名古屋芸術大学

特集

 景気の停滞が続くなか、企業の新卒者の採用縮小、非正規社員の増大、通年にわたる中途採用の活発化など、新卒者の就職活動を取り巻く環境は、従来にも増して難しいものがあります。就職を考える学生、あるいはご父兄の中にも、今後の就職活動をどのようにすればいいのか、心配されている方がいらっしゃるのではないでしょうか。本学では、学生支援課が中心となってさまざまなキャリア支援を実施しています。従来から行われている、個人の能力に合わせた就職先の紹介や斡旋はもちろん、1年次から自分のキャリアについて考えるガイダンスなど、学生それぞれの意志、環境、能力を確認してはぐくむ施策を用意しています。また、今年度からは、自分のキャリアについて、より具体的に考え伸ばすことのできるカリキュラム「キャリアデザイン講座」を開設しています。
 今号特集ページでは本学のキャリア・サポートの取り組みについてご紹介します。

名古屋芸大の目指すキャリア・サポート
いま、自分に何ができるのか、それをどう活かすかを考える
菅嶋 康浩【学生部長 教授】

 自分に何ができるか、それをどう活かすか、将来の自分の生き方を考えることがキャリアデザインです。その実現を支援することがキャリアサポートと考えています。

 本校は音楽・美術・デザイン・人間発達の4学部があり、異なる特徴を持っています。就職を考え始めるのは人により違っています。従って、キャリアサポートの内容やタイミングもそれぞれに応じていかなければなりません。

 これらを踏まえて、本学では学生の多様な状況に対応できるキャリア・サポートを実施していこうと取り組んでいます。1年次から、適宜ガイダンスを行うのに加え、必要と思ったそのタイミングで学生支援課が対応できるような体制を整えたいと考えています。

 キャリアデザインのガイダンスでは、その時点で就職について考えていない学生にも、自分の方向性を確認していくための機会として、捉えて欲しいと思います。自分が身につけたものを活用し社会で逞しく生きていける力をつけること、それをしっかりと支援していけるようにしたいと考えています。

学年ごとのサポートを実施

 本学では、学生支援課が中心となって、就職活動や進路の決定が行えるように、学年ごとに一貫した、キャリア・サポートプログラムを実施しています。各学年でサポート活動を実施することにより、自分の進路、将来へのキャリアについて意識することができ、もしも進路に変更があった場合でも円滑に対応できるような環境を整えることになります。

 学年ごとに行われる行事は別表にまとめられた内容で、年次に合わせてより具体的になっていきます。1学年では、基礎的学力についてと自分の意志を見つめる機会としての意識調査やガイダンスを行います。2学年では、意志確認に加えてより具体化させたガイダンス、講座などでのアドバイスやインターンシップなどを行い、進路への自覚を高めます。3学年以降は、就職活動のスケジュールやエントリーシートの書き方、面接対策、模擬試験など、実地の就職ガイダンスを実施しています。

個人に合わせた支援

 インターンシップなどは、学部の実情に合わせてカリキュラムの中に反映させることで実施されています。4年間を通して、順次積み重ねていくような施策を実施していますが、現実的に問題がないわけではありません。芸術大学という特性上、学部によっては“就職”という形態をキャリアの終点に置いていいのかという問題があります。実際問題として、より専門性の高い授業を展開するほど、課題や制作に没頭するほど、特に美術、音楽学部の学生では就職という意識は薄らいでいく傾向があるといえます。現実としては、作家、演奏家としてやっていける人材は一握りです。本人の能力に加え、家族や社会の状況にも左右され、意志だけではままならないのが実際です。そういった場合でも、進級などの節目で、意志と状況を確認していくことが本学のキャリアデザインの特徴といえるでしょう。職員、教員も学生と一緒に考え、進路に変更があった場合には目指す方向へサポートする。そのためのサポート体制の見直しと強化を随時進めています。

キャリアデザインのカリキュラムへの反映

 キャリア・サポートは、これまで学生支援課が中心となって展開してきましたが、その支援活動への参加は学生の自主性にゆだねられていました。そのため、問題意識の高い学生は早い段階から支援を利用することができますが、全ての学生が高い目的意識を獲得するまでに至っていないのが、現状といえます。そこで、カリキュラムの中でキャリアについて考えることができる講座を設け、学生たちが選択しやすくしようと考えました。そういった考えで開かれたのが「キャリアデザイン講座」です。企業経営や社会の最前線で実際に働いているOBを講師に迎え、教員だけでは伝えきれない、企業の実際、必要な能力、さらに具体的に欲しい人材についてなどを、グループワークを通して学生たちに伝えるという試みが今年度から始まりました。ファッションブランドの戦略や小売店の改善提案を考えるという具体性の高い課題を通し、組織の一員としてグループで調査、意見の集約、プレゼンテーションを行い、職業観を育み、自ら考えること、他者とのコミュニケーション能力を強化します。

どんな現場でも必要な能力を高める

 今回のキャリアデザイン講座は、1年生のみ履修可能な講座となり、難易度が高すぎるのでは、という危惧もあったそうですが、実際には学生たちに非常に伸びたという評価が得られています。講座最後には、先輩にあたる3年生や専門の先生の前でプレゼンを行いましたが、制作の力量に差はあるものの、チームとしての取り組み、リサーチの進め方、プレゼン能力など、1年生のレベルを大きく超えた内容に驚きの声が聞かれました。あらためて、目的意識の高さや、キャリアの方向性を自覚して参加することの大切さが確認されました。今回は、デザイン学部が中心となる課題となっていますが、求められるのは、コミュニケーション能力やプレゼン能力を高めること、あるいはチームで取り組むことなど、どの現場でも必要なことです。一つ一つの制作スキルではなく、それらの方法を培うため、それぞれのコースに合わせた課題を来年度は準備しています。

チームで課題に取り組む。チーム内での意見集約、プレゼンテーションなどでコミュニケーション能力を強化。実際に社会で必要な能力を養う。

キャリアデザインの第一歩を踏みだそう!
自分の将来について考えよう

 キャリアデザインというのは、就職だけに留まらず、自分の将来を考えることす。自分が将来どんなふうになりたいか、そのために自分が今取り組んでいることは正しい方向なのか、そういったことを考えることが、キャリアデザインのスタートだと言えます。大学の4年間は、自分の意志で決断できる、自分のことだけを考えることができる貴重な期間です。自分に何ができるのか、ちょっと立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。

キャリアデザイン講座を受講して

髙橋 沙英さん|デザイン学部

 最初に初対面同士でチームを組み、毎日、話し合って課題に取り組みました。休み時間も集まり、各自で調べた内容について意見を出し合いました。授業では、そのまとめを見てもらい、指導してもらうという進め方です。チームで取り組むことが初めてだったので、最初はすごく揉めました。でも、続けるうちに自分では思いつかない意見や他の意見を取り入れて進めた方がいいとわかってきました。遠慮してしまうと良い案が出ないので、意見を出し合う方が良い企画になっていくとわかりました。最初はチーム内で自己紹介するのにもすごく緊張して上手くできなかったと思います。しかし、講座の終わる頃には誰もが3分間スピーチができるようになっていて、みんな成長したなと実感しました。先生に、考えたことや調べたことなどをまとめたデザインノートを作るように言われ、就職の時にポートフォリオよりもインパクトがあると教えていただきました。これからも続けていこうと思います。

藤木 良壮さん|デザイン学部

 自分にとっては初めてのグループワークでした。人と話したり、自分の意見を言うことも、あまり経験がなかったので、とてもいい経験になりました。リサーチでは、数値を挙げることの大切さを実感しました。数値を挙げると現実みがでて企画の説得力が増すということがわかりました。プレゼンは緊張しました。説明しようと頑張ったんですが、途中で混乱してしまい失敗してしまいました(笑)。グループワークなのでプレゼンに失敗したとき、他のメンバーにとても申し訳なかったです。他の大学の友達や、ニュースなどでも1年生の時から就職について行動している学校の話を耳にします。名芸ではあまりそういった話がなかったので、できることをやっておきたいと講座を選択しました。実際はもっと厳しいのかもしれませんが、ビジネスの世界の一端を垣間見ることができたのがよかったです。