NUA-OB/OG

40号(2017年7月発行)掲載

和田唯奈
わだ ゆいな

画家

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1989年
岐阜県生まれ
2013年
美術学部絵画科洋画2コース卒業
2015年
ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校第1期、上級コース

Gallery Delaive(オランダ)所属
GEISAI#17鈴木心賞受賞

主な展覧会
2012年
個展『KIRAKIRA』at YEBISU ART LABO(愛知)
2012年
個展『GEISAI#17 鈴木心賞受賞 和田唯奈個展』at Hidari Zingaro(東京)
2013-14年
個展 at Gallery Delaive(オランダ)
2016年
個展『和田唯奈のお誕生日パーティ』at ゲンロン カオス *ラウンジ五反田アトリエ(東京)
2017年
ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校上級コース成果展『まつりのあとに』連動企画『あなたのわたしで描いた絵』at B.Esta337(東京)

作家として

 東京、御徒町。上野から連なるアメヤ横丁の喧噪から南に離れ10分ほど歩いた先、下町の風情が残る細い路地の一軒家。ゲンロン カオス*ラウンジ 新芸術校で知り合った仲間と共同で借りているアトリエにおじゃました。2階の一部屋が、和田さんのスペースだ。制作中の下絵もあるが、綺麗に整理されている。対話を通して絵の制作を手伝う一風変わったお絵描き教室「お絵描きのお家」も、この場所で開かれているのだそう。

 絵を見せていただいた。パソコンのモニタ上で見る画像や印刷されたものとは明らかに違う透明感と立体感。絵の表面は3mmほどの厚みの樹脂で覆われ、貼られているラインストーンと相まって鮮やかな色彩が一層際立ち、油絵のタッチとは異なるものの、立体として確かな存在感を放っている。そして、可愛く、少し“キモい”モチーフが一層、鑑賞者の心をざわつかせる。決して手放しで「可愛い」「綺麗」といわせない、刺激的な作品である。

 「美術科のある高校へ進学して、初めて油絵に触りました。そのとき、物質だということがわかったんですよ。中学までは、絵というのはイメージの操作だと思っていたんです。だからデジタルでも抵抗なくできたんです。だけど油絵って絵の具がすごくこってりしてますよね。しかもキャンバスというしっかりした支持体があって、そこに絵の具を乗せる。立体的な感覚にすごく衝撃を受けました」 現在のコラージュの源は、油絵の物質性に依るのだという。イラスト的に見えるはずのモチーフが、実物を目にすると俄然、存在感を放って見えるのは、こうした立体感が独特の雰囲気をもっているからだろうか。

 可愛らしいモチーフについて伺うと、「小学生のころは、少女漫画のりぼんが好きで、りぼんに載るような漫画家になりたいと思っていました。中学になってインターネットを見ていて、キャラクターが好きになりました。サンリオとか、カワイイもの好きなんです」 モチーフとして登場するキャラクターたちは、中学生のころに描いていたものや、そのころの記憶につながっているという。「高校を卒業してからは物質的な関心が強くなって、絵の具じゃないもので絵を描きたくて、布やビーズをコラージュするところからいろいろ試しました。大学で樹脂を教えてもらって……、今の私の絵は、これまでやってきたことの総体なんです。大学のとき、一人の人がポーズをしているシリーズを描いていましたが、構成的になにか足りなくて、手を4本にしたり、目を増やしてみたり、あるいは取ったりしていうるうちに、今のようなキャラクターっぽいものが定

 現在、オランダの画廊と契約しているが、自分の描きたい絵と求められる絵に違いはないのだろうか。自由奔放に描かれているように見えるモチーフが、しっかりとした構成の上に成り立っていることがわかったが、絵を取り巻く環境はどんなものなのだろうか。「多少、ズレはあります。そうですね、あるけど、難しいですね……。でも、好きなようにやってるだけでは逆に芸術家にはなりえないんじゃないでしょうか。求められているものに応えられなければ、それは趣味になっちゃうから。上手くいえないですけど……」 一般的に、オーダーに応えて制作するのがデザイナー、純粋な自己表現がアートであると考えられる。でも、和田さんは、作家も応えなければいけないという。「デザイナーは商業的にクライアントの意向に応えるという感じですけど、芸術家は社会が求めるものに応えないといけないじゃないかと。もちろん芸術家は自分の基準でものを作るべきなんですけど、でもそれを全部自分の基準でやっていたら伝わらないじゃないですか。伝えるということまでが芸術ではないかと思います。これまで描いてきた絵と少し違う絵を描いてみたとき、ギャラリーの人からもっとこうして、みたいなことをいわれることもあります。でも、それは伝える部分が上手くいっていないということなので、『なんでわかってくれないの』ではなく『どうしたら伝わるか』を考えるようにしています。心情的には、『なんで!』って思いますけどね(笑)」

 ときに痛々しく悲痛に見えるモチーフたちだが、最近は少し変わってきているという。「親になりたいと考えるようになってきました。これまで子どもとして親のことを考えていましたが、子どものメンタルのまま、親のことを考えているから理解できないんじゃないかと思い始めて、親の立場から世界を見るということを考え始めたんです。子どものときには、文句をいって求めることをしていてもいいのですが、ある程度、文句をいう時期が過ぎたら、その立場を切り替えて、与える側として、親として生きるべきなのではないかと、最近思うようになったんです」 2016年からゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校で行われた、相手の描きたい絵画の話を聞き、和田さんが身体を使ってその絵を誕生させるというアートプロジェクト「あなたのわたしで描いた絵」が契機になり考えが芽ばえてきたという。そのプロジェクトは、教育的な側面が強まり、現在、アトリエで行われている「お絵描きのお家」へと発展していっている。新しいプロジェクトは4月から始まったばかりでまだ作品にはなっていないが、すでに見える景色が違うと教えてくれた。作家は、社会とつながり作品を作ってゆき、社会と自分の変化とともに作品も変わってゆく。こうした行為の中に、和田さんなりの作家として生きる矜持と責任のようなものが強く感じられた。どんな作品が産み落とされるのか、期待して待ちたい。

高校生のときは基礎的なことばかりやらされました。でも、やったことは結果的にすごく良かったです。そのときは、早く先のことをやりたいと思っていたけど、下地ができてないと展開したことなんてできません。我慢してでも、基礎的なことをやる時期が必要ですね

最近、絵を教えていて思うのは、楽しいと思える範囲内でやっていると全然よくならないんですよね。修行の要素、修行だと思ってやるところまでいかないとよくならないなと思います。技術的にも、心の問題としても、両方ですね

『Vehicle』2011年 ミクストメディア 1200×1300mm 

『無題』2015年 紙に色鉛筆、ペン 370×450mm  

『Looking at You 』2016年 ミクストメディア 700×1200mm 

『Looking at You -Depersonalisation』2017年 ミクストメディア 380×310mm  

『Looking at You -at las』2017年 ミクストメディア 310×380mm 

タイトル未定 2017年 ミクストメディア 1820×910mm  

『Looking at You -at las』2017年 ミクストメディア 310×380mm