本学デザイン領域メタル&ジュエリーデザインコース、テキスタイルデザインコース、美術領域工芸コース(陶芸・ガラス)は、今年度から領域横断による連携を始めています。愛知県の伝統工芸とコラボレーションし「第38回伝統的工芸品月間国民会議全国大会」(KOUGEI EXPO IN AICHI)に出展する「工芸EXPOプロジェクト」において、デザイン領域メタル&ジュエリーデザインコース・美術領域ガラスコースでは尾張七宝とコラボレーションし、メタル・ガラス2つの素材を融合させた作品作りに奮闘しています。制作の様子をすこし見せていただきました。

 ガラス工房では、学生が溶解炉で溶かしたガラスを竿に巻き取って成形するホットワークにチャレンジしていました。学生に聞くと、伸ばしたガラスをS字に成形し、それをメタルと組み合わせる作品にするとのこと。S字の加工は難易度が高く、技術員の方にうかがっても何度か練習して作るものだとか。方法としては、ガラス全体を温めておいて一気に成形するか、前後に分けてゆっくり慎重に成形するかの2種類。当然、ガラスの扱いに不慣れな学生は後者の方法で制作、しかもこれまでにこうした作業はやったことがないといいます。S字の半分を曲げ、炉の中ではガラスの先の方から温まるため、今度は逆向きにガラスを竿に取り付け、残りの半分を曲げていきます。とはいえ、ガラスを温めるにしても炉の中で溶け落ちないように注意しながら竿を扱い、いざ成形というときにも迷いなく狙う形に持っていかないとすぐに冷めて形が作れなくなってしまいます。温める過程で崩れてきた形を素早く修正しつつ狙う形に曲げていくことは非常に難しく、タイミング、決断、根気とさまざまざことが要求されます。技術員に指導を受けながら、何度も温め形を修正し狙う方向にすこし曲げてと、繰り返していきます。小一時間ほどかかり、逆向きに取り付けてなんとかS字に近づき始めた頃、残念ながら破損。無理に力を加え過ぎたようです。時間切れで、この日のチャレンジはここまでとなりました。

 七宝焼の制作は、あま市にある七宝焼アートヴィレッジにて行われています。メタル&ジュエリーデザインコースでは後期の毎週金曜に尾張七宝伝統工芸師の加藤実さんの実技指導を受けていますが、その場で工芸EXPOのための制作も行っています。出展作品は、同じあま市の(資)相互七宝製作所様から、製品にならなかった仕掛品の花瓶を提供していただき、そこにメタルとガラスの作品を組み合わせるというもの。七宝焼自体が金属とガラスを融合させた作品とはいえ、有線七宝のように薄い銀線ではなくもっと大きなガラスを設置するための台座となる金属を溶かして接合するなど、加藤氏がこれまでにやったことのない技法もあり、試行錯誤しながらの制作となります。通常、七宝焼は、釉薬を乗せ800~850度で数分焼くことを絵柄に応じて数回繰り返し完成させますが、750度程度の低めの温度で何度も何度も試しながらの制作となりました。加藤氏いわく、七宝は焼き過ぎなければ修正が効くとのことで、頻繁に窯を覗いて中の様子を窺いながら制作します。七宝の制作は、釉薬を乗せたとき水分が残っていたり、釉薬と素材の間に空気が入っていたりすると大きくはがれてしまったり、でこぼこになってしまったりと、やはり繊細な技術が必要なもの。失敗しては修正して焼き直すといった過程を繰り返し、なんとか作品を仕上げていくことになります。修正が効くとはいえ、何度も焼き冷めるのを待って釉薬を差しという作業は、やはり根気と集中力の要るものです。
 ガラスにしても七宝焼にしても、改めて感じるのは制作の難しさ。工芸は、思い通りにならない素材と向き合いながらの制作ということを実感させます。急場しのぎのごまかしや慌てて取り繕うようなことが一切できません。確かな技術はもちろん制作者の精神性といったものまで要求されるような、奥深い世界の一端を感じさせます。

 この制作を機に、素材を提供して下さった相互七宝製作所さんの工場を見学させていただく機会に恵まれました。工芸EXPOに参加する学生とともに、七宝焼アートヴィレッジのすぐ近くの相互七宝製作所さんにお邪魔しました。ちょうど無線七宝に釉薬を差す作業中で、息を呑んで作業を見守りました。さまざまな色合いの釉薬や使い込まれた道具たちが並ぶ工房にピンと張りつめた空気が漂い、作品が生まれてくる現場を見ることはとても有意義な経験となりました。長く使われている窯や研磨機にも歴史の重みを感じます。七宝焼の伝統に触れ、大いに触発される素晴らしい工場見学となりました。

ガラス工房

七宝焼アートヴィレッジ 七宝焼制作

相互七宝製作所 見学