Master to Artist

47号(2019年4月発行)掲載

中田ナオト
なかだ なおと

美術領域 アートクリエイターコース 准教授

1973
愛知県生まれ
1998
名古屋芸術大学美術学部デザイン科卒業 (芸術学士)
2000
多摩美術大学大学院修士課程美術研究科修了(芸術修士)
【受賞歴・個展】
1997
第5回日清食品現代陶芸[めん鉢]大賞展 新人賞
’97鬼かわらコンクール 審査員特別賞
2000
-overflowing-(フタバ画廊/東京)
2001
(フタバ画廊/東京)
2003
“nothing out of the ordinary” (目白オープンギャラリー/東京)
2005
−魔法使い− (ギャルリー東京ユマニテlab/東京)
2006
【尤もなこと】(ギャラリーオカベ/東京)
2009
TWINS(SAN-AI GALLERY +contemporary art/東京)
2011
アーツチャレンジ2011(愛知芸術文化センター/愛知)
2013
2011ミネアポリスへの旅(SAN-AI GALLERY+contemporary art/東京)
2015
マイヤー×信楽大賞 日本陶芸の今−伝統と革新 陶芸の森特別賞
2016
現在形の陶芸 萩大賞展Ⅳ 佳作
中田ナオト −出会いとひらめきの信楽時間−
(滋賀県立陶芸の森陶芸館ギャラリー/滋賀)
2019
第3回瀬戸・藤四郎トリエンナーレ 審査員特別賞(秋山陽賞)

挑んでこそ

 「陶芸のイメージって、ひげを生やしたおじいさんが、作務衣着て、ろくろ回して、駄目だ、パリーン! そんなイメージだったんですよ」 建築家になりたかったという。大学は建築関係に進みたかったがかなわず、建築に近いところへと考え、スペースデザインコースを志望していた。しかし、ひょんなことから陶芸と出会う。
 大学へ入学して1ヶ月余り、知り合った友人に付き添って陶芸部へ赴いた。「陶芸なんて、全くやる気はなかったですよ。汚れるし、片付けもきちんとやらなきゃいけないし、やってみたら案の定うまくできない。1日で辞めました」。さんざんな出会いである。しかし、何かが心に引っかかった。「うまくできなくて嫌で辞めたと思っていたんですが、半年くらい経ってから、ふと、なぜかもう一度やりたいと思うようになりました。それからですね」。
 デザイナーになりたいと入った大学だったが、2年経った頃には、表現者として進みたいと考えるようになった。自身の中で、その時点での選択肢は、作家性の強い版画か陶芸のどちらかだったという。「平面か立体か、そこが分岐点でした。僕は、立体を選びました」。
 学生時代には、陶芸部を一緒に見に行った件の友人らとともに、グループ展を開催している。そのときには、すでに高さ1mを超える大きな陶芸作品を出展している。立体作品で大きなものを作りたかったというが、ノウハウもなければ作り方すらわからない。試行錯誤しながら、手探りで作品作りに挑んだ。「今思えば斬新な作り方をしていましたね。必要のないところで切っていたり……」。学生時代の間、試行錯誤は続いた。
 大きな作品を作りたいと、失敗を重ねるうちに、魅力的に見えてきたのが多摩美術大学だった。「気になる作品の作家の経歴を見ていくと、皆、多摩美なんですよ。どうやって作っているのか知りたくて、多摩美の大学院へ進むことにしました」。中村錦平氏、井上雅之氏らの作品に憧れ、直接指導を受けることを望んだ。「時代や世代的なこともあったと思いますが、自由度が高かったですね。バブルの頃から、陶芸の世界では作品の大型化という流れがあり、小さな窯でも大きな作品を作ることができる、そういうノウハウを学びました。また、陶芸をどう捉えるか、捉え方はいくつもあっていいと当時から思っていましたが、そういう雰囲気もありました」。

 願っていた大きな作品をものにした。しかし、そこで立ち止まった。自分の作品を見ても、自分でないものを感じてしまう違和感。憧れてきた作品だが、同じ範疇の作品と思われることへの反発だった。「このときから自分らしさとはどういうことなんだろうかと改めて考えるようになりましたね。そして大きく作品を変えることにもなりました」。 憧れてきたが、自分よりも上の世代の作家が作っている作品で、それを後追いしているだけのように思えたという。自分の感じていること、自分の中で整理されていなくても、そのときやりたいと感じたことをもっと出していかなければならないと決断した。抽象的だった作品に、コーヒーカップ、携帯電話、掃除機……、日常的で具体的なモチーフが加わり、自分自身を客観視した作品が生まれた。陶芸という枠を超え、作品は広がりを見せた。
 「学生には『キャパオーバーしてほしい』とよく言っているんです」。失敗や挫折の経験がないと作品は良くならない。「これはやっちゃいけない、といった概念があります。でも、それを疑ってかからないと、新しい発見をしたり、新しいものを作ったりすることはできないと思うんです。手に負えなくなって駄目になったとしても、それを経験しないと得られないことがあると思います」。
 単純に物理的に大きな作品を作るだけでも、重力、構造、技法と、考えなければならないことが急激に増えるという。「この20年、デジタル技術の発展がめざましいですよね。以前なら未来のことと思っていたことが、けっこう実現できてしまっています。デジタルやコンピュータの進化で、どんどんやりたいことができるようになっていますが、もしかすると思うようにできないというところに可能性があるのではないかと思います。何より、身体と感覚と思考によった自分の実感を伴ってやっていくことに魅力があるように思います」。新しい技術と現代という時代の中で、土という実材と、自分の手を通した感覚への強いこだわりが感じられた。

東京郊外、多摩地区にあるアトリエ。作品づくりのほか、過去の作品もいくつか、このアトリエで保管されている

街中の三角コーンが気になる。さまざまな使われ方をスナップ。写真集にまとめられている

学生時代の作品。陶芸作品らしい肌が魅力的。右のめん鉢は、第5回日清食品現代陶芸[めん鉢]大賞展新人賞の作品

コーヒーのような日常的なものが、作品と大きなかかわりあいを持つように

困惑(1996)

陶・120×83×32cm

changing minds(1998)

陶・274×60,276×58,275×61cm

内カラ出ルモノ(1998)

陶・174×92×74cm

untitled(1999)

陶・200×208×200cm
撮影:長塚秀人

制作中、自重に耐えられず、いくつかの部分が崩落しバラバラに。接着剤でつなぎ合わせて復元しボルトで固定、なんとか形を保ったとのこと。しかし、この経験がその後へとつながっていくことになる

untitled(1999)

陶・233×122×150cm
撮影:末正真礼生

フタバ画廊「overflowing」より

overflowing(2000)

陶・235×150×70cm
撮影:末正真礼生

ccup-i(2001)

コーヒーカップに転写、オルゴール
20×20×15cm
撮影:末正真礼生

ccup-ii(2001)

コーヒーカップに転写、オルゴール
25×45×15cm
撮影:末正真礼生

ccup-iii(2001)

コーヒーカップに転写、オルゴール
20×20×15cm×5
撮影:末正真礼生

フタバ画廊個展(2001)より

CCUP(2001)

陶・200×180×120cm
撮影:末正真礼生

CCUPR(2002)

陶、鉄、ベニヤ、キャスター、塗料等・460×200×120cm
撮影:末正真礼生

(T_T) (2008)

陶、鉄、鏡・85×85×333cm
撮影:斎城卓

TWINS –for Maple in Minneapolis(2011)

陶・52×130×20cm

Shigaraki Time(2016)

陶磁タイル(ピンホールカメラの像を用いたダイレクト転写)