サウンドメディア・コンポジションコース 入交英雄氏による公開講座「3Dオーディオの現状と未来」を開催しました

11月23日(木)、本学東キャンパス2号館大アンサンブル室にて、芸術学部芸術学科 音楽領域サウンドメディア・コンポジションコース主催の公開講座「3Dオーディオの現状と未来」を開催しました。講師には、昨年度サウンドメディア・コンポジションコースで非常勤講師を務めていた株式会社WOWOW技術局シニアエキスパートの入交英雄氏をお迎えしました。

講義に先立ち、大アンサンブル室には、いくつものスピーカーが設置されました。客席を取り囲むように、スーパーウーハーを含めた7.1チャンネル、さらに2.5mほどの高さに4チャンネル、合計12個のスピーカーが設置されています。今回の機材は、株式会社ジェネリックジャパンより、また設置においては、東海地区の放送関係者の勉強会から中京テレビ放送株式会社の技術の方々にご協力いただきました。

講座は、長江和哉准教授による入交氏の紹介から始まりました。入交氏とは、2000年に、新潟で行われた、トーンマイスターによるの録音制作の勉強会で同じグループになったのがきっかけで、以降、親睦を深めていること。入交氏は日本に留まらず、世界でも有数の3Dオーディオ録音技術の研究者として知られ、大変素晴らしい技術を持っていること。さらに作曲も手がけ、TV番組やゲームの音楽を手がけていることなどが紹介されました。
入交氏が登壇すると、入交氏の活動と3Dオーディオについて紹介するビデオが流されました。平面的な5.1サラウンドに上方向を加えた3Dオーディオの仕組み、さらに入交氏が取り組んできた、3Dオーディオの録音方法について、簡単に説明されました。

そして、入交氏が実体験を踏まえて、ハイレゾや新たに登場している3Dオーディオのフォーマットについて説明しました。ハイレゾの定義は、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)規格では、44.1k24bitとされていますが、先月発表されたグラミー賞を主催する団体NARASでは、96k24bitが標準としており、今後、96k以上を基本に考えていくべきであると紹介。実際に音を聴き比べた場合、サンプリング周波数が96kと192kでは区別がつかないが、768kまで高めると聞き分けることができると紹介。その理由として、左右の耳では音の到達時間の差を細かく聞き分けることが可能で、その差はデジタル信号の500k相当になると説明。人間の耳で聞き取れる周波数帯域は20〜20,000Hzとされていますが、音の到達時間の差を敏感に感じ取っており、その部分でサンプリング周波数の違いを感じ取っているのではないかと説明しました。また、3Dオーディオのフォーマットとしては、NHK放送技術研究所が策定した「22.2マルチチャンネル音響」、「DOLBY ATMOS」、ベルギーで開発された「Auro-3D」、「DTS:X」などがあるが一長一短で今後どのフォーマットが主流になるのか不明で、制作側としてはどのフォーマットへも変換できる形で制作しておく必要があり、そこが問題であると説明しました。
さらに、スピーカーの数と聞き手の印象の変化について説明。具体的に、8個以上のスピーカーの数になると印象がかなり変化すること、また、2m間隔で配置すると結果が良いなど、実体験に基づいた説明をしていただきました。また、ヘッドフォン用の3Dオーディオのフォーマットについても説明しました。

説明の後は、入交氏がさまざまなホールや教会で録音してきた演奏の試聴となりました。それぞれの場所で、どのようにマイクをセットしたか図で示し、7.1+4chを2chステレオに切り替えたり、上部の4chを消した場合、歩いて試聴する場所を移動した場合の聞こえ方の違いなどを確認しました。
7.1+4chの音は、通常5.1chサラウンドを聞くよりも音の密度感が高く、響きの余韻なども聴き取れ、3Dオーディオの魅力を存分に体験することができました。

試聴の後、休憩をはさみ、3Dオーディオを再生する場合のセットについての説明を行いました。スピーカーの配置について、耳の高さのものを「ミドルレイヤー」、頭上を「ハイレイヤー」、さらに天井から真下に向けて設置するものを「オーバーヘッドレイヤー」、耳より下の位置にあるスーパーウーハーなどを「ボトムレイヤー」と定義し、先に説明した22.2、DOLBY ATMOS、Auro-3D、DTS:Xの定義をチェックして、流用することのできるスピーカー配置を紹介しました。

後半の試聴では、大台ヶ原や八ヶ岳の自然音、甲子園や花園ラグビー場の試合の音声などを試聴。やはりそれぞれのマイクの設置位置や録音方法を詳細に紹介しました。大台ヶ原の雨の音など非常に繊細で森の中にいる感覚が呼び起こされたり、スポーツの音では臨場感が素晴らしく、3Dオーディオの魅力と非常に有効な技術であることが理解できました。

質疑応答では、マイクのことや録音時のモニター環境、リバーブによる加工など、録音時のポイントについての質問がありました。録音方法については、決まったやり方がなく現在も模索し考えながらやっていること、また現在、本学にある機材を組み合わせ3Dオーディオの録音を実際に行うことができ、ぜひ、実践してみて欲しい、上部にマイクを増やすだけでも大きな違いを体験することができるはず、との言葉がありました。
学生からの感想では、小さなスタジオで聴くよりも空間を感じる、臨場感がすごくて実際に現場にいるよう、ライブビューイングやスポーツ観戦がすごく楽しめそう、などの声が聞かれました。
尚、本特別講義は公開講座として行い、多くのプロフェッショナル音響家の方に出席をいただきました。ご参加いただきありがとうございました。

機材協力 株式会社ジェネレックジャパン

長江和哉准教授の挨拶と入交氏の紹介から講座はスタート

入交英雄氏。今回の講座では、教会、ホール、大台ヶ原、甲子園球場などさまざまな場所で録音した音声を試聴

席を取り囲むように、耳の高さに8個、2.5mほどの高さに4個、合計12個のスピーカーを設置

ビデオや図を見ながら、3Dオーディオのフォーマットについて、実体験を加えて説明

試聴開始。ホールや教会など、それぞれの録音現場の状況と設置したマイクの種類と位置を詳細に説明

立ち上がって位置を移動した場合の音の変化なども確認。2chステレオとの聞きく比べや上部スピーカーをオフにした場合の変化など、さまざまなパターンを確認

後半は、再生装置のセットについて、フォーマットごとの違いなどを紹介

大台ヶ原、八ヶ岳、甲子園球場、花園ラグビー場など、自然音を中心に試聴

質疑応答。録音現場の状況や加工についての考え方など、制作上の疑問や注意点についての質問がありました