デザイン領域イラストレーションコース3年生の後期授業で、新たなプロジェクトが始まりました。テーマは「森林認証制度を広めるためのPRコンテンツ制作」。依頼元は国際的な森林認証制度を運営する非営利団体・FSCジャパン(東京都新宿区)です。学生たちはマンガや絵本、アニメーションなど多様な表現方法を視野に入れ、幅広く発信できる作品づくりに挑戦します。外部講師の一人で、長年編集記者や企業広報を手掛けてきた西埜隆文さんは「読み応えのある作品が出てくると良いですね」と期待を語りました。
2025年10月1日、学生たちは三重県の速水林業を訪問しました。同行したのはコーディネーターの西埜さんと、FSCジャパンの白井聡子さんです。白井さんは「普段は企業(BtoB)に向けた活動が中心で、一般消費者に直接アピールする機会はあまりありません。学生の皆さんからどんなアイデアが出てくるのか、とても楽しみにしています」と語り、今回の試みに期待を寄せました。
速水林業代表の速水亨さんからは、まずFSC認証について詳しい説明がありました。速水さんはFSCジャパン副代表を務めるほか、農林水産省林政審議会委員、三重県林業振興対策審議会委員、森林組合おわせ組合長、環境省中央環境審議会臨時委員や(社)日本林業経営者協会会長などを歴任。日本の林業政策や環境行政をリードしてきた人物です。
FSC(Forest Stewardship Council®/森林管理協議会)は、世界的な森林破壊や違法伐採に対抗するため1994年に設立された国際的なNGOです。認証を受けた森林は「環境保全」「社会的責任」「経済的持続性」という3つの原則に基づいて管理されていることが保証されます。ここで生産された木材や紙製品にはFSCマークが付与され、消費者がそれを選ぶことで健全な森林経営を後押しする仕組みです。違法伐採が児童労働や貧困にも直結している現状の中で、FSCは「森から商品、そして消費者へ」とつながるサプライチェーンを透明化する国際的な認証制度として広く支持されています。イギリス王室やホワイトハウスでも公式文書にFSC認証紙が採用されるなど、その信頼性は世界的に証明されています。
速水林業は2000年に、日本で初めてFSC認証を取得した林業事業体です。戦後の拡大造林期に広がったスギやヒノキの単一植林に対し、いち早く広葉樹を混ぜる「針広混交林施業」を実践。土壌を守り、生態系の多様性を維持する森林づくりを進めてきました。いま日本で多く行われている超高密度の作業路を作らず、ワイヤーで木を搬出するなど環境負荷を最小限に抑える工夫も徹底しています。こうした取り組みは国際的にも高く評価され、速水林業は持続可能な林業のモデルケースとして国内外から注目を集めてきました。
昼食後の山林見学では、ヒノキやスギの間に広葉樹が混ざる多様性豊かな森を歩きながら、速水さんが解説しました。針葉樹の間に自然に生えた広葉樹が土壌を肥やし、倒木や落ち葉が森を循環させていること。クスノキが防虫成分を備え、しなやかな枝で強風に耐えることなど、木々が持つ自然の知恵についても紹介しました。森の力を理解し、人間の営みと調和させていくことが林業の使命だと強調。学生たちは1時間半の見学を通じ、森林が単なる資源ではなく「生きたシステム」であることを実感しました。
その後、速水林業と連携する製材所・塩崎商店を訪問。ここでは木の切り方や枝の状態が材質に与える影響、節の少ない材をつくるための植林や間伐の工夫などについて学びました。塩崎商店では市場に流すだけでなく、注文に応じて山から最適な材を選び、製材所と山側が密に相談しながら提供する仕組みを整えています。京都や鳥羽のホテルからも最高級ヒノキ材の注文があり、地域の森林資源が建築や内装に活かされています。学生たちは創作に使える端材を分けてもらい、木材の手触りや重みを体感しながら、自身の表現へつなげるきっかけを得ました。
帰路には紀勢自動車道 紀北PA「始神テラス」に立ち寄り、FSC認証製品が実際に販売されている様子を見学。国際認証が日常の買い物に息づいていることを実感できたのも大きな収穫でした。
学生たちからは、「認証や森林管理は難しそうに思っていましたが、山林を見学すると生活と直結していることがわかりました」「端材をいただいたので、作品にどう活かせるか考えるのが楽しみです」「アニメーション作品をつくってみたい」といった感想が寄せられ、現場体験が大きな刺激となったことがうかがえます。
このプロジェクトの最終プレゼンは2026年1月14日に予定されています。FSC認証をPRするにあたり、企業を対象とするのか消費者へ訴えるのか、自然環境を前面に出すのか製品を主役にするのかなど切り口は多様で、課題は容易ではありません。学生たちの発想力と表現力に、今後ますます期待が高まります。