サウンドメディア・コンポジションコース、深田晃氏、峯岸良行氏による公開講座「3D Audio Workshop 2023」を開催

 サウンドメディア・コンポジションコースでは、2023年12月2日(土)西キャンパス2号館大アンサンブル室にて、非常勤講師 深田晃氏、峯岸良行氏による公開講座「3D AudioWorkshop 2023」を開催しました。
 これまで、映画作品や劇場で採用されていた立体音響技術が発達し、近年では、Apple Music、Amazon Musicなどではドルビーアトモス、また、Amazon Musicでは、360Reality Audioフォーマットの3D Audio配信が始まっています。今回の公開講座では、BENNIE Kなどの作曲、プロデュース、Little Glee Monsterなどミックスエンジニアとして多くのアーティストの作品に携わり、多くの3D Audio作品の制作を行ってきた峯岸良行氏、ドラマ、ドキュメンタリー、映画のサウンドトラックや番組テーマ音楽、N響やサイトウキネンオーケストラなどのレコーディングに携わり、独自サラウンド収録方法である「Fukada Tree」の考案者として広く知られる深田晃氏といった、3D Audioの第一線で活躍する両氏に制作のノウハウを具体的に講義していただきました。また、学生が制作した3D Audio作品を試聴し、今後のオーディオ表現について体験して考える、盛りだくさんの内容となりました。
 会場となった大アンサンブル室には、株式会社ジェネレックジャパン(スピーカー)、タックシステム株式会社(モニターコントローラー)、アイシン高丘株式会社(スピーカースタンド)にご協力いただき、ドルビーアトモス7.1.4のリスニング環境を構築。3D Audioを60人程度の人数で同時に体験できるように準備しました。
 講義の前半は、峯岸良行氏によるドルビーアトモスのポップミュージックについてのワークフローが紹介されました。近年では、ドルビーアトモスをはじめとした立体音響については、「3D Audio」「Spatial Audio」などさまざま呼び名で使われていますが、いずれも没入感の強いオーディオを意味するもので、総称して「Immersive Audio=イマーシブ オーディオ」と呼ばれるようになってきました。その中でもApple Music、Amazon Musicではドルビーアトモスを採用し配信も行われています。今回のワークフローでは、ステムミックスファイルの音声をApple Musicで配信可能なドルビーアトモスのフォーマットにミックスする作業を実演して見せていただきました。ツールの設定に始まり、ステムミックスから位相差やバンドパスフィルターを用い複数の信号に分解しそれらを3D上に配置していくテクニックやミックスの手法と、作業の手順を追って実演いただきました。
 深田氏からは、映画音楽やオーケストラなどの3D Audio制作について、レコーディングスタジオやホールでの実際の収録例を紹介いただきました。また、中盤では、深田氏のアイデアで、実際に3D Auido録音のトライを「この場で行う」ということで、Sax 早川ふみ氏・Pf 藤井浩樹氏によるSaxDuoを録音し、すぐに7.1.4のスピーカーから再生するということを行いました。そして参加者はその録音を体感することで、「客席にいるリスナーではなく、演奏者と同じ音楽体験をできるように」や、「録音は正確性ではなく、空気感やダイナミックな躍動感などをより心理的、感覚的に訴えていくものでなければならない」という氏の考えを実際に感じることができました。

 興味深いのは、深田氏と峯岸氏のイマーシブオーディオの考えの違い。今回の峯岸氏の講義では2chステレオをベースに3D Audioを構築していったのに対し、深田氏は収録から7.1.4chを意識して収録していきます。センタースピーカーやリアスピーカーの使い方が大きく異なり、深田氏の録音はリスナーが演奏者の間に座って聴いているようなこれまでに感じたことのない音場です。耳馴染み良く楽しい峯岸氏のミックス、まさに新しい体験を感じさせる深田氏の録音、どちらも新しい音楽の体験でとても魅力あるものです。同時に、業界最先端のお二人でも3D Audioの在り方に対する考えがさまざまあることがわかり、「音楽をリスナーに伝え、さらに新しい体験を生む」という音響表現の最前線に触れたように感じられました。
 講義の後は、学生作品の講評会です。4年生 武藤夢歩さんによるピアノの録音「スクリャービン24の前奏曲(7.1.4)」、神谷世那さんの録音「ベースノイズ(環境音)の3D Audio録音手法」、本学ライブ配信チームが収録し、古田晏悠さんがミックスを担当した、名古屋芸術大学フィルハーモニー管弦楽団 第12回定期演奏会 ヘンデル/デッティンゲン・テ・デウム ニ長調 HWV.283の「オーケストラ 7.1.4ハイトマイク(HL-HR)の方式の比較」の3作品を試聴、講評を行いました。3作品とも、2chステレオとの違い、セッティングの違い、マイクの違いを比較して聴きくらべできるようになっており、実験的要素がある作品です。両講師からは、制作者としての感想と実践的なアドバイスがありました。テーマの選定と録音した内容に、両講師から感心する言葉が聞かれ、また、同じ制作者として立場からの発言もあり、和やかな講評会となりました。
 講座は時間を延長して行われ、終了後にも講師陣に質問する学生も多く、実りあるものとなりました。