子どもが好きだからできる仕事
午前中の保育園にお邪魔した。本学に隣接するクリエ幼稚園をはじめ、しばしば小さな子どもたちがいる場所へ赴くが、大抵、大人の男性は子どもたちから怖がられてしまうものである。普段は、まるで野生動物を観察するときのようにして警戒心を抱かせないようにしながら徐々に距離を詰め、やっと接することができるところまで近づくのだが、ここでは様子が違った。子どもたちは人見知りすることもなく、カメラにも興味津々で、ドンドン迫ってくる。無邪気で天真爛漫。子どもたちがいきいきと、じつに子どもらしくしているではないか。その子どもたちの輪の中にいるのが黒田さん。現在、2歳児のクラスを担当している。子どもたちは、抱きかかえられたり、もたれかかったり、髪の毛をイタズラしたりと、ごく自然に甘えている。そんな子どもたちの仕草を楽しむかのような笑顔が見える。「今日はこれでも、ちょっと大人しいですよ。知らない人が来て、ちょっと遠慮しているかもしれないです」 人間発達学部を卒業したのが3月、お伺いしたのが9月のはじめ、働き初めてもうすぐ半年。やっと、仕事に慣れてきたところだ。「仕事もなんとなくわかってきて、自分がどうやって動けばいいのかといったこともわかってきたんですけど、まだ、早起きに身体が慣れないですね(笑)」
小学生になったころから保育園の先生になりたい、と考えていたというから一途だ。「保育士になるために、ピアノを習わせてもらったり、塾に行かせてもらったりしました。ずっと、保育士になるため、それに向かってしかやってきてないんです。夢が叶いました」 ほかの分野に惹かれることもあったそうだが、ほとんどぶれずに道を進んだという。保育士が目標なら小学校の教員免許は取得しなかったのか聞いてみれば、3免(保育士、幼稚園教諭、小学校教諭)を取得したとのこと。「小学校へも実習に行きましたが、勉強を教えるというのは、自分がやりたいこととは少し違うのかなと感じました。小さな子どもが好きということもありますが、遊んだり、一緒に生活する日常の中で子どもたちと触れあえることが好きなんだとよくわかりました。それで、小学校よりも保育園に決めました。迷いませんでした」 子どもたちの中での自然な笑顔には、確固たる理由があったのだ。しかしながら、楽しいだけでは仕事にならない。学生時代の実習との違いを伺った。「まだ半年しか経ってませんが」と前置きした上で「実習の1週間、2週間では、わからないことがいろいろ見えてきます。可愛いだけじゃなく、大変な部分もあったりとか、いろんな面が見えてきます。もちろん、責任も出てきますし。実習のときは保護者の方とお話しすることはあまりありませんが、今では子どものことについてお話しすることがよくあります。家庭の状況を含めて知った上で、お話しさせていただきますが、やっぱり難しいなと思います。大変だなと思うこともありますが、余計に、子どもが好きだからできる仕事なんだなと実感しています」
後輩たちに向けて、学生時代にやっておけば良かったと思うことを聞けば「引き出しをもっと作っておけば良かった」と即答した。持ち回りで、保育内容を決めているそうなのだが、学生時代にそのアイデアを増やしておくことをアドバイスしてくれた。「引き出しは、もっともっとあったほうが良いですね。絶対に損はしません。活動も、造形も、手遊びも、なんでも、作ったものは大事にしておいたほうが良いですね。エプロンシアターやパネルシアター、残しておけば、後々役に立ちますよ。私も実習のときに作ったものを残しておいて良かった! と思ってます。なんでも活用しています」勤務に当たり、園長先生からいわれた言葉を教えてくれた。「『子どもを知ることから始まる』と教えていただきました。ですから、今年の1年は、子どもを知ることに徹しようと思ってやっています。まず、知って、その上でいろいろ学んでいくものだと。子どもの気持ちになって寄り添うようにしていますが、今は、叱ることの難しさを感じています」 子どもたちの様子からすれば、黒田さんとの間にしっかりとした信頼関係ができあがっているように見受けられた。子ども、保育士、両方のはつらつとした笑顔がとても印象に残った。「こちらが、伝えようとしていることを感じとってくれる子もいます。言葉だけでなく、日々のスキンシップから通じ合うことができるようになっていくのだなと感じています」 子どもへの興味は、ますます強くなっているようだ。