カーデザインコース 特別客員教授 永島讓二氏 実技特別授業とデザイントーク「ヨーロッパ自動車人生活Ⅱ」を開催

 2022年11月4日(金)~15日(火)、Art & Design Centerにて開催されたカーデザインコース 特別客員教授 永島讓二氏のイラスト展「ヨーロッパ自動車人生活Ⅱ」にあわせ、11日(金)・12日(土)の2日間、カーデザインコース 特別客員教授 永島譲二氏による実技特別授業を実施、12日(土)には西キャンパス B棟 大教室にて公開講座としてデザイントーク「ヨーロッパ自動車人生活Ⅱ」を開催しました。
 永島氏はドイツ ミュンヘン在住、2018年に本学で展覧会とワークショップを開催していますがコロナ禍で途絶え、4年ぶりの開催となりました。

 実技特別授業には、カーデザインコースの学生に加え、インダストリアル&セラミックデザインコース(ID)の学生も参加。IDの学生にとっては不慣れなクルマのスケッチですが、永島氏から直接指導を受ける貴重な機会となりました。
 実技特別授業は、永島氏がまず描き方をデモンストレーションしてみせ、学生が描いている様子を見てスケッチにアドバイスしたり、ときには直接手を加えるという、個別レッスンといった型式で進められます。画材は、ボールペンとカーデザインの世界で広く使われているマーカーのコピック。線画を練習する学生、陰翳をつけて表現する学生、思い思いのスケッチに取り組みました。
 講義のはじめに、永島氏が描きながら、その技法を説明しました。クルマのシルエットを描き、そこへ影を加えていきます。影をつけることで、線だった絵が面として浮かび上がり、立体を感じさせます。さらに色を加えることでスケッチに重さが加わり、クルマの存在感が出てきます。数分という短い時間で鮮やかに立体が描かれる技術に見とれるばかりです。永島氏のイラストでもそうですが、ボディへの写り込みが特徴的で、線でありつつも面を意識させるように表現されています。実際に描いているところを見ると、面を想像しながら描いていることがよくわかります。

 デモのあとは学生がスケッチを始め、それを見ながら個別の指導となります。スケッチを見ながら永島氏が車種にまつわる談話をしますが、それがなんとも印象的。過去に所有していたクルマの話など、個人的な思い入れがデザインに生かされていることが伝わってきます。また、学生によっては、ポートフォリオの作り方についても説明。BMW AG勤務の頃には、デザイナーの採用にも携わっており、その経験を生かしアピールすべき点などを説明していただきました。会話の一つ一つが非常に有用な経験になったのではないかと思われます。
 学生の作品を見ながら、発想の面白いスケッチにはさらにアイデアを良くするブラッシュアップの案も閃いているようで、学生のスケッチに自身のアイデアを書き加えていく様子も見受けられました。

 講義の終わりに、学生らのスケッチを壁に掲示、皆で見ながらアドバイスをいただきました。壁に貼ってみると、パースがよくわかり描いていたときにはわからなかった部分がよくわかります。あらためて、一度離れて客観的に見てみる視点も大事な事だと納得しました。ここでも、面白いアイデアや可能性を感じる作品にどんどんアイデアを付け加え、活発な意見交換が行われました。
 学生らは適度な緊張感とともに集中してスケッチに取り組み、非常に濃密な時間が流れました。永島氏からの薫陶を受け、大いに刺激を受けた特別講義となりました。

 12日(土)のデザイントークには、公開講座とあって学生のみならず、客員教授 木村徹氏(元トヨタ自動車)をはじめ、自動車関連企業で働くカーデザイナーも多数受講。会場には社会人も数多く見受けられました。

 はじめに、永島氏から自己紹介としてBMWで働くようになるまでの経緯が語られました。大学卒業後、親類がいるアメリカデトロイトを訪れ、ウェイン州立大学大学院へ進学。大学に講師として来ていたGM(ゼネラルモーターズ)のデザイナーと出会い、就職の方法(誰にポートフォリオを見せ会うべきか)を聞き、GMへ入社。希望を出してGMの子会社であったオペルへ配属となります。オペルでは、15名ほどのデザイナーが7、8ヶ国から集まっており公用語は英語、80年代の当時すでにグローバル化していたといいます。その後、ヘッドハントされてルノーへ。フランス車は変わったクルマばかりだと思っていたところ実際にパリで見るととても良く見える、その面白さに魅了されたといいます。3年ほど働き、ドイツへ戻りたくなりBMWへ。学生時代、いろいろな自動車メーカーに就職希望の手紙を出したところ、英語の文面にもかかわらずその国の言葉で返してくるのが通常だったといいます。そんな中、英文で返答をくれたのはボルボとBMWだったといいます。そのことが好印象でBMWを選択、以降、定年退職するまで務めます。

 講義の主題は、手を使って描くことの意味、です。デザインや美術の世界でもコンピューターを使うことが増えてきましたが、とりわけ工業デザインの世界では、手で絵を描くことよりコンピューターを使うことが普通になっています。そうした現状を踏まえ、永島氏はコンピューターで制作したカーデザインのスケッチを大量にスクリーンに表示していきます。続いて、キャリア最初のGM時代のスケッチを表示します。デジタルで制作されたスケッチは同じようなテイストになり、メーカーは異なれど特色がわかりにくくなってきます。ところが手描きのスケッチでは、メーカーどころか描いたデザイナーによってタッチが異なり、デザイナーごとに異なった妙味が感じられます。そして、その味がデザインの個性となり製品になっても残っています。また、特に裸婦にスケッチしたもののほうが個性が強く、最初に浮かんだアイデアを手早くカタチにしたもののほうが強さを感じさせるといい、数々のラフスケッチにはその通りの個性があります。 手で描くことの優位性を話す永島氏ですが、BMWでは意外なことにデジタル推進派だったそうで、進んでコンピューターをデザインに取り入れていたとのこと。デジタルでは修正やバリエーションの制作が簡単で大きなメリットもあり、これからはデジタルとアナログの良い部分を補うように使うべきであり、その方法をさらに探求していく必要があると提言しました。

 質疑応答では、現職のデザイナーからも質問が上がり、自動車製造の専門的な話も出ました。印象的だったのは、海外から見た視点です。日本人は細かなところを見る癖があり、もっと意識して全体を捉えるようにすべきといいます。また、日本人が思うより世界は多様で入り交じっているといいそのことをもっと知っておくべきと説き、講義を締めくくりました。