第44回名古屋芸術大学卒業制作展記念講演会 箭内道彦氏による記念講演会を開催しました

2017年2月21日(火)〜2月26日(日)にかけ、愛知芸術文化センター(8階・12階)、名古屋市民ギャラリー矢田、本学 西キャンパスの3会場で「名古屋芸術大学卒業制作展」が開催されました。この卒業制作展を記念して、最終日の2月26日(日)に、愛知芸術文化センター12階、アートスペースAで、卒業制作展記念講演会が行われました。今回は、クリエイティブディレクター、東京藝術大学美術学部デザイン科准教授の箭内道彦氏をお招きして「新人と旧人」という演題でお話しいただきました。

はじめにデザイン学部長 櫃田珠実教授から箭内氏の紹介がありました。制作した数々のCM、またNHKのMCを務めたことなどから、広告業界のみならず広く知られる存在であり、特に東北大震災以降は、人と人、人と社会をつなぐ活動に力を入れていることやいつもパワーがあり熱く優しいメッセージを届けてくれることなどの説明がありました。社会に羽ばたこうとする学生を、熱いメッセージで送り出して下さいと、紹介されました。

拍手とともにすこし照れるようにしながら登場した箭内氏は、トレードマークの金髪に、花火の柄のスカジャンにバラの模様のボトムと、いつもの派手な服装で現れました。立ち上がって挨拶をはじめると自己紹介用の映像を上映してくれました。「普段は、クライアントの企業に見せるもので、恥ずかしい……」と前置きして始まりました。2003年に独立して以降の経歴、TVで見かけたCMのスチル、などコンパクトにまとめられています。改めて見てみると、TOWER RECORDS、サントリー、資生堂、FUJIFILM、リクルート、パルコなど、ナショナルブランドの仕事をそれぞれに長く続けていることがよくわかります。また、TV、ラジオ、映画監督、猪苗代湖ズでの活動など、活動の幅の広さも目を惹きます。

講演は、名古屋との係わりから始まりました。NHKの「トップランナー」という番組で、西野カナさんと二人でサンシャインサカエの観覧車に乗ったと会場を沸かせ、猪苗代湖ズの「I love you & I need you ふくしま」の話になりました。2011年3月11日の6日後、17〜19日の3日間、名古屋に来てレコーディングしたといいます。計画停電で電車も間引きされ、役所、学校、公共の場の電気は落とされ暗くなった東京。電力に配慮し、名古屋に来てレコーディングして東京に持ち帰り、福島に音楽を届けました。当時を振り返り「重く暗い東京に対し、名古屋は何もなかったかのように眩しく、すこし苛立ちました。でも、そのときは自分でも地に足がついていない行動をしてた。日本全国で落ち込んでしまっては、東北を支えてもらうことはできない。名古屋は、全国と被災地とを考えるきっかけとなりました」と話しました。

「新人と旧人」とは、新しく社会人になる「新人」と、社会人2年目以降の人すべてを「旧人」として、新人の役目を説明しました。新人の役目は「古い人たちに教わることだけではなく、旧人を刺激することにある。今年の新人はひと味違うなと思われることが社会との出会いの大きなコツ」と卒業生を鼓舞する言葉をくれました。「社会に出ると、初日で勝負が決まると思うんです。新人は、借りてきた猫のよう。でもじつは迎える社会の側はすごいやつが来たらどうしようと怖がっています。だから、ぶちかました方がいい!」と話します。その上で、美術大学で学んできたことは、非常に意義深いことであるといいます。社会に合わせるだけではなく、自分の視点を持って考えること、学んできたことを生かすことの意義を唱えました。

ここで、うれしいサプライズがありました。一人で話すのは慣れていないという箭内氏は、会場にいる画家の杉戸洋氏を壇上に上がるよう求め、ここから二人の対談という形式になります。杉戸氏は、東京藝大准教授(元本学デザイン学科教授)を務めており、今回の箭内氏の講演のコーディネイトに尽力いただいた存在です。二人のクリエイターによるお話は、穏やかな雰囲気のなかにも、ドキリとさせられる言葉がたくさん含まれる、ユニークなものになりました。

箭内氏は、どこかで本で読んだと前置きし、「百人に一人の能力がある人が、3つ特技を持てば1/100のが3つで1/1000000、百万分の一の人になれる。人の個性とはそんなもの。僕は、デザインとロック、もうひとつはまだ探しているところ。3つ目を育てるのは大学を出たあとかな」 それに応えて、杉戸氏は「僕は、そんなにないですよ……。バイクかな、どれもちょっとずつ(笑)。大学入試の面接官をやりますけど、よく考えてみると、その人の3つ目を探して変なことを聞いているのかもしれない」と返します。

また、箭内氏は美大を応援したくて「美大のススメ」という本を出したいと思い出版社に企画を持ち込んだりしたものの、需要がないとのことで却下されたことを杉戸氏に相談。杉戸氏は「タイトルが良くない(笑)」と返答。美大生は、物事をまとめず解体したがる特徴があること。そして、課題を発見して持ち続け、生涯、課題に取り組みくすぶっている感じが抜けない。でもそれが美大生の強みと語りました。

箭内氏は、自分の経験から、なりたい職業よりもやりたいことを重視するよう、やりたいこととその目的が明確であれば、どんな状況になっても叶えられること。さらに、現代の社会は、さまざまな分野が断絶され、言語だけでは関係が修復できないところにあり、そんな時代だからこそ、芸術、美術、音楽などのアートが必要とされている。有史以来、最もアートが社会に必要とされている瞬間であるとの認識を示しました。

最後に、「大学を卒業し社会で武者修行をして、人と知り合い、失敗した経験で得たものを、自分の育った場所に恩返しして欲しい。そうすることで、もっと社会は良くなっていくはず」とまとめました。 現在の自分の考えをストレートに歌詞にしたとして、音速ラインの「生きてくことは」挙げ、PVを上映して講演は終了となりました。

杉戸氏との対談は、思わず吹き出してしまうような可笑しい話題を織り交ぜながらも熱のこもったもので、学生たちもしっかり熱いエールを受け取っていたように感じました。

一般からの関心も高く、開場と同時に多くの方が訪れました

デザイン学部長 櫃田珠実教授から箭内氏を紹介

照れながら箭内氏登場

普段はクライアントに見せている自己紹介映像。活動の幅の広さに驚かされます

会場には本学4年生のほか、申し込みで一般からの入場も。他大学の学生と思われる来場者も多く見られました

うれしいサプライズ。会場から杉戸洋氏登場

1/100が3つで1/1000000、3つ目を育てるのは大学を卒業してから

なりたい職業よりも、やりたいことが大事。やりたいことがはっきりしていれば、必ず叶えられる

杉戸氏「名芸の良さは、学食が美味しいことと画材屋。画材屋の兄ちゃんに助けられたことあるでしょう?」 会場は大きく頷く

音速ライン「生きてくことは」 PVをじっくり鑑賞

質疑応答。「自分の力不足を感じています。どんなことをしていけばいいですか?」 箭内氏「あなた、何かやってくれそうな顔立ちしてる(笑)。たくさん失敗すればいい」