名古屋芸術大学

片岡祐司

デザイン学部 教授

武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業 同校ID研究室勤務

1980年
スズキ株式会社入社、エクステリアデザイナーとして生産車、ショーモデルの開発を担当チーフデザイナー、先行開発グループ課長、小型車グループ長を歴任
2002年
スタジオ担当としてスズキ㈱デザイン部全スタジオの統括管理
2005年
名古屋芸術大学助教授

グッドデザイン賞受賞作品

1988年
アルト
1988年
エスクード・コンバーチブル
1988年
エスクード・ハードトップ
1990年
エスクード・ノマド
1991年
カプチーノ
1994年
アルト
1994年
エスクードV6
1998年
ジムニー
1998年
Kei
2001年
MRワゴン
2003年
TWIN
2005年
スイフト

東海地方にはクルマ好きが多い!?

カーデザインコースを設置する目的はどんなところにあるのですか?

 日本の場合、自動車というものプロダクトデザイン、インダストリアルデザインの世界でメインに扱われていなかったのですが、世界的に見れば、非常に重要なポジションを占めています。最近では、自動車がグローバルな商品となり、国内においてもカーデザインが多くの関心を集めるように変わってきました。
 こうしたことを受けてカーデザインを専科のコースとして分けることにしましたが、そこには二つの大きな目的があります。一つは、説明したとおり、カーデザインというものがしっかりと認知されてきたということ。もう一つは、大学でカーデザインを学べるところはまだまだ少ないのですが、それでも競争が厳しくなってきている現状があり、早いうちに充実させていくのが良いだろうという判断です。これまで本学では、インダストリアルデザインコースでカーデザインを学ぶことができたのですが、専門のコースを設置することで、より本格的に、より充実したカリキュラムを提供できるようにしようと考えています。これまでも多くのOB、OGを輩出していますが、さらに推し進めることでこれまでのアドバンテージを確固としたものにしたいと思っています。

東海地区の大学に専門のコースが設置されるということに非常に意義を感じます。

 そうですね。東海地方には自動車メーカー、自動車関連企業がたくさんあるということもそうですし、また特にこの地方の人は自動車を好きな人が多いように思います。女子学生であっても、自分自身が車に乗っていたり、運転することが好きだったり、車が好きな人がいます。車に触れている、車との接点が多い土地柄だからなのでしょうか。例えば、東京ならば生活に必要でない人、車に全く触りもしない人がたくさんいらっしゃいます。その点、ここならば、女性であっても、車の話に乗ってくる学生がたくさんいますね。

女性も活躍できる分野

カーデザイナーに女性のイメージはあまりありませんでしたが、増えてきているのでしょうか?

 女性でもカーデザインの分野に就職する機会が増えてきています。特に、軽自動車やカラーの分野というと女性は絶対に必要な存在になってきています。本学も女子学生が多いですが、そういった道に進もうという学生がかなりいます。比率でいえば、半々、いや半分以上ですね。今の3年生なら、インダストリアルデザインコースですが、女性が6割といったところです。面白いのは、車のとらえ方が少し男子学生と違っていて、仕事として自動車会社がいいと考えている人が多いようです。自動車メーカーは、企業として安定感も抜群ですしね。企業側としても女性的な感覚を求めている現状があります。従来にくらべ、車のボディーカラーやインテリアのカラーバリエーションが増えてきていますが、カラーの分野ではすでに多くの女性が活躍しています。インテリアのデザインなどは女性的な能力を発揮できる、やっていて楽しい分野ではないかと思います。

2輪、4輪、クレイモデル3つの分野で確かな力を育てる

カリキュラムの特色は、どんなところですか?

 まず、デザイン学部全体で1年次にファンデーションで基礎的な実技を学びます。カーデザインを専攻しようと考えていても、実際にやってみると変わってくることが多々あります。また、逆に他の領域を志望していたものの、カーデザインをやってみようという学生も出てきます。1年次のファンデーションで、まずは試してみて、自分の専門を考え選択することができるようにします。コース選択は、2年からとなります。専科としては、スケッチをやり、レンダリング、実技指導、クレイモデル……、理論系も学びますし、文字通り一通り1から10まで、企画からモデルまで、すべてを習得します。この中で特色といえば、なんといっても設備とモデル制作ですね。これは、他の大学とくらべても突出しているのではないかと思います。本学には8つの工房がありますが、他のどの大学よりも工房の設備とサポート体制が充実しています。技術員をそれぞれの工房に付けているということは他の大学ではなかなかないことなんです。クレイ工房では、技術職員にカーモデラーが入っておりまして、手取り足とり、非常に質の高い技術を学ぶことができます。モデルの指導は日本でも一番充実していると思いますよ(笑)。

松本博仁

クレイ・プラスチック工房
担当技術職員

2011年 日本カーデザイン大賞ゴールデンクレイトロフィー受賞

 企業との結びつきが大きいことも特徴です。本田技術研究所さんでは、毎年デザインプロセスやテクニックを学ぶ「ホンダデザインセミナー」というイベントを関東、関西、東海の3地区で開催していますが、東海地区は本学で共同開催しています。オープンなセミナーでデザインを学ぶ大学生や院生が集まりますが、本学で開催されるため、本学の学生が多数参加できる利点があります。カラーデザインの授業は、スズキ株式会社さんに、このところ毎年お願いしています。色のデザイン、ボディーカラーから内装の色、それから素材など、実際のサンプルなど提供していただき、進めています。他の企業の方も、本学に来られたならば、できるだけ講義を実施していただくようお願いしています。ただの企業説明だけでなく、デザインの授業を1、2時間はやって下さいとお願いし、企業の力を借りて進めています。
 もちろん教授陣もしっかりとしています。オートバイに関しても、スズキ株式会社の部長経験者を客員教授として担当いただいています。
 こうして、2輪、4輪、クレイモデルと、3つの分野でしっかりとした育成ができるようになっています。

コミュニケーション能力よりもまず実力を

車づくりは、大勢の人と共同で作業する必要があります。昨今、実社会でコミュニケーション能力が重要とよく言われていますが、カーデザインでは一層重要視されるように思いますがいかがでしょう?

 そのあたりは一つの課題でもあります。企業も、そのような部分はよく見ています。実習やインターンシップでは、その可能性を確認しています。学生にもよく言うのですが、「仲間として一緒にやっていけるかどうか、企業は見ているんだよ。そこで仲間になれないと駄目だから」と言っています。ただし、無理をする必要はありません。人それぞれキャラクターがありますが、できないことまで無理することはありません。仕事となってしまえばそんなことを言っているひまもなく、実際にこなしている仕事が問われます。仕事の成果や内容のほうが、当然重要なのです。
 しっかりした企業であれば、それぞれ個人のキャラクターを把握したうえで、より適した仕事を振っていきます。何かポテンシャルがある部分があれば、それを使い切るというのが企業の論理です。共同で作業するプロセスも大切ですが、それ以前の基本的な実力を磨くことのほうが大事だと思います。

しっかりとした力をつければ自分に合った仕事があるということですね。

 自動車のデザインという分野には、さまざまな仕事があります。プレゼンテーションがうまくできない苦手だという場合でも、モノを作りたいならば、モデラーであったりコンピュータを使った作業など、逆にチームでの作業が好きな人は、内装系のデザインに向いています。内装というのは部品点数が数千にもなり、多くの人数で寄ってたかって進めていく作業になります。必ず、自分のキャラクターに合った領域の仕事が見つかると思います。

とにかく絵を描く! 努力を惜しむな

カーデザインを志望する学生にどんなことを望みますか? どういったことが大事なのでしょうか?

 まず車、乗り物に興味があることですね。動くものに興味があるということがとても重要です。実際に学んでいく過程では、スケッチを描くことが非常に多いですから、デッサンをしっかりやってきて欲しいですね。手を動かして描くことが、美術の学生を含めても、学校のどの領域よりも多いと思います。何百枚何千枚と描きますから、描くことが好きでないと厳しいかもしれませんね。描くことさえいとわなければ、ほかのことについてはある程度の力があれば、カーデザインの世界にはいろいろな分野がありますので、何とかなるのではないかと思います。
 専科ではありますが、専門学校のように一つのことだけをやればいいというわけではないということも大事なことです。一つのことだけに取り組んでいれば、スペシャリストを養成することができるかもしれませんが、総合的に物事をとらえて判断するような、ゼネラリストの育成は無理なのではないでしょうか。一つの技術を磨くということは大事なことですが、それだけでは統括したりだとか、マネージメントであるとか、プロデュース業であるとか、企画であるとか、そういう仕事には向いていません。大学で学ぶことの意味は、プロセスを理解し、各分野がどうやってつながっているかを理解し、そのうえで自分の専門があるという、さまざまなことを理解できる人材を育成することです。大学の間に幅広い領域のアートに触れ、早い段階で基礎のいろいろなことを学んでおくということが非常に重要であると考えています。
 さらに言うなら、こうした絵を描くこと幅広く同時に深く学ぶことを理解したうえで、努力をすることが重要です。枚数を描くだけでも相当な努力が必要です。大学に入って2年間3年間というのは、人生を左右する本当に大切な時期です。この時期に、どれだけ努力をしたか、力をつけられたかどうか、それが後々に係わってきます。どれだけ勉強するか、どれだけ研究するか、どれだけ絵を描くか、それができた人がやはりデザイナーになっていきます。

最後に、カーデザインの魅力についてお聞かせ下さい。

 自分の作ったものが街の中を走り回るという信じられない楽しみがあります! ヒットすれば1日何十台もみますよ(笑)。自分の作ったものをいろいろな人が使ってくれているのを実感することは素晴らしいことです。
 それから、車という耐久消費財は、一度世に出たものは、10年、20年と世の中に残っていきます。古い車でも大事にされる方がいらっしゃいます。ある程度歴史にも残りますし、そういう楽しみもあります。
 作る過程が面白いと感じる人も多いですし、できあがったものが走りまわる姿を見て喜びを感じる人も多いです。福祉車両など社会に貢献できたということを感じ喜びを感じる人もいます。単純に大きいものを作るという喜びもあります。自分の作ったものが世の中に受け入れられていく喜びを、ぜひ味わって欲しいですね。

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