岩田和樹(いわた かずき)
愛知県警察本部 総務部 広報課
音楽隊 ユーフォニアム
巡査長
警察に入ってから、体を鍛えることも、法律を勉強することと同じように職務に必要なものの一つと考えるようになりました。最初、筋トレにはまって、今ではフルマラソンを走れるほどまでになりました。
大きなやりがいを感じています
名古屋城の三の丸、官庁街にある愛知県警察本部からさらに外堀通を越えたところ、県警本部別館にお邪魔した。愛知県警察音楽隊は、現在、この別館で訓練などを行っている。以前は『愛知県産業貿易館』として使われていた建物で、ちょっと古いオフィスビルといった佇まいである。受付に出迎えてくれたのは、制服姿も凜々しい警察官。なぜだか、こちらの背筋も伸びてしまう。
自衛隊や警察、消防など、吹奏楽のバンドを持つ官庁はいくつかある。聞けば、全国の各都道府県警察に音楽隊が編成されているのだそうだ。音楽家と言えば、どちらかと言えば、規則に縛られたくない自由な生き方を指向する人。かたや警察官や自衛官と言えば、規律に厳しい世界。音楽家?警察官??音楽隊の活動はどんなもの???率直に伺ってみた。
「全国には皇宮警察と47の都道府県警察全てに音楽隊が編成されていますが、このうち多くは一般の警察活動の傍らで音楽隊活動を行っておりまして、演奏活動のみを専門に行っているのは愛知県を含めておよそ10隊ほどです。愛知県警察の音楽隊は現在40名の警察官で編成されていますが、そのうち10名は演技を担当するカラーガード隊『フレッシュ・アイリス』ですので、演奏に携わるのは30名です。音楽隊は警察本部の広報課に所属していて、広報活動の一環として愛知県下の地域のイベントや小学校などで防犯や交通事故防止を呼びかけて、年間約200ステージをこなしています」 年間200ステージ! 音楽隊の舞台を見かけたことのある学生も多いのではないだろうか。YouTubeなどにも個人が撮影したたくさんの動画がアップされている。小気味のいい演奏が印象的だ。30名のメンバーは、音楽隊を志望し、オケマンのように欠員とオーディションによってメンバーになっているのか、採用について聞いた。「音楽隊専属として採用というのは、愛知県の場合ありません。まず警察官採用試験に合格して、警察官になった者の中から音楽隊員として選抜されます。ですから現在音楽隊員として勤務している者も、最初はみな警察学校に入校して警察官として現場に出るための教養や訓練を受け、次に交番やパトカーなどの勤務を経て、人事異動により音楽隊に入っています。名古屋芸大の出身は、私で4人目かな。音大出身者ばかりでなく、一般の高校や大学を卒業して警察官になってから、音楽隊を志望して加わる人もいます」
岩田さんの場合は、もともと自衛隊のバンドに入りたいと思っていたそうだ。ユーフォニアムという楽器は、オーケストラの編成には無い。そういった事情から、楽器を続けるために官庁バンドという吹奏楽団に加わることは、現実的な選択肢であった。「自衛隊は、プロのオーケストラと同じで、空き要員がないと入れないと聞いていました。それで悩んでいる時に学生支援課で『明日、警察の説明会があるよ』と聞き、これだと思い、行ってみました。また、ちょうど愛知県警察音楽隊の演奏もあり、その時の副隊長に話を聞かせていただいたんです」 説明会は3月、採用試験は5月。2ヶ月あまりの短時間で、採用試験のための勉強をした。「説明会の次の日に、学生支援課で資料をもらって、問題集を何冊か借りて何とかなりました(笑)。私はちょっと準備不足だったかもしれません。もう少し準備ができればいいと思います」 採用試験には、教養、論文のほか、体力測定もある。試験では、腕立て伏せやシャトルランなどの測定を行うが、特に高い身体能力が求められるわけではないと言う。ただし、試験に合格した後、警察学校でしっかりと鍛えられるのだそうだ。学生時代、特に運動をやってこなかった岩田さんは、「最初のころは周りについていくのがやっとだったんですが、それでも気合いで何とかなりました(笑)」と笑顔で語ってくれた。
「公務員という安定した職業の中で思う存分音楽と向き合えるというのが官庁バンドの大きな魅力だと思っています。特に警察官という『堅い』職業に就いていることで、両親も安心してくれていると思います。学生時代の友人にも羨ましがられますよ(笑)。もちろん、フリーで成功すれば公務員よりも全然金銭的にはいいのかもしれませんが、そこは考え方次第でしょうね……」 実際に交番勤務の時代には、犯罪者や酔っ払いと対峙したり、犯罪現場の立入規制や交通整理のため冬場の夜半に立ちっぱなしになるなど、厳しい仕事の側面もあるが、同時にやりがいを強く感じるとも言う。「警察の仕事は一般市民の皆さんの幸せを願い安全・安心な暮らしを守るという、金銭には置き換えることのできない誇り高くやりがいのある仕事だと思います。時にはつらいこともありますが、それ以上に感動することもたくさんありました」 警察官として、業務にも誇りと使命を感じていることが伝わってくる。「音楽隊の仕事は、『音楽を通じて犯罪や事故を減らす』という、これまで培った自分の音楽的スキルも生かすことができ社会にも貢献できる素晴らしい仕事です。もちろん、昇任や人事異動により他の警察部門へ転勤することもありますので、ずっと音楽隊で勤務できるわけではありませんが、音楽隊を除隊した後に他の部門で警察官として活躍している方もたくさんいます。私も最初は音楽隊に入ることが目標でしたが、今は将来的にサイバー犯罪を取り締まる仕事に就きたいと考えています。犯罪の被害を少しでも減らすために自分に今何ができるのかを、いつも考えています」 一層の思い入れを感じさせた。
平成26年 愛知県警察音楽隊「ふれ愛コンサート」より