「ナゴヤ展」は、ヴィジュアルデザインコース3年生が例年取り組んでいる展覧会。2008年から始まる歴史ある展覧会です。その内容は、フィールドワークを行い町の魅力を発見し、デザインに落とし込こみ伝えるもの。デザインの社会的な役割や重要性を学ぶ実践的な課題です。これまでの「ナゴヤ展」では、広く尾張地域そのものを対象とすることや、名古屋城や名古屋城下の長者町などエリアを限定して対象とするなど、尾張の歴史や文化、産業などさまざまな“ものごと”をデザインし、魅力を発信してきました。展示場所にも特徴があり、名古屋市内のギャラリーなど学校を離れ、対象の地域と密着したスペースで展示を行ってきました。
今年度も昨年に引き続き、名古屋の歴史が色濃く残る「円頓寺・那古野エリア」が舞台。近年、地域の活性化が社会課題となり、盛んに地域おこしが行われていますが、経済的側面にとどまらず、地域文化の継承やコミュニティの豊かさといった視点も重視されるようになっています。こうしたなか、地域の魅力を創出・再発見し、それを伝えるデザインの役割は、これまでよりも一層高くなっているといえます。
今回の「ナゴヤ展」は、2025年1月20日(月)~1月26日(日)、円頓寺商店街のワイナリーコモン3Fスペースにて開催、最終日の26日午後、ギャラリートークと講評会が行われました。
今回の講評会には、ナゴヤ展を担当する則武輝彦准教授、ヴィジュアルデザインコース 中村直永准教授、さらにゲストとして、同じ円頓寺・那古野エリアを対象としたスタジオ課題を名古屋造形大学・地域建築領域を担当し、フィールドワーク・アートプロジェクトをはじめとした建築の実践をおこなっている桂川大さん(STUDIO 大 / おどり場 代表)と、建築を学ぶ名古屋造形大学の学生さんにも参加していただきました。
制作された作品は、四間道界隈で見られる屋根神様や江戸時代の火災など歴史をモチーフとしたもの、路地や錆びたトタン板の建築に触発されたもの、レトロ喫茶や和菓子・お茶といった食文化、名古屋弁や尾張人の気質によるものなど、さまざまなモチーフから作られました。デザインアウトプットとしても、ヴィジュアルデザインコースらしくアートブックやパンフレットといった紙をベースにしたもの、スタンプラリーに落とし込んだもの、スマホやタブレットで使うことのできるアプリケーション、雑貨やペーパークラフトといったプロダクトを制作した作品、映像作品あり、ワークショップに参加することが作品であったり、こちらも多種多様。文字通り、アイデアもデザインも、可能性を感じさせるバラエティに富むものとなりました。
作品ひとつひとつの講評では、作品のクオリティそのものに加え、リサーチとアイデアが重要視されました。今年度は、昨年にも増してリサーチに力を入れており、リサーチで得られた内容がアイデアとなっているか、そしてそのアイデアが町やそこに集まる人々とつながっているかが指摘されました。“社会との接続性”という言葉が講評の中で何度も聞かれたことがとても印象的でした。
総評として、桂川さんからは「究極的にいうと、地域の魅力を発見するという今回の課題は、普段自分が見えてないもの、行けない場所や知らない場所、もしくは分かり合えない事柄、そうした当事者にはなれないけど共有したい事柄、そこにボールを投げていくようなものだと思います。 分からない範囲を掘り下げて発見するというのは、すごく普遍的なテーマではないかと思います。難しい課題ですが、こうした課題に取り組んだということを持ち帰ってもらえれば良いのではと思います。自分の作ったものがどれぐらい伝わったんだろう、本当はこう伝えたかったんだよみたいなことは、経験として次に生かせてもらえればと思います」と講評をいただきました。。
中村准教授からは「すごく楽しい展示になって、皆さんの成長が成果として現れて良かったと思います。この課題ですが、リサーチの対象が変わったとしても、やることの本質的な部分は変わりません。視点や考え方、あるいは悩んだことは、すごく良い経験だと思います。僕から見ても、「そこに目をつけたんだ」という新鮮な視点がたくさんありました。このユニークな視点というのがデザイナーにとっては重要です。もちろん人にどう伝わるかという部分も大事なことです。ものを見ることや調べることの重要性、リサーチの楽しさを意識しながら続けて欲しいと思います」との感想がありました。
則武准教授は、「今回の展覧会ではリサーチとコミュニケーションを重視しています。その理由は、従来のヴィジュアルデザインは『マス』を対象とし、経済的な側面を中心としたマスマーケティングが有効でしたが、SNSの普及により発信者がメディアを持ち、細分化・多様化する現在、本質的な魅力を掘り下げる手法がより重要になっているからです。また、今回のリサーチを通じて多くの発見があった一方で、それをどのように伝えるかに試行錯誤があったのではないでしょうか。今後、伝える内容がさらに多様化・複雑化する中で、ポスターや商品企画といった枠を超えた多様な表現やメディア展開が求められるでしょう。僕自身も、みなさんにどのように整理し伝えるべきか、その難しさを改めて感じました。こうした新しい課題を共に経験できたことが、今回の展覧会の大きな意義だったのではないかと思います。」とまとめました。
町の魅力を考えて発見し発表することは、現代のデザインのあり方を問い直すことにもつながっていると感じさせました。