えてきました。残念ながら、学内の組織というものはそれほど柔軟なものではなく、それぞれの領域で素晴らしい発想があったとしても、その領域の専攻のみに考えが狭くなりがちな面があります。ここ数年、相乗的な発展を狙った改編を進めてきましたが、もう一つ、全体的な動きになっていかないもどかしさがあります。
 社会、政治経済をはじめとしてすべての分野においてボーダーレス化が進んでいるのが現在だと思います。翻って大学を見ますと、美術学部美術学科、デザイン学部デザイン学科、音楽学部音楽学科、と縦割りです。領域の境目に対して融通が利きにくい形になっています。でも、社会を見ますと実際には美術をやっていながら音楽的な素養も求められる場合もありますし、その逆もあります。まさに芸術が境目のないボーダーレスの時代になっているわけです。それに対応するために本学の枠組みを一度考え直して芸術全般でやっていこうというのがそもそもの発端です。そして、その改革が大学の永続的な発展に寄与することであると思っています。

専門性をより進化、深化させる基礎教養

-芸術学部にまとめる目的はどんなところにあるのでしょう?

 これまで専門教育をやってきた大学ですが、専門をより発展させるためにしっかりとした教養的な土台が必要です。もちろん今までにも教養科目というものがあり、数年前には全学共通教養科目を設置して強化に取り組んできました。しかし、学内の体制がまだ十分だったとはいえず、実際に見てみますと期待するほど機能していない状態でした。それをもう一度リセットし、美術、デザイン、音楽を3つの領域にし、もう一つ芸術教養「リベラルアーツ」を設置して、4つの領域として改めて展開を図っていこうと考えました。
 共通科目を設けるというとなかなか理解されにくいのですが、これまで培ってきた専門性をより磨いていくための改革です。専門性をより深化させるために基礎の部分を4つの領域共通でやっていこうということが目的です。それによって今の時代が求める人材を送り出していけるのではないかと思います。

芸術的な感性が求められている

-教養科目に力を入れ、また、芸術教養領域が新たに設置されます。今、なぜ教養重視なのでしょう?

 一般大学の中に芸術教育を取り入れている大学が、受験者の人気を集めたり、あるいは社会に出て求められている人材として高く評価されてきています。一般大学の流れとして、一般教養の中に芸術科目が入っている大学が増えてきています。なぜ芸術系科目が取り入れられているのかといえば、社会に出たときに芸術的な感性というものが従来よりも強く求められるようになってきているようです。芸術系科目が大学教育の中では欠かせないと従来よりも強く考えられているようで、一般教養の中にその部分を膨らませていくということが現在行われています。本学の場合はちょうどその逆方向で、専門教育の方からそういう方向へ歩み寄っていこうと考えました。それによって大学教育の質の充実、もちろん卒業後のことも見据えて、今回の「融合と再編」を実施します。

表現方法がことなるだけで、芸術は一つでは

-改編で、学生のニーズに大学がしっかりと対応できるようになるということでしょうか?

 最近の傾向としては、大学に入っても目的意識が希薄であるということがあります。専門大学ですが、何をやりたいかがはっきりしないまま入学する学生が数多くいます。4年生になってようやく自分の方向性がわかってくるような、そういった事象が見受けられます。それを無理やり従来のように専門大学に入ってきているので目的意識がはっきりしているだろうと、そのための教育を施すというだけでは、うまくいかなくて当然です。
 また、一方で専門大学ですので入学した時点で技術的なことについて学生ごとに差があります。そこで、差が埋められないとあきらめてしまう学生がいます。そういった学生たちにきちんと目を向けて、4年間の大学生活をしっかりと構築していかねければいけないと思います。新たな目的や才能を見つけ、そこを伸ばしていく必要があります。いろいろなことをやってみたい、自分のやりたいことが見つからないという学生のニーズに対しては、音楽では音楽総合コース、美術ではアートクリエイターコースを設置してきました。それぞれ派手さはないのですが、卒業生は自分の活躍の場所を見つけて巣立っていっています。成功している例なのではないかと思っています。その流れに棹さすというわけではないのですが、美術、デザインをやっている人の中にも音楽にすごく興味があったり、実際に活動していたり、そういう学生もたくさんいます。逆に音楽の方でも美術に興味があったりデザインに興味があったりする学生がいます。本学の場合ですと、領域を超えて総合的に学ぶことができるようになります。芸術というものは、領域に細分化されている部分もありますが、表現方法が違うだけで芸術は一つだと思うんですね。

感性を広げてこそ技術が生きる

-学長ご自身が演奏家でもあります。美術の素養が必要と考えることもありますか?
 私自身、自分で描くことはありませんが、美術が好きです。意外と、演奏家として活躍されている方のお話を伺ったり、書きものを拝見させていただいたりしていると、芸術全般についての造詣が非常に深い方が多いです。音楽をやる、演奏するという技術に留まっているわけではないのですね。磨いてきた技術に、どうやって感性あるいは創造性を生かして色を付けていくか。美術館に行ったり、さまざまな芸術に接して、それが総合的にその技術を花開かせる。そういうことをそれぞれがやられています。
 音を説明するにしても「この音はもう少し悲しい感じに」とか、そのような表現の仕方をします。音を表すときに色で表現したりする場合もあります。根底ではつながるようなところがあるのではいかと思います。活躍されている音楽家の方でも、美術が好きな方はたくさんいらっしゃいますし、自ら絵を描いたりスケッチしたり文章を書いたりいろいろな方がいます。ただ一つの分野に深く入りこんでいくというのは、ただ技術を学んでいるのであって、それをやっているだけでは芸術家とはいえないのではないでしょうか。逆にいえば、技術が不完全であったとしても、感性を広げることによって、芸術家としては成り立つ場合もあると思います。

名古屋芸術大学だからこそできる!

-大きな大学改革です。学生にとっても先生方にとっても戸惑うこともあるかと思います。

 古い先生や卒業生に聞きますと、本学が始まった頃、音楽と美術で発足した頃ですね、現在よりももっと交流があったといいます。お互いにパートナーとして結婚するような学生も何組もあったそうです(笑)。その頃は、校舎は離れていますが境目はなかったんです。本学には、もともと自由な校風がありますから、それをうまく生かしていけばいいのではないかと考えています。本学だからこそできる、そういう改革であると信じています。

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