テキスタイルデザインコース公開講座「シンポジウム テキスタイル産地のこれから ローカル&グローバル」を開催

2017年11月21日(火)、本学西キャンパスB棟大講義室にて、芸術学部芸術学科デザイン領域 テキスタイルデザインコース主催の公開講座「シンポジウム テキスタイル産地のこれから ローカル&グローバル」を開催しました。この公開講座は、共催に(公財)一宮地場産業ファッションデザインセンター、日本毛織物等工業組合連合会、尾州テキスタイル協会、後援に一宮市が付くもので、本学がこれまで取り組んできた地元テキスタイル産地との産学連携プロジェクトの一環として行われたものです。
日本のテキスタイル産地は、世界基準の高い技術力を持ち、欧州のファッションハイブランドに採用されるほどの高い評価を得ているにも関わらず、アジア諸国が生産する安価な製品に押され生産量が減少し、産業の衰退、後継者不足といった深刻な問題を抱えています。このような状況に対して、デザイン力を高めることで問題解決を図ろうとする試みが、若手のテキスタイルデザイナーから始まっています。今回の公開講座では、2017年度特別客員教授の斎藤統(さいとう おさむ)氏と2016年度特別客員教授の宮浦晋哉(みやうら しんや)氏、さらにテキスタイル産地で働く若手デザイナー、本学卒業生の小島日和(こじま ひより、terihaeru / canale2 / NINOW代表)氏、田畑知著(たばた ちあき、中外国島株式会社)氏、播州織産地出身でいち早く衰退する繊維産地ファッションとの距離に疑問を持ち活動を続けている小野圭耶(おの かや、東播染工株式会社)氏の3名を迎えて、テキスタイル産業のこれからについて考える内容です。

講座は2部構成で行われました。前半は、デザイン領域 扇千花教授を含む6名の登壇者一人ひとりがこれまで自身が関わってきた仕事や経歴、今現在行っている業務について、また、産地やテキスタイル産業について考えていることなどをプレゼンテーションしました。後半は、6名のパネリストによるパネルディスカッションとなります。また、会場には、テキスタイルデザインコースの学生によるテキスタイル開発プロジェクト「NUA textile lab」で制作された生地のサンプルが展示されました。会場には、学生に加え、お世話になっている尾州産地の企業の方、アパレル企業にお勤めの方、さらに百貨店など服飾品小売に関わる方など、多くの業界関係者にもお越しいただき、デザイナー、製造メーカー、小売業者など関係者が一堂に会する場となりました。

はじめに扇教授から、今回の登壇者の紹介があり、続いてプレゼンテーションが行われました。本学テキスタイルデザインコースの、羊毛をカットして毛糸を、綿花を育てて綿を収穫し木綿を制作する、素材制作から取り組んでいるカリキュラムを紹介し、さらに有松絞り、名古屋帽子、尾州産地といった地場繊維産業との産学連携事業、学生によるテキスタイル開発プロジェクト「NUA textile lab」の紹介など、テキスタイルコースの概要と取り組みを紹介しました。

続いてのプレゼンテーションは、宮浦晋哉氏が行いました。杉野服飾大学卒業後、渡英してLondon College of Fashionで学んだこと、さらにそこで日本製の生地が高く評価されていることを知り、そのことがきっかけで国内の産地に興味を持ったことなどが説明されました。プレゼンテーションの後半は、産地の現状を売上データなどから説明。現場に赴いたときの様子などを豊富な写真などと一緒に紹介していただきました。

続き、若手テキスタイルデザイナー3名が順にプレゼンテーションを行いました。最初は、本学卒業生の小島日和さんからです。学生時代に考えていたことから始まり、テキスタイルデザインコースを選んだ理由、さらに在学中に出会った有限会社カナーレの足立聖氏のこと、織物産地とアパレルの関係性の問題点など、現在につながるプロセスを紹介しました。

田畑知著さんも、本学テキスタイルデザインコースの卒業生。一度社会に出てから、再度大学で学ぶという経歴を説明し、学生時代に参加した、一宮地場産業ファッションデザインセンターが行うデザイナー育成事業「翔工房」について、経験したことや反省した点などを紹介しました。

小島さん、田畑さんよりも早くから織物産地との関わり合いを持つ小野圭耶さんは、高校時代、生まれ故郷である播州産地(兵庫県西脇市)の職人との出会いに始まり、下請け仕事が中心となっていることへの疑問と問題について説明。自身の活動について紹介していただきました。

続いて、再度、小島日和さんが登壇し、今度は、若手産地デザイナーによる合同展示会「NINOW(ニナウ)」について報告しました。本日、参加いただいた3名のデザイナーに加え、6名のデザイナーが10月26、27日に東京、代官山のクラブヒルサイドサロンで合同展を開催しましたが、発起人である小島さんが、実現までのプロセスや当日の様子、反省点などを報告しました。

プレゼンテーションの最後には、齋藤統氏が登壇し、若手の活動を評価し、海外と日本の市場や商習慣の違いを説明。日本には優れた技術があるもののソフト面が不足しているなど、問題を提起しました。また、オールジャパンで海外市場へ売り込む戦略など現在の活動に触れ、学生たちにも通訳を通さず説明できる語学力が重要だと説明しました。

休憩を挟み、後半はパネルディスカッションが行われました。
宮浦氏が進行役となり、NINOWの反響についてから始まりました。テキスタイルの世界では、企業名より先にデザイナー個人の名前が出ることはないので、デザイナーだけでなく製造の現場にとっても大きな刺激になったこと、その場で多くの問い合わせがあり、多くのスワッチ(織物の素材見本)を現在も送っている最中であることなどが語られました。反面、産地の現状ではアパレルデザイナーが求めている商品がどんなものなのか意識しないままデザインしており、今後、摺り合わせが必要、といった反省の言葉も聞かれました。
齋藤氏からは、NYの展示会ではその場で商談が成立することもあるなど、米国、欧州、日本の商習慣の違いについて話があり、日本独自の「消化仕入れ」(陳列する商品の所有権を卸業者やメーカーに残しておき、小売業者で売上が計上されたと同時に仕入れが計上されるという取引形態)について紹介し、そのことによる目利きとしての質の問題や在庫リスクの責任についてなど、知っておくべき商習慣についても説明がありました。また、近年では、インターネットによる生地の販売なども始まってきており、新しいことを受け入れていくことの重要性などについても語られました。
扇教授からは、日本はソフトの部分が不足しているとの話があったが、欧米に対してデザイナー個人の発想力は決して劣っているわけでなく、そうしたアイデアを生かすための土壌や仕組みが不足しているという発言がありました。

質疑応答では、百貨店にお勤めの方から、今後の動きとして洋服を購入する顧客に対してデザイナーや産地を前面に出していくための方法についての質問や、尾州の企業の方から、尾州の織物を高級品としてアピールすることを中心に考えているが、安価なものもたくさん製造しておりもっと幅の広い視野で見て欲しいなどといった意見が出されました。

4時間に及ぶ、長時間のシンポジウムとなりましたが、業界関係者、若手テキスタイルデザイナー、学生が交わり合う、非常に有意義なものとなりました。

前半は、パネリストが順に自分の経歴や仕事についてプレゼンテーション。扇教授は、パネリストの紹介とテキスタイルデザインコースについての説明

宮浦晋哉氏は留学先の英国で、日本の生地が高く評価されていることを知り、国内の産地に取り組むことになった経緯を紹介。現在の産地についても報告

小島日和さん。学生時代の話や、有限会社カナーレの足立聖氏との出会いについて説明

田畑知著さん。一旦社会に出て働くも、大学に入り直してテキスタイルに取り組むことになった経緯を紹介

小野圭耶さん。高校時代に播州織職人と出会い、産地企業に就職、自社ブランドを立ち上げる。同世代の職人と勉強会などを行い、「考える工場」という概念を提示

齋藤統氏。日本には優れた技術があるもののソフト面が不足していると問題を提起。語学力も重要と説明

会場には、「NUA textile lab」で学生がデザイン、尾州で制作された生地のサンプルを展示

休憩時間、講座終了後、サンプルを手にとって熱心に見入る方も