誰も一人ぼっちにしない音楽
大学で、2つの異なった専門を同時に専攻することを「ダブルメジャー(double major)」といい、欧米の大学では、そうしたことを可能とする教育制度ができあがっている。名古屋芸術大学が進めている芸術系学部の融合や全学共通科目の採用なども、ダブルメジャーの考え方に近く、領域を横断的に学ぶことで広い視野や柔軟な発想を養うことができると考えられてのこと。しかし人間発達学部に関しては、残念ながら他の芸術系領域にくらべれば制度的に充実している、とはいいがたい実情がある。ところがそんな懸念を軽く吹き飛ばし、保育士とミュージシャンという、ほとんど関連のなさそうな2つを実現しているのがTHE BOY MEETS GIRLSのメンバーたちだ。「メンバー、4人とも人間発達なんですよ。卒業したときに、働きながら音楽もやっていこうと。それで成功している先輩のミュージシャンもいたし、好きなことを全部やりたいなと」 幸い、バンドとしての活動に理解のある保育園と園長に巡り会い、非常勤で勤めながらバンド活動を行っている。ライブやレコーディングのあるときは、日程を調整しながら両立されているという。「小さいころからずっと音楽をやっていて、バンドもやりたかったですし、保育士になりたいというのもありました。音楽も子どもも好きなのでどっちもやっていきます。人生一度しかないのだから好きなことをやりたいと思いやってきたという感じです。保育士だってやりたいし、音楽だってやりたいんです」。
中学生のころから、保育士か幼稚園教諭になりたいと思っていた。大好きな先生がいて自由に好きなことのできる幼稚園だったと、幼いころを振り返る。そのころの経験が憧れに変わり、保育士を目指すことになっていった。それと同時に音楽も大事なものへとなっていく。やはり幼稚園に通っているころ、クリスマスのプレゼントにキーボードをねだったという。音楽と保育士、離れているようで、彼にとっては近しいものなのだろう。キーボードを手にしてからは、演奏することよりも作曲の真似事を始めたというから面白い。「本格的に音楽をやりだしたのは中学生になってギターを買ってもらってからですね。それまで、スポーツも得意じゃなかったし勉強も好きじゃない、自分に自信の持てることがなかったんですけど、ギターを持って『これだ』と」 部屋にこもってギターの練習ばかりしていたという。高校に入りバンドを組んだ。多くのバンドが人気曲のコピーをする中、オリジナル曲にこだわった。「うちにMacがあって、作曲ソフトが入っていることに気が付いたんです。その存在を知って、ギターをつないで録音できるし、自分で録音して曲を作ることを黙々とやっていましたね。高校時代のバンドは、僕はボーカルをやらずギターだけ、でも僕が作った曲をやるバンドでした。曲を作ることが楽しくて、人気バンドのコピーには興味なかったですね」。
大学受験になり、保育士になるため本学の人間発達学部を選んだ。「音楽と芸術が身近にある中で保育の勉強ができるって、自分にピッタリじゃん」と直感で選んだと笑う。それでも、その直感に間違いはなかったようで、領域を飛び越えて交友は広がった。「大学で一番大きかったのは、いろんなところから集まった人と出会ったことですね。音楽科も同じキャンパスなので、科は違っても、同い年の友達、JAZZ&ポップスコースの友達もできたりしました。サウンドメディアコースの子に、レコーディングしてもらったりもしました。音楽の先輩と一緒にバンドを組んで芸祭(名古屋芸術大学文化祭)に出ましたし、サークルに入っていたこともあって学部の壁を感じないでやれたことがすごくよかったですね」 ときには、JAZZ&ポップスコースの教室へ行き設備と楽器を羨ましく思ったり、「人間発達だけど、バンドで売れてやるぜ」とライバルに思ったりと刺激を受けたという。
人間発達のゼミの旅行も原体験の一つだという。「日間賀島にゼミ旅行で行ったんですが、日間賀島の保育園でハンドベルを演奏するというのが旅行の中にあったんです。前日まで練習して緊張しました。そのときの子どもたちの反応がすごくよくて、保育園の子どもたちに演奏するというのは、もしかするとそこがスタートかもしれませんね」。
保育園でライブをやるのは、自分たちにしかできない活動をやろうと考えたのが発端。バンドのコンセプトである“誰も一人ぼっちにしない音楽”にも通じる。「子どもでも大人でも、誰でも普段不安を抱えていたり、悩みがあったりします。そんな人の支えになるような音楽をやりたいという気持ちです」 初めて保育園でライブをやってみて衝撃を受けた。大きな会場でライブをするときとはまた違った刺激を受け取ったという。一緒になって歌って身体を揺さぶる子どもたちから受け取るエネルギーの大きさは、それまでにはないものだった。今後は、ぜひ子どもたちを中心に親子で楽しめる大規模なライブをやってみたいと抱負を語る。
「二足のわらじなので、中途半端じゃないかといわれたこともありました。メンバーと話し合ったこともあります。でも、それでやってきました。好きなことをやるのは簡単ですけど、続ける中で難しいことがいっぱい出てくると思うんです。それでも一つでも大事に思うことがあるのならずっと守っていくべきというか、続けていって欲しいと思います」 好きなことをやっているだけだというが、それを支える強い思いがある。