名古屋芸術大学

NUA OG

佐々木伸枝(ささき のぶえ)

Music Office Nobuchi代表

岐阜県生まれ

2009年
音楽学部音楽文化応用学科音楽ビジネスコース卒業
2005年
大学在学中に、Music Office Nobuchiを設立

のぶちまん

自分にできることを

 自分のニックネーム“ノブチ”を社名にしたアーティストマネジメント会社を起業したのは本学在学中。目的が明確で、しかも、環境に恵まれて……、と思うかもしれない。でも、お話を伺うと、決して恵まれていたわけではないことが、むしろ大きな苦労を背負ってきた人だったのだと解った。「起業は学生時代だったんですけど、根拠のない自信と勢いだけですよ。当時は、できると思い込んでて、失敗するハズがないと思えたんです。『できない』なんて言われると、逆に『やってやる!』っていう勢いだけですよ」 “根拠のない自信”だったいうが、このときにはすでに大きな苦難を経験していた。

 音楽マネジメントの道に進む以前は、演奏家を目指していた。中学で吹奏楽部に入りクラリネットと出会い、演奏家の道を志した。とりわけ音楽に理解のある家庭でもなければ裕福というわけでもなく、楽器を買ってもらうことも容易ではなかった。それでも、そんな環境が、却って音楽への気持ちを強くしたのかもしれない。吹奏楽の大会に出場し認められ、高校への推薦も複数の学校が候補に挙がった。しかし、道は平坦ではなかった。自宅から通える高校しか許されず、地元の商業高校へ進学した。吹奏楽部が盛んな学校で、いっそうクラリネットへ励むつもりでいた。しかし、思わぬことが起こり、願いは閉ざされる。入学して1年になる頃、10万人に一人といわれる難病に侵されてしまう。左半身がしびれ、クラリネットを手にすることはおろか、歩くこともできず、目すらぼやけて見えにくくなってしまった。音楽からは離れざるを得なかった。部活は休部、学校は、卒業さえできればいい…、高校生活は暗転した。

 音楽の道はあきらめた。やりたかったことを捨て将来を憂いた。そんなとき、音楽ビジネスのことを知った。「まだ自分でも音楽にかかわることができる。本意ではなかった商業科だったけど、意味があったんだ!」 パッと目の前が開けた思いだったという。高校在学中に取得した会計1級とパソコンのスキルは、現在の自分に大きなものとなったという。

 大学に入ってからも決して順風満帆だったわけではない。事情があり、4年生を前に休学することになってしまう。1年間休学し自分で働いて学費を貯めることにした。簿記やパソコンのスキルが認められ、ある銀行の法人部へ契約社員として採用された。「そこで、ビジネスの基礎を鍛えていただきましたね」 初の社会人経験の場が、銀行の法人部。通常なら、ビジネス経験豊富な人材が担当する厳しい世界である。「周りは、年齢もそうですけど、キャリアもすごい人ばかり。自分は、何もできないので毎日ドキドキでしたよ。毎日、本当に泣きそうでした」 それでも、自分にできることを精一杯やるしかないと、電話が鳴れば一番に取り、仕事場を掃除してと、文字通りできることに専心した。こうした働きが放っておかれるはずがない。ビジネスマナーに始まり、仕事の多くのことを周りの先輩が教えてくれるようになった。何もできなかった自分のことを、たくさんの人が気にかけてくれて育ててくれたという。この時は、すでに起業していたこともあり、平日4日間は銀行の仕事、残りの3日は自分の仕事に充てていた。そして、銀行の仕事を覚えて行くにつれ、違和感も大きくなっていった。「土日に自分のことをやって、月曜日に会社のデスクに座ると『自分のやりたいことは、これとは違う』と感じるんです」 自分の仕事について客観的に判断できるように進歩したということなのだろう。1年間の社会人経験は“仕事”というものについて思い直すことにもつながっていった。

 大学に復学してからは、とにかく勉強に励んだ。“1番になって卒業しよう” と強く思うようになっていた。学生のころには何とも思っていなかったことが、とても大事なことだったと気付かされたともいう。「失敗やトラブルはたくさんありましたが、そうした経験が自分を作ってくれたのかなと、今は思いますね」 困難を乗り越えてきた強さと目標に対する一途さが、そばにいるだけで元気を分けてもらえるような心地よさを作り出しているのだろう。多くの演奏家が助けられてきたに違いあるまい。「演奏家が演奏に専念できるように、演奏以外の周りのことはすべて任せて下さい」 自信と誇りの満ちた言葉が頼もしい。

宮本益光バリトンリサイタル『碧のイタリア歌曲』 2013年7月

「宮本益光さんとは起業したての頃、少しだけ仕事でご一緒したことがあるのですが、私は、彼の音楽家としての仕事ぶりを見て衝撃を受けました。自分自身の考え方はいかにも甘くて、何も出来ていないということに気づかされました。宮本さんは、私が一流になりたいと思ったきっかけを与えてくれた人です。こういう人と一緒に仕事ができるようになり幸せです。」

JR名古屋高島屋『2013 タカシマヤバレンタインランド』
音楽プロデューサーとして、CM制作、及び会場BGMを担当

あいちトリエンナーレ2013祝祭ウィーク事業『アートインワンダーランド「リ・アリス」』

『TORICK ACT(トリックアクト)』2012年11月
マジックとダンスを融合させた新しいエンターテイメント

2013年8月・9月
オペラ『コジ・ファン・トゥッテ』

2013年7月
『ワインセラーdeコンサート マリコとロベルトの音楽の世界へようこそ!』

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