ワールドミュージック・カルチャーコース開設記念
特別公開講座 岡野弘幹氏による「民族音楽が秘める可能性と未来」を開催

2019年11月7日、東キャンパス2号館 大アンサンブル室にて、「民族音楽が秘める可能性と未来」と題し、岡野弘幹氏の特別公開講座を開催しました。この講座は、来年度新設されるワールドミュージック・カルチャーコースの開設を記念し、特別客員教授に就任予定の岡野幹弘氏に講座をお願いしたものです。
講座は2部構成で行われ、前半は岡野氏のキャリアを説明し、その過程で出会った様々な音楽やミュージシャンの動画を閲覧しながら現在のワールドミュージックがどのようなものであるかを説明する座学。後半は、ネイティブアメリカンが使用する楽器を中心としたライブで、岡野氏の演奏が披露されました。大アンサンブル室には、ポップス・ロック&パフォーマンス、音楽ケアデザイン、声優アクティング、サウンドメディア・コンポジション、リベラルアーツ等々、学生側も多彩なコースの学生が集まりました。

前半の講義は、岡野氏のキャリアの説明から始まりました。J-POPプロデューサーとして、Justy-Nastyや、いわゆるビジュアル系バンドに係わりプロデュースをしていたとのことで、とにかく現場に係わって音楽を作りたかったといいます。大阪のラジオ番組やTV制作にも携わっていたそうです。そうした中、あるバンドをイギリスからデビューさせるプロジェクトがあり、スタッフとともに音を作り込んで渡英したところ、イギリス側のプロデューサーから、物真似でしかなくオリジナリティのなさを指摘されたことにショックを受け、活動を一変させたことを説明します。それまで、売れることだけを考えて音楽制作をしていましたが、世界から見たときの日本を感じる音、日本人である自分が考える日本の音の追求が始まります。そこで、お経や自然音を含むファーストアルバムを自主制作し、欧米のレコード会社にサンプルを送付、ドイツからワールドワイドにリリースされることになり、音楽家としてのキャリアをスタートさせます。
活動する中、イギリスの音楽フェスティバル、グラストンベリー・フェスティバルに招待され、92年に参加。そこで、様々な国籍のミュージシャン、あらゆる民族楽器と出会い、新たな音楽活動が始まります。
そのころから、“ワールドミュージック”という言葉が使われるようになり、現代の音楽と民族音楽が混じり合い、新しい音楽が次々と生まれるようになったといいます。イスラエルのオフラ・ハザ、エジプトのウード奏者ハムザ・エル・ディン、 シター奏者ラヴィ・シャンカルなど、世界で活躍するワールドミュージックの演奏者を動画とともに紹介しました。
自身も様々な民族楽器に触れ、三味線、琴、ブズーキ、タイの木琴ラナート、カホンなど民族楽器だけで編成されたバンド、風の楽団Wind Travelin' Bandを結成、10年以上イギリス、アメリカをツアーします。ネイティブアメリカンのフルート奏者カルロス・ナカイと出会い、アルバムを制作。そこで、多くのネイティブアメリカンと出会い、音楽が祈りと結びつき生活や生き方と直結していることを体験し、新たな音楽の広がりを感じたといいます。さらに、新たなグルーブ感を求めて天空オーケストラを結成、ヨーロッパツアーに出かけたことなどを語りました。
ワールドミュージックを代表するレーベルとしてピーター・ガブリエルが創設した「Real World Records」を紹介し、ぜひ、聞いて欲しい説明します。世界では、ミックスカルチャーがどんどん進んでいて、自分に嘘のない、自分からわき上がってくるものを大切にして、ひとつひとつの音を大事に聞くこと、大事に人と出会っていくこと、こうしたつながりが新しいものを創ってくことを体験して欲しいと、まとめました。

後半は、民族楽器を使ったライブパフォーマンスです。様々な大きさのネイティブアメリカンフルート、鹿革を使って自作したやはりネイティブアメリカンの太鼓、鷲の骨でできた笛、ドクロをかたどったデスフルート、マヤ族のピラミッドから出土した鳥の笛の複製したものなど、多くの楽器を紹介していただきました。それぞれのエピソードと独特の音色は、まるで心に直接響くような独自の味わいがあり、大変、興味深いものでした。今回はネイティブアメリカンの楽器が中心となったため、やはりネイティブアメリカンから教えられた曲を中心に披露していただきましたが、岡野氏の歌も演奏も素晴らしく、曲が始まった瞬間会場の空気が変わり、神秘的であり幻想的でもある独特の雰囲気に包まれ、会場は大いに魅了されました。
岡野氏は学生たちに、オリジナリティとはどんなことだと思う?、と問いかけます。学生からは「誰かに影響されないで、自分の思ったものを創造する」「誰かに影響されたり、生活環境に影響された自分だと思う」「自分が創ること」などの声が上がりましたが、岡野氏はどれも正解で、何らかの影響を受けないと音楽はやっていない、影響を受けていろんな人と出会い、それぞれの環境で体験を経て、生まれてくる自分がある。体験は個人的なもので、同じように見えてもそれぞれ皆違う体験をしているもので、そうして生まれて来る何かがオリジナリティではないかと説明します。自分の身の回りの小さなことからやっていくことが大切ではないかと語りました。

3時間におよぶ講座は盛りだくさんで非常に充実したものになりました。次回、12月5日にも2回目の特別公開講座が予定されています。アフリカ、中東、アジア、中米など、より幅広い地域の民族楽器を披露していただく予定になっています。ぜひ、ご参加ください。