舞台芸術領域開設記念 特別客員教授によるシンポジウム「これからの舞台」開催

 舞台芸術領域は領域開設記念事業として、特別客員教授の市来邦比古氏、丹羽康雄氏、金井勇一郎氏の3人をお迎えし、舞台の価値や在り方、今後を考えるシンポジウム「これからの舞台芸術」を2022年3月26日(土)に開催しました。舞台芸術領域では2021年4月に領域開設以来、開設記念事業として2021年4月と9月に「Peeping Garden/re:creation」、2022年3月12日に「家族のための音楽劇/ストラヴィンスキー 兵士の物語」(関連記事)、3月13日「演劇/第七劇場 oboro」(関連記事)を上演してきました。今回のシンポジウムは開設記念事業を締めくくるもので、コロナ禍によって疲弊するとともにあらわになった舞台芸術の意味を明らかにし、将来に向けてその価値や在り方を考えるものです。
 シンポジウムに先立ち、舞台芸術領域主任 梶田美香 教授から、コロナ禍の中いろいろなことを突きつけられた舞台芸術がどのように今後作られていくのか、また、あらためて舞台芸術の社会的意義と価値を問い直し、テクノロジーと領域横断という新しい魅力を加え、舞台芸術の今後について考えていきたいと、挨拶がありました。

 シンポジウムは、コーディネイターを鳴海康平 准教授が務め、登壇者の紹介から始まりました。市来邦比古氏は、1970代年初頭から舞台音響家として、蜷川幸雄、唐十郎といった錚々たる演劇人・劇団とキャリアを積み、そうした経験を基に音響家という視点から劇場の設計にかかわり多くのホール運営にもかかわってきたことを紹介。丹羽康雄氏は、日生劇場に入社、舞台美術の経験を積み、多くのプロデューサー・演出家との仕事を経て舞台監督を経験。オペラをはじめさまざまな演劇に携わり、企画制作部長と財団理事を兼任するなど運営にもかかわってきた経験が紹介されました。金井勇一郎氏は、1986年から文化庁在外研修員としてNYメトロポリタンオペラハウスに留学。帰国後は歌舞伎の海外公演、舞台装置の責任者としてキャリアを積み、さまざまな演劇・美術の要素を歌舞伎に取り入れるほか、大道具制作会社を起業しテレビドラマセット、ファッションショー、テーマパークなど幅広く活躍していることが紹介されました。

 紹介が済んだところで、舞台美術におけるテクノロジーの進化についてのディスカッションから始まりました。音響ではPAの発達とイマーシブオーディオ・立体音響による細やかな演出、照明ではLEDとプロジェクトマッピングの登場で演出が変化してきたことが語られました。デジタル化により、異なる劇場でも高いレベルで同じ演出が可能になってきたことや、個人の技量に頼っていた部分が減り技術的にも簡便になったことで舞台上に集中できることになり、細やかな演出が可能になったといいます。しかしながら、生声や手描きの書き割りには捨てがたい味わいや深みがあり、そうしたアナログの部分とテクノロジーを上手く使い分ける感覚が必要になってきたといいます。
 鳴海准教授から、コロナウイルスのために止まってしまった舞台が逆に止まることでその社会的な意義や人が集まり楽しむ場所の必要性が再確認された、今後社会の中で舞台芸術はどんな価値を持ち得るのか、と問題提起されました。市来氏は、同一空間、同一時間にある出来事を共有して体験する舞台の価値に触れ、テクノロジーによりオンラインで同一時間に接続し同一の空間にいる必要のないものができつつある。おそらく、これまでの舞台芸術とは別の新しい分野を作り出すことになるのでは、といいます。丹羽氏は、演者と同じ空気を吸うことの価値とともにウクライナの問題や第2次大戦中サンクトペテルブルク(レニングラード)で演奏されたショスタコーヴィチを引き合いに出し、芸術の力をあらためて感じた、どんなふうに今後変わっていくかは今はまだ予想できないが芸術の力は変わらない、といいます。金井氏は、コロナで人が集まること=演劇が不要不急のものとされてしまったがそうではなく、人間にとって感情が動かされるものが絶対に必要であることがよくわかった、劇場で観ることは叶わなくても配信が増え、そこから新たな観客を獲得しているのではないかと考えられる。2.5次元舞台の人気もこれまで観劇したいた人とは別の観客を獲得している。デジタル化や新しいメディアには可能性も感じる、といいます。
 市来氏は、新しいメディアの活用や領域を越えたクロスオーバーには大きな可能性があるとしつつも、全体をコントロールするプロデュース力やマネジメントすることが必要で、その部分ではまだまだ追いついていない現実があるといい、三者とも今後は多様なメディアや異分野とのコラボレーションにはそれらをプロデュースする能力やアートマネジメントの能力が必要とし、伝統的な部分を大事にしながらもチャレンジしていくことが可能性を広げてきたとまとめ、シンポジウムは終了となりました。

 シンポジウムの様子は、動画でも配信されています。ぜひご覧下さい。(動画はこちらからご覧いただけます

舞台芸術領域主任 梶田美香 教授

舞台芸術領域主任 梶田美香 教授

鳴海康平 准教授

鳴海康平 准教授

市来邦比古氏

市来邦比古氏

丹羽康雄氏

丹羽康雄氏

金井勇一郎氏

金井勇一郎氏