卒業制作展記念講演会 OSRIN氏「どんぐりのせいくらべ」

 卒業制作展 50回記念講演会の最後は、本学ライフスタイルデザインコース卒業生でもある映像作家OSRIN氏。2023年2月26日(日)に「どんぐりのせいくらべ」と題し、卒業してから現在に至るまでクリエイターとして感じてきたことや映像制作の実際についてなど、さまざまな事柄についてお話しいただきました。
 2013年卒業のOSRIN氏は、学生にとって年齢も近く身近な存在でありながらも、King GnuのMVなど一連の仕事は憧れの存在でもあります。会場となった体育館には多くの受講者が集まりました。

 講演では、自己紹介から始まり、若い頃の感情・経験、今の思考までさまざまな話をして頂けました。
 OSRIN氏の大学在学中は、ホストクラブでアルバイトしながらライフスタイルデザインコースで課題をこなしていたという異色の経歴。映像を作る専攻でないものの映像制作会社へ就職、ADとして映像制作現場の雑務をこなしつつ自分がやりたい仕事ってなんだろうと考えた3年間だといいます。2016年にPERIMETRONの作品をリリース、そこからの6年間で200案件を超える作品を制作。
 この10年間を振り返ると「映像を作るコースでもなかったのに映像でメシを喰っていけるのか、いろいろなことが不安だった。誰々はどこどこへ就職したとか、どこそこへインターンへ行ったとか、誰々の給料はどれぐらいとか、聞きたくもない話ばかり気にしてしまい、複雑な思いでいた」といいます。今回の講演では、そうした気持ちを寓話にし紙芝居にして説明していただきました。
 背をくらべるどんぐりたちと、それを見下すようにあざ笑う北風、さらに北風さえも包み込むような山、3者の視点の違いともいうべきお話です。「北風ってじつは自分のことで、数年前まで自分がそんな感じだったと思う」といい、他者と自分を比較することに嫌気が差し、くらべるという行為自体を見下すようになってしまっていたといいます。「見下すということは、その人たちと自分をくらべていることになってしまっていて、矛盾していると思うようになり反省した。くらべることは、人のことを肯定的に見たり、客観的に自分を愛せたり、そうしたこともできる」と比較することをポジティブに捉えることで、この10年間やってこられたと説明します。否定せずしっかりと捉え直すことが切磋琢磨を生み、より良いものを生み出すことにつながっていくと説明し、これから社会へ出る学生たちに、不安があっても生き抜いていって欲しいとエールを送りました。
 このほか、King Gnu 「カメレオン」のMVのコンセプトや絵コンテなど具体的な映像制作の実際も紹介、作品の裏側にある思いなども紹介していただきました。

 質疑応答ではたくさんの質問が挙がり、アイデアが出ないときにはどうしていますか、という問いには「自由に作って良い場合などテーマが広すぎると考えにくい。誰に伝えたいかターゲットを絞ることでアイデアも絞り込まれ考えやすい。誰に喜んでもらうかを考えること」と回答。参加した高校生からの、どういう気持ちで芸大に入って、どういう気持ちで卒業したかを教えて、という質問には「高校時代、進学するつもりはあまりなかったけど、拾ってもらえて入学、目標もなく過ごしていた。ただ漠然と友達と一緒に働きたいという気持ちがあった。手に入れたカメラで親友の誕生日の映像を作り、それを見て飛び跳ねて喜んでくれて、自分も泣いて、みんなで泣いたことが映像制作の始まり。映像って強すぎると感じた。大きな目標もないままだったけど、誰かのために映像を作って、あんな気持ちをもっと味わいたいというのが動機になっていると思う」と映像制作に携わるようになったきっかけなども紹介していただきました。
 「誰かのためになることをどう見せるか、映像でもグラフィックでも紙芝居でも同じで、アウトプットが異なるだけ。それにこだわってやってきたことがこの10年だった」とまとめ、講演は終了となりました。