植田明志(うえだ あきし)
立体造形作家
【個展・グループ展】
本学在学中に初めての個展を開催、卒業後は、造形作家として独立。「ラシック・クリエーターズフェスタ」「ワンダーフェスティバル」への作品出品など精力的に活動中。
できるところまでやってみようと
若葉の生い茂る山の景色を見た時、山が入道雲のように膨れ上がっていっているように見えたり、自分の方へ山が迫ってきているように感じたことはないだろうか。山の歩道から外れほんの少し森に入っただけでそれまでとは異なった空気が満ち、どこからか自分が見られているような奇妙な感覚にとらわれる…… そんな心の中の自然に対しての畏怖を思い起こさせる作品だ。「『月を尋ねて』は僕の原点なんですよ。粘土を作り始めて最初に作った作品です」
幼い頃から絵を描くのが好きで、高校は応用デザイン科という美術系の学科に進んだ。しかし、絵に取り組むことよりも音楽に熱中。バンドを組んでライブに明け暮れ、大学は、美術にしようか音楽に進むかで迷うほどだったいう。絵に本気で取り組むようになったのは、高校3年、秋の声を聞く頃になってから。「バンドが上手くいかなくなって、自分にできるのは絵しかないと。子どもの頃から絵画教室に通ったりして来ましたが、この時初めて、ちゃんと絵と向き合ってみようかと腹をくくりました」 覚悟を決めて受験に臨み、本学アートクリエイターコースに進むのだが、その理由が変わっている。「大学は、実家から一番近い芸大ということもあるんですが、なぜか名芸に決めていました。それで名芸のどの学部にしようかとWebサイトを見てたんです。そこでアートクリエイターコースを見て、何かぴんと来るものがあったんです。いい意味で雑多な感じがして、そこに惹かれました(笑)」
大学に入学してから、さまざまな領域のアートにも触れたが、それまで通り絵に取り組んだ。モチーフの細部をどこまでも緻密に描き込む細密画に熱を入れた。しかし、すぐに壁に当たってしまう。「当時、すごく影響を受けていたのが池田学さんという画家です。本当に緻密な超細密画を描く方なんですが、僕が描いていた絵は、影響というか真似ですね。単純に真似ごとだったのでそのままではダメだと感じていました」 そこでヒントを与えてくれたのが、今回巻末で登場する松岡徹准教授だった。「松岡先生からきっかけをもらい、細密画を立体と組み合わせればどんなものができるかと試してみたのが立体の始まりでした。それで最初にできたのが『月を尋ねて』なんです。モチーフは、松岡先生の手伝いで行った佐久島の山と自分の故郷の、久居の山の風景なんです。佐久島で見て感じた山と自分の記憶の中の風景を組み合わせていって作っていきました」 作品が、見る者に山の息吹を思い起こさせる理由は、誰もが持っている山への畏怖を呼び覚ますからなのだろう。
森に始まり、海、空とモチーフは移り変わっていった。近いところの作品にはファンタジー色が強く感じられる。「自分が飽きっぽいこともあって、森を作ったから海にしよう、今度は空へ次は音に、と森羅万象を一巡して次に何を作ろうかとなった時、自分の想像の世界を作ろうと考えました。もともとファンタジックなものが好きだったのと、ゴジラみたいな怪獣、自分の好きだったものと想像とを組み合わせて作っています。でもそれだけだと、想像のものって空虚なんですね。ただ、形としてあるだけの空っぽな作品になってしまうんです。それで、作品を見た人が何かを感じられるように、ある種必然的にメッセージを込めていっています」
アトリエを見せてもらうと、作業場の傍に布団が敷かれている。文字通り、寝食を惜しんで制作に打ち込んでいることが一目でわかる。「ここまで打ち込んだものならできるところまでやってみようと思いまして……」 散らかったアトリエとそこでの生活。生気あふれる姿にエールを送った。