第45回卒業制作展記念講演会(第2弾)
辻惟雄氏による記念講演会を開催しました

 2018年2月24日(土)、本学西キャンパス B棟大講義室で、辻惟雄(つじ のぶお)氏による記念講演会「“かざり”の生命」を開催しました。例年、卒業制作展ではゲストをお招きして講演会を開催していますが、本年は、デザイン領域主催で東浩紀氏、そして、美術領域主催で今回の辻惟雄氏の2名をお招きしました。今回の講演は、辻氏の幅広い研究の中から、氏が日本美術の本質的な特質のひとつに挙げている「かざり」について、お話しいただきました。

 講演に先立ち、美術領域主任 須田真弘教授からあいさつがあり、続き、美術領域 長田謙一教授から、辻氏の紹介がありました。辻氏は名古屋市出身で、岐阜県の高校に進学した、この地方にゆかりのある方。辻氏の人物像を物語るエピソードとして、通っていた岐阜第一中学が戦争を隔て学区制が導入されることとなり、そのことに抗議して中退。その後、上京し日比谷高校へ転籍したという、気骨ある人柄を象徴する逸話が紹介されました。また、家の関係から医学を志すも、画家になりたいという本人の希望もあり、その間を埋めるものとしての美術史研究という学問があるように思いますと長田教授は説明。辻氏は伊藤若冲の発見者であり専門研究家として世界的に知られていますが、その本質は、美術の見方、デザインの見方に関する「眼の革命」の推進者であるという考えを話しました。美術とは、芸術とは、といった哲学的な問いを、具体的な作品を前にしながら、見る側の意識やモノの見方を革新してきた、辻氏のこれまでのキャリアは一貫してそういうものであると、紹介しました。

 今回の講演は、かざりの概念についてですが、近代デザインが装飾を排除して成り立っているのに対し、その過程で切り取られていった「かざり」を見直してみること、また美術を考えるときに、「かざり」や「つくりもの」が一段低いものとして扱われてきたことに着目することで、新しく「かざり」を捉え直すことになり、改めてその価値に気づき、新たな見方を獲得することが期待されると、紹介しました。

 講演は、前半で「かざり」という言葉の成り立ちと概念、また、歴史上、言葉としてどんな使われ方をしてきたかを確認します。後半は、スライドで過去の美術品を表示し、「かざり」という視点で過去を見たときにどのように感じるか、解説を加えながら見ていくという内容となりました。

 講演は、どうして「かざり」に着目したか、というところから始まりました。1988年、東京のあるデパートでの展覧会の企画を考えているとき、歌舞伎研究家の服部幸雄氏が書いた、歌舞伎についてのパンフレットを偶然目にします。そこに、歌舞伎というものがいかに「かざり」の要素で構成されているか、演技、衣装、大道具、小道具、すべてにおいて「かざり」が非常に大きな役割を果たしている、という一文を見つけ、「かざり」を通して美術品を見るという発想を得たといいます。

 日本人は茶の湯を生み出し、虚飾を取り去った簡素で洗練された表現を求めて来たように通常考えられていますが、「かざり」はその逆です。その両方は矛盾しているようでいて、しかしながら、日本美術はその両方を練り合わせるようにして展開してきたともいえると説明します。「かざり」という言葉は「かざる」という行為から派生してできた言葉であり、「かざる」という行為は、あるものを飾る役割だけを持ち、それ自体に独立した内容も目的もありません。そのため「Fine Art」(純粋美術)たり得ず、一段下位におかれることになりますが、「かざる」という行為そのものは、人間の本性に根ざした大切な行為であり、生のあかしであり、生の喜びの表現であるといえます。日本文化の中の「かざり」は、まさしく生とつながっており、伸びやかで、生き生きとしていると説明します。「ハレとケ」を引き合いに、「かざり」はハレの空間を作るための装置であり、祭りこそが「かざり」の最大の見せ場であり、日常を非日常へと変える役割を果たしていると説明します。

 また、中国から伝播した文化や美術が、日本でどのように変容したか、また、西洋の美術もの中での「かざり」の位置付け、明治時代以降の訳語や意識の問題など、美術史という枠では収まりきらない文化論にまで「かざり」を押し広げて考え、美術と工芸の境界や、美術とデザインの境界など、興味深く、また、深く考えさせられる内容の講演となりました。

 後半は、縄文式土器に始まり、古代から古墳時代、飛鳥、平安、桃山、江戸、近現代へと、さまざまな美術作品の画像を表示しながら、「かざり」という視点で見て、日本美術の変遷をたどっていきました。表示される作品は、有名で見たことのあるようなものなのですが、作品ごとに加えられる解説が面白く、新たな魅力に満ちあふれています。時代背景に加え、ときには和歌を引き、また、その時代の風俗や文化についての説明が加えられるなど、非常に有意義なものとなりました。また、デザイン的な作品を解説しながら作者にとっては区別なく制作されていたのではと説明を加える、非常に示唆に富んだ内容となりました。

 最後に再び、長田教授から、飾らないかざり、飾り立てるかざり、「かざり」という言葉から、美術、工芸を超え、枠を超えた幅広い作品の中から、造形の、形そのものの美しさを見る新しい見え方を示していただいたのではとの言葉があり、講演は締めくくられました。

美術領域主任 須田真弘教授からごあいさつ

美術領域 長田謙一教授から辻氏の紹介

穏やかな口調で、「かざり」という言葉について解説する辻氏

後半は、作品を見ながら日本美術の変遷をたどる

美術、かざりに対しての大陸文化や仏教の影響など、多方面から解説

今回の記念講演にも幅広い年齢層、多くのお客さまにおこしいただきました

講演終了後、著書へのサイン会を開催。多くの人が行列に並びました