卒業記念講演 デザイン領域 特別客員教授リレートーク「これからのデザイン」

 デザイン領域では、第49回 卒業制作展記念講演として、デザイン領域の特別客員教授をお招きし「これからのデザイン ~これからのデザイン実践、デザイン教育について」という演題で、リレートークを行いました。参加していただいた客員教授は以下の通り、オンラインとビデオによる参加が中心です。

ビデオ参加

  • 先端メディア表現コース 藤幡正樹氏(メディアアーティスト)
  • スペースデザインコース 手塚貴晴氏(建築家)
  • 文芸・ライティングコース 谷山雅計氏(クリエイティブディレクター/コピーライター)

オンライン参加

  • メタル&ジュエリーデザインコース 藤田政利氏(造形作家)
  • テキスタイルデザインコース 村瀬弘行氏(クリエイティブディレクター)
  • イラストレーションコース 榊原建佑氏(グラフィックデザイナー)
  • メディアコミュニケーションデザインコース 渋谷克彦氏(グラフィックデザイナー)
  • ライフスタイルデザインコース 林千晶氏(クリエイティブディレクター)

会場参加

  • ヴィジュアルデザインコース 原田祐馬氏(デザイナー/ディレクター)
  • 【ファシリテーター】駒井貞治教授 デザイン領域主任/デザイン研究科長

 各領域で活躍する錚々たる豪華な参加者に、ファシリテーターを駒井教授が務め、前半はこれからのデザインがどこへ向かっていくのか、後半はそのことを教育機関として学生にどう伝えていくか、このテーマでトークが講演が行われました。

 はじめに、ビデオ参加の藤幡氏、手塚氏、谷山氏の動画が流されました。あらかじめこれからのデザインについて語った内容を収録したものです。藤幡氏は「アートの本質はサイエンスや哲学と同じで探究心。本質に近づくためには、小さな気付きが重要。仕事でもそうした感覚を研ぎ澄まし、小さな変化に気が付くことが本質につながる」と語ります。手塚氏は「これからと言うより過去も将来もずっと同じで、自分にしかできないことをやる。自分にしかできないこと、それはどれだけ自分自身であるかということであり、自分らしくあればそれだけでオリジナリティの高いものとなる」といいます。谷山氏は、こうしたコメントが述べられることを予想して「クリエイティブの世界では、自分を信じる、自分が面白いものが一番、そういったアドバイスを受けるが、このことは額面通りに受け止めてはいけない。こうしたアドバイスをくれる人たちは、大前提として他人を面白がらせる、他人を喜ばせるために、全力を尽くしきっている、そのうえで、最終的に自分に面白いものがいい、というのである。他人が面白いと思うもの、これはあえていうまでもない前提である、このことを理解して」とアドバイスします。これらを受け、ここからはオンラインで話は進みます。藤田氏はメタルの造形作家としての立場から「素材と対話しながら作品作りをしており、素材を選ぶことや素材に慣れ親しむことから気付きがあり、本質につながる」と話し、村瀬氏は「20代の人と仕事をすると、その若い感覚がすごく大切で新たに気付くことが多い。海外で学び日本と距離を置いたことでわかったことも多い。自分自身の中にある価値に気が付いて欲しい」と話します。榊原氏は「手塚氏のオリジナリティの話は、背景に膨大な知識と学びがあり、過去にどんなものがあったかを知らなければ、自分の価値や今いる場所すらわからない。過去を学ぶことでオリジナリティのあるものを作ることができるのでは」と問いかけます。渋谷氏は「2つの視点が必要で、ひとつは自分の価値をどういうふうに形にしていくかということ、もうひとつは社会的な見方をすること。時間が経てば社会的に良いこと悪いこと、正義ですら変わってしまう。もちろん自分も変わる。この2つを意識しながらアジャストしていくような感覚がデザインには必要」といいます。林氏は自身の就職活動の経験を挙げ「自分は、クルマの普通免許しかなかった。何もない、他人と何も違わない、特別ではなかった。だから、自分は真っ白なパレットでこれから何色でも載せられると売り込んだことを思い出しました。これからの時代は人口が減ってゆく時代で、これまでに誰も経験したことのことばかり。これまでの成功体験はまったく役に立ちません。20代の人は、批判を気にせずおかしいと思うことをどんどんいっていけばいいと思う。人口の減少は悪いことばかりではなく、ひとりあたりのスペースが増えるともいえる。新しい視点をぜひ見せて欲しい」と話します。唯一の会場参加の原田氏は「右肩下がりの時代は、いろいろなことに携わることが求められる時代でもある。人が通って仕事をすることを前提に作られている都市の構造すら変わる。こんな時代だからこそチャレンジできるし、デザインを学ぶことは環境の変化に対応できることだと思う」と述べました。これからを受け、これまでの価値を見直して見ることや、そうした視点で見ることで自分の価値を発見できる、自分を深い部分まで掘り下げないと新しいことには気が付きにくい、視点としてはニュートラルでいること作るときはフルスイング!など、議論は白熱しました。

 後半は、教育機関として多様な視点や考え方価値観を、どうやって若い人に伝えていくかの話題です。藤田氏「名古屋芸大の工芸分野連携の取り組みは、多様性という点で非常に意義深く思う。領域の横断は、新しい価値に気付くことでとても重要」。村瀬氏「ドイツの大学では教える先生もカリキュラムも明確になっておらず、何をやろうか自分で決めるシステムで主体性が育まれた。デザインに限らず、自分で決め一歩踏み出す能力はとても重要」。榊原氏「自分がどんなものに反応するか見つけ出すことが大事。学生の興味を引き出すのが大学の仕事。デジタル化が進み、一見デザインができたように見えるものが簡単にできる。そうした状況の中、どう差を作るか、どう考えるかが大事。素材に触れることも重要」。渋谷氏「コロナ禍で若い世代にも今できることに感謝する気持ちが広まっている。すごく大人っぽい考え方だと思う。いろいろなものを丁寧に扱うようになったと感じる。過去のすべてのデザインは未来への希望を形にしたものであり、デザインはいつも希望である。過去を丁寧に拾い集めて新しいものができないかと思っている」。林氏「減点法ではなく、加点法で考える。人生生きていく中で何ができるか、できることを伸ばすように考える。難しいけど先生は立場として学生のパートナー。横にいるもので前に立って存在ではない。先生は後ろで、後方支援する役割だと思う」。原田氏「先生の役割は、その専門分野の未来や将来について、その領域が今後どうなるかを学生に見せることではないかと思う。基礎教育を見直すようなことを学生と一緒に考えていくのも良いと思う」。
 それぞれの言葉からは、時代の変化に対応するために基本に戻り、原点を見つめることの重要性を強く感じました。また、大学の役割として可能性の発見と個人を後方から支援するような支え方、個人それぞれの主体性を育むことが求められていると、結論付けられました。さまざまな領域から参考になる話がたくさんあり、もっともっとたくさんのお話を聞いてみたい、そんな気持ちにさせる講演となりました。

名古屋芸術大学卒業制作展・名古屋芸術大学大学院修了制作展