テキスタイルデザインコース 春の恒例、羊の毛刈り体験を実施

 2024年4月10日、テキスタイルデザインコースでは、恒例の授業、羊の毛刈り体験を行いました。テキスタイルデザインコースでは、布を織るための糸の素材として羊毛や綿などを体験的に学び、素材の特質や特徴について理解を深める授業を行っています。羊の毛刈りはその一回目の授業であり、例年、テキスタイルコースを選択した2年生が4月に受けることになります。今年も、愛知牧場から羊飼いの丸岡圭一さん、堀田雅人さん、そして羊のニコちゃん(雌、1歳)を西キャンパス クローバー畑にお招きし、毛刈りを体験させていただきました。

 軽トラックで学内にやってくると、ニコちゃんの鳴き声に誘われるように学生が集まります。テキスタイルコースの2学生だけでなく、先輩である3、4年生、他のコースの学生、手の空いている大学職員も見学に訪れます。
 はじめに、羊飼いの堀田さんからニコちゃんについての説明がありました。ニコちゃんは、昨年、毛刈りに来てくれたダディ君の娘であり、今回の毛刈りが生まれて初めてとのこと。簡単に刈り取り方の説明があり、毛刈りが始まりました。学生は順番にはさみを手に、ひとつまみずつ毛を刈り取っていきます。おぼつかない手で毛をより分けカットします。ニコちゃんはおとなしくしていますがもがくように動くとびっくり、見守る学生からも思わず笑みがこぼれます。学生たちは、刈った毛を手にふわふわの手触りを楽しんだり、匂いを確かめてみたり、それぞれに素材を実感しました。
 刈り取った毛は10cmほど長さ、真ん中あたりに線が入るように色が変わっています。堀田さんによれば、これは木の年輪のようなもので、羊の1年間の生活が記録されているとのこと。ニコちゃんの場合は初めての毛刈りであり、毛の先端が丸まって固まっている部分もあります。これは、ミルキーチップといわれるもので、母羊のお腹の中にいたとき羊水に浸っていたため毛が固まったものなのだそう。真ん中の線は、夏が終わり冬のための毛に変わる部分ということです。また、毛を触っていると脂分があり、指先がすこししっとりとします。これは、羊毛に付着しているラノリンという油脂で、化粧品や医薬品のベースなどに使われています。
 学生たちからは、早くも質問が挙がります。ニコちゃんの名前の由来は? なんていう種類の羊? クローバーを食べてるけど普段はどんなものを食べているの? 毛を刈るのはどうして? と興味津々。堀田さんは、丁寧に答えつつ、羊は人間によって毛を取るために作られた動物で、人間が毛を刈らないと生きていけない存在、野生の羊はいないと説明します。また、繊維全体を考えたとき羊毛の生産量はわずか1.3%、日本は一人あたりのウール消費量が世界一で、世界一ウール好きにもかかわらず国産の羊毛はほとんどない、というウールをめぐる現状の課題なども教えていただきました。
 一旦、質疑を中断して、バリカンで羊全体の毛を刈ります。堀田さんがニコちゃんを座らせ抱きかかえるようにして刈っていく様子を皆で見守りました。おなか、左からおしり、次に頭から服を脱がせるようにひとつながりになるように刈っていきます。
 刈り終わると堀田さんは、一枚につながった毛を示し、この状態をフリースといい、よく知っているフリースジャケットの語源になっていると説明します。羊毛は、部分により品質が異なり、肩のあたりは柔らかく、おしりのあたりは硬くなっており、用途によって使い分けるのが良いといいます。堀田さんが自身で使っている羊毛でできた手紡ぎ手編みのベストとスヌードを見せ、どの羊の毛から作ったものかわかるようになっていると紹介、ベストはごばんくんという羊、スヌードはオレオさんとのことです。Instagramで、「#ごばん200411」、「#オレオ170202」で検索すると、生育状況などトレースできるように考えられています。ニコちゃんのタグは、「#ニコ230322」で、作品を作ったときには、ぜひハッシュタグを付けて投稿して欲しいと説明しました。
 担当する貝塚惇観講師からは「ウールは呼吸をする繊維で、水分が多いと吸収し、乾燥してくると保湿するようになります。気候や気温によって良い具合に変化する、素材が生きているということが大きな特長だと思います。化学繊維では同じようなことはまだできていなくて、羊毛は特別な素材であり、そうした素材の特性を知ることで制作するものが変わってきます」と説明。併せて、国産の羊毛を使っていこうというジャパンウールプロジェクトに授業で参加するとが告げられました。「今年は羊毛についてしっかり学ぶ機会があります」とまとめ、授業は終了となりました。素材の源流を知る、貴重な体験となりました。