連続特別講演 丹羽安雄氏による「舞台プロデュース概論②」実施レポート

2020年7月30日(木)、前週に行われた「舞台プロデュース概論①」に引き続き、2回目の講演が行われました。前回が、丹羽氏の経歴に焦点を当て、これまでの舞台との関わり合いと、舞台監督、企画制作といった仕事の概要と丹羽氏の考え方について解説していただきました。今回の講演では、日生劇場で行われた4つの公演を例に、より具体的な舞台制作の裏側についてお話しいただきました。 学生の舞台芸術への関心は高いようで、今回の講演にも音楽領域からはエンターテインメントディレクション&アートマネジメントコース、美術領域からはアートクリエイターコースを中心に、多くの学生が参加しました。

日生劇場では例年、中高生を対象に本格的なオペラを鑑賞できる「日生劇場オペラ教室」、親子で舞台芸術に触れることをコンセプトにした「日生劇場ファミリーフェスティヴァル」といった子ども向けのプログラムを提供していますが、丹羽氏が制作した4つの舞台「若草物語」(2007年)「三銃士」(2011年)「フィガロの結婚」(2012年)「白鳥の湖」(2007年)を例に、解説いただきました。4つの舞台は、「若草物語」は文学座に依頼して行われたお芝居、「三銃士」はミュージカル、「フィガロの結婚」はオペラ、「白鳥の湖」はバレエとそれぞれジャンルの異なった舞台で、作品の基本となる事柄も、台本、譜面、スコア、振付とすべてが異なり、また、イニシアティブを取る人も芝居とミュージカルは演出家、オペラは指揮者、バレエは振付師と異なります。それぞれの作品の映像を上映し、作品の背景と制作について詳細に解説していただきました。
「若草物語」は初めて文学座と提携して上演した作品で、演出と脚本を高瀬久男氏にお願いしたこと、芝居の稽古の特徴として稽古始めから全員が参加し、台本の順番で稽古をすることがあげられ、うまく稽古場所を確保することで予算の節約ができるといいます。若草物語では、演出と脚本を高瀬氏が一人で行ったためトラブルはありませんでしたが、演出家と脚本家がぶつかることもよくあり、うまく調整することも制作の仕事といいます。
ミュージカルは、日生劇場では劇団四季が例年公演を行っており、劇場で通年行われているプログラムと調整しながら上演したといいます。「三銃士」という題材の都合上、ミュージカルでありながらも殺陣師が加わり、ダンスと歌と一緒に練習することになります。ミュージカルに限らず舞台公演では、予算と公演回数、チケット価格の決定が難しく、制作の肝となります。チケットは、販売初日のデータでほぼ公演全体の収益が予想でき、そのデータを見ながら追加の宣伝広告を思案するといいます。三銃士の公演では、不運にも東宝制作の三銃士を原作としたミュージカルが同時期に帝国劇場で上演され販売が振るわなかったと、劇場運営の苦労話もありました。
オペラについては、日生劇場のオーケストラピットの大きさから、大きなものは上演できないため自ずと演目が限定されてしまう特性があります。そこで、「フィガロの結婚」では若い演出家の菅尾友氏を起用し、新しい発想でも演出をお願いしたといいます。演出家とベテラン歌手とで演出に対立することもありましたが、指揮者が演出家を支えたといいます。お芝居の場合、演出家がイニシアティブを取ることになりますが、オペラでは指揮者がキーパーソンになることが思い起こされます。オペラの特徴としては、芝居やミュージカルでは制作期間が2年ですが、オペラの場合は3年をかけるのが通常で、歌手のスケジュールを元に稽古の予定を立てる必要があるといいます。制作期間の長さに加えフルオーケストラ入れることで人員も増え、他の舞台よりも多額の予算が必要になります。
娯楽性よりも芸術性を重んじた舞台では、赤字になることもしばしばだったそうですが、そのいった中、安定的に黒字が見込めたのがバレエ公演だったといいます。バレエ公演は、バレエ団に依頼し、そのバレエ団が持っているレパートリーから作品を選定することになります。稽古もバレエ団にまかせることになり、舞台稽古に入るまでは大きくかかわる必要もなく済むといいます。バレエ団としても日生劇場で上演したということが誇りになるとのことで、劇場の価値をうまく利用しながら双方にメリットのある公演であったといいます。ただし、この「白鳥の湖」の公演では、経費削減のため音楽に録音した音源を使い、そのことを元美術監督に叱責されたと述懐しました。

質疑応答では、舞台制作では演出家と脚本家や指揮者と演出家が対立するようなことがあったいいますが、新しいことをするためにモチベーションの支えになるようなことはありますかという質問があげられ、制作の立場としては対立が起きないようにできるだけ準備している、ただし、それぞれが舞台をより良くするために考えることで対立するため、ある面、仕方のないこととして捉えている。うまくいったときもいかなかったときもあるが、関係者が協力できていないといい作品にはならない。答えにならないかもしれないが制作者としては、それぞれの仕事がしっかりできるよう考えることが大事で、相手に対して敬意を持つこと、誠実にことに当たることではないかと答えました。
舞台制作の仕事の醍醐味は? という問いには、何よりも達成感を得られる仕事と答えました。舞台監督も制作も同じだと思うが、やり遂げたなといことが自分自身でよくわかる仕事であり、稽古に時間を費やし舞台を作り劇場で上演し、お客さんが喜ぶのを見ることは何事にも代え難いものだと説明して講演を締めくくりました。