2026年7月29日(水)、シヤチハタ株式会社本社で、名古屋芸術大学デザイン領域インダストリアル&セラミックデザインコース、カーデザインコースによる中部文具工業協同組合との産学連携プロジェクト「2026 文具デザインプロジェクト」の最終発表会が開催されました。会場には、シヤチハタ株式会社の舟橋正剛代表取締役社長、森松産業株式会社の森直樹代表取締役社長をはじめ、両社の社員が参加し、約2ヶ月にわたって取り組んできた学生たちの提案に耳を傾けました。
このプロジェクトでは、シヤチハタ株式会社からは「誰かの 〈困った!不満!不安!〉 を解決するアイテム」、森松産業株式会社からは「デジタルな作業をより快適に、より楽しくするPCグッズ」という、それぞれ異なるテーマが提示されました。学生たちは企業へのヒアリングやリサーチを重ねながら企画をブラッシュアップし、商品化も視野に入れた提案に取り組みました。
審査では、「ターゲットは明確か」「シナリオは具体的か」「アイデアは魅力的か」「ユーザーが使いやすいデザインか」「発表は分かりやすかったか」の5つの視点から評価が行われ、アイデアだけでなく、社会課題の捉え方やユーザー視点、プレゼンテーションまで含めて総合的に審査されました。
プレゼンテーションの冒頭で三枝樹非常勤講師は、「1回の授業の中で2社のデザインに取り組み、現場の声を聞きながら一緒にものづくりを進めることができる、まさに産学共同のデザインプログラムです」と、この授業ならではの学びを紹介しました。また、「今年度は大学に導入された3Dプリンターを活用し、具体的なプロダクトモデルまで制作できる環境が整いました」と説明しました。学生たちは発表直前まで試作を繰り返し、モックアップの完成度を高めて最終プレゼンテーションに臨みました。
続いて舟橋社長は、「ユーザーのニーズは多様化しています。皆さんがどのような視点や観点で課題を捉えるのか、メーカーとして非常に興味があります。発表だけでなく、その考え方からも多くの気づきをいただければと思っています」と、学生たちへの期待を語りました。
学生たちのプレゼンテーションでは、単に商品のアイデアを説明するのではなく、ターゲットをどのように設定し、その課題をどのように発見したのか、さらにそこからコンセプトを導き、モックアップを制作し、実際の使用シーンまでを一つのストーリーとして提案しました。
発表された作品は、裁縫や木工、子育て、店舗運営など、それぞれの学生が日常生活やアルバイト、趣味の中で見つけた課題を出発点としたものが多く見られました。PC作業をより快適にするグッズでは、公共空間での新しい過ごし方を提案するなど、多様な視点から商品企画が行われました。どの提案も、単なる発想にとどまらず、ユーザー像を具体的に設定し、試作を重ねながら実際の利用シーンまで丁寧に考え抜かれていたことが印象的でした。
身近な暮らしや仕事の中にある小さな不便を丁寧に観察し、ユーザーの立場から新たな価値を生み出そうとする提案が続き、企業担当者からは商品化の可能性や改良点について活発な質問が寄せられました。発表前は緊張した様子だった学生たちも、自身のアイデアを語り始めると次第に表情が和らぎ、質疑応答では笑顔も見られるなど、会場は終始和やかな雰囲気に包まれました。発表を終えた学生たちの表情からは、企業へ向けて提案した達成感と充実感が感じられました。
審査の結果、森松産業株式会社メーカー賞には前田茜さんの「キーボードにゃット」、シヤチハタ株式会社メーカー賞には藤居航さんの「木工マーカー」、最優秀賞には前田茜さんの「チャコシマイ」が選ばれました。
前田さんの「チャコシマイ」は、裁縫で繰り返される型紙写しや縫い代の記入といった工程を効率化するアイデアが高く評価され、シヤチハタ株式会社の社員からも商品化への期待が寄せられました。また、藤居さんの「木工マーカー」は、木工初心者でも木材を傷つけずにマーキングできる点と、完成度の高いモックアップが評価されました。
講評で森社長は、「3Dプリンターの導入によってモックアップの精度が非常に高くなり、プレゼンテーションの構成も年々レベルアップしています」と学生たちの成長を評価するとともに、「AIなどの技術が発達する時代だからこそ、人間が何を考え、何を生み出すのかがますます重要になる。技術と人の発想を掛け合わせながら、市場に受け入れられる商品を生み出してほしい」と期待を寄せました。
最後に三枝樹非常勤講師は、「発表は私の期待を超える内容でした。最後の一週間でここまで仕上げてきたことに感動しています」と学生たちの努力をたたえました。企業の課題に向き合い、ユーザーを見つめ、アイデアを形にして伝えるまでの一連のプロセスを経験した今回のプロジェクトは、学生たちにとって社会とつながるデザインを実践的に学ぶ貴重な機会となりました。