NUA OB
権坂洙
グォン パンス
トヨタ自動車株式会社
デザイン本部
トヨタデザイン部主任
- 1972年
- 韓国大田(デジョン)生まれ
- 1987年
- 地元工業高校通信科卒業
- 1990年
- デジョン実業専門大学 産業デザイン学科入学
- 1992年
- 国立ソウル科学技術大学工業デザイン科3年編入
- 1992〜94年
- 兵役
- 1996年
- 国立ソウル科学技術大学工業デザイン科卒業 10月 来日、日本語学校に在学
- 1997年
- 名古屋芸術大学美術学科工業デザイン専攻修士課程入学
- 1999年
- 名古屋芸術大学美術学科工業デザイン専攻修士課程修了
- トヨタ自動車入社(デザイン部では初の外国人)
- トヨタデザイン部に所属、主に外形デザインを担当
- 2008年
- レクサスデザイン部に異動
- 2014年
- トヨタデザイン部に異動
●手がけた作品
1999〜2008年
初代AYGO、ハイランダー(マイナーチェンジ)、アベンシス、ランドクルーザープラド、オーリス(内装デザイン)など
2008〜14年
レクサスES、RC、先行LS、LC500
2015年
クラウンアスリート、ロイヤル(マイナーチェンジ)
数年に渡り、春期実習外形デザイン講師、デザインセミナー外形デザイン講師を担当
きちんと“もがく”こと
「社内では、皆、あまりポートフォリオは作ってないんですよ……」と少々照れたふうに差し出した2冊のポートフォリオ。開いて見ると、エッジの効いた流線型のスケッチが現れた。「レクサスのES(日本未発売、トヨタ ウィンダム後継モデルにあたり、アメリカではレクサスの主力商品)とクーペのRCです。この2台は、最初から最後までやらせてもらいました。ESをやって、その後、RCをやりました。ESの仕事があってRCのチャンスが回ってきたような気がします」
ESの最初のスケッチは、広い大地を疾走する抽象的なイメージ画だ。ページをめくると他のスケッチとは一線を画す異物が目に飛び込んできた。「この時は普段とは違う手法を採りまして、最初から手で描くのではなく、コラージュで攻めました。1枚に見えますけどたくさん貼り合わせてあるんです。長年やっていると人それぞれ癖を持つんですね、癖というのは一定のクオリティを出してくれるのですが、新しいチャレンジをしようすると邪魔になります。それを突破したくてあえて鋏でスケッチをやったつもりなんですよ」
現役デザイナーのほれぼれするようなポートフォリオにも、当たり前だが産みの苦しみがにじみ出る。自動車のデザインとなれば、数十人、場合によっては数百人のデザイナーが分業であたると聞いているが、「最初から最後まで」携わったという。レクサスの場合は、仕事のやり方が違うのか聞いてみた。「基本的にはトヨタもレクサスもそれほど違いはないですが、レクサスの場合は、少人数のチームで企画の最初から最後の製品化までやっているという感じです。ESもRCも、たまたま僕のアイデアが採用されたので全部見ることになりました。なぜだか、恵まれたと思いますよ」 ESの場合でいえば、チームに外形のデザイナーは4人。そこでアイデアを出し合い1つのアイデアに絞り、さらにトヨタのカリフォルニアにあるデザイン拠点、キャルティデザインリサーチ社から出された案とのコンペに勝ち抜いて選ばれたという。いい作品しか残ることのできない厳しい競争の世界だ。勝ち残って来られたのはどんなことが評価されたのだろうか。「『素』の美しさであると思います。車両に動きのある勢いを与えるため沢山のキャラクター線を加え表現した対抗案に対し、私は当時これ以上そぎ落とせないほどまで『素』の美を追究しました。その点がプレミアム世界感の表現とマッチし、評価されたと思います」
子どもの頃は画家になりたかったというが、一旦は工業高校の別の科に進学。それでもデザインの仕事に興味があり勉強し直してデザイン科の大学へ入り、感性工学を深く知りたいと東奔西走するうちに来日、本学の大学院に入学することになる。「大学を卒業し就職するまえに、半年間、日本を体験しにきたんです。半年で帰るつもりが欲が出て、図書館へいって感性工学の本を読み、どうしようかと悩んでいました。そんな時、名古屋芸術大学を知りまして、不躾ですが、私はこういうことがやりたいけどもそちらの大学ではこのことはできるのか、と手紙を書きました。時間がなかったのでストレートに書きましたよ」 自分のやりたいことをはっきりと表明し、周りを動かしていくのは、学生時代も仕事に就いてからも変わらぬようだ。「大学時代は、冒険、トライ&エラー、目標、出会い……。そもそも気楽に来た日本ではあったんですが、帰れなくなりました。修士課程ということもあってカリキュラムが少なく時間が取れました。それで、とことんその世界を堀りまくりましたね」 自分にとって必要なこと、やりたいことに向かって真っ直ぐに進んで行く姿勢が鮮明だ。
学生たちにアドバイスを求めると「“もがく”ときはきちんと“もがく”ことですね。自分のどういうところに弱みがあって、どういうところが好きなんだということも自分が知ってるはずなので、自問自答しながら自分は何がしたいんだとよく考えること。僕は、目標のことを夢といっています。夢というのは、苦難の向こう側にあるもので、苦難を乗り越えれば必ず存在するもの、実在するものが夢なんだと思うんです。そういう考え方が非常にモチベーションにつながります。目標を定めたら迷わないこと、純粋な心で試行錯誤して欲しいですね」 実習の講師を務めていた立場から、学生のポートフォリオをたくさん見てきた。本学について伺えば、決して低くはないがもう一踏ん張り欲しい、とのこと。「自分が持っているイメージがはっきりすればするほど、それを表現したくなるはずなんですよね。自分の考えはこうですよと知らせたくてしょうがなくなる。そうなると、いろんな方法を駆使してもがきながら描くはずなんです。その具体化がもう少し足りないのではないでしょうか。もう一つ乗り越えればいいんじゃなかと思いますよ」 産みの苦しみにしっかり向き合いやり遂げろと、励ましてくれた。
レクサス公式動画 RC開発ストーリーに、スケッチを描く権さんが出演。「ほんの一瞬だけですよ(笑)」