卒業/修了制作展記念講演 木田真理子さん「線を残すことと可能性をひらくこと」

 2025年2月23日(日)、卒業/修了制作展記念講演として、木田真理子さんの講演「線を残すことと可能性をひらくこと」を開催しました。
 講演タイトルにある「線を残すこと」という言葉の説明からはじまりました。線を残すという言葉を芸術活動における記録や表現の継続性として捉え、絵画や建築では形として作品が残る一方で舞踊は時間とともに消えてしまう芸術です。しかし、作品の痕跡をどのように残し、それが次の可能性を開くのかという視点が重要であると説明しました。
 木田さんは大阪で生まれ、4歳からクラシックバレエを始めました。ローザンヌ国際バレエコンクールでの受賞をきっかけに海外留学、その後、カナダやヨーロッパのバレエ団でプロとして活動しました。特に2014年、スウェーデン王立バレエ団に所属していた際に、バレエ界のアカデミー賞とも称されるブノワ賞の最優秀女性ダンサー賞を受け、国際的に高い評価を得ました。しかし、彼女はバレエ団を離れ、フリーランスのダンサーとしての道を選びます。既存の枠にとらわれず、より自由な表現を追求するために独立するこことになりました。

 その後は、バレエという伝統的な芸術の枠を超え、コンテンポラリーダンスや異分野とのコラボレーションに取り組みます。美術、舞台技術、音楽、VR、医療・福祉分野 など、多様な領域と連携しながら表現の幅を広げています。建築や美術との融合では、舞台美術や衣装デザインをダンスと一体化させる試みを行いパフォーマンスの新たな表現方法を模索、荒川修作+マドリン・ギンズの思想に影響を受けた作品では、空間やオブジェとの関係を再構築することに挑戦しました。また、VR技術を活用したダンス表現にも取り組み、雨宮庸介氏のVR作品に参加しダンサーがVR空間内でどのように身体を使い観客に没入感を与えられるか、という実験的な試みを行いました。さらに、病院や社会的活動へと活動の枠を拡げ、医療機関でのワークショップを実施、難病患者のリハビリや身体感覚の言語化に貢献、身体の境界線をテーマにした作品では、観客と演者の関係を曖昧にし新たな身体表現の可能性を追求しました。子ども向けのダンスワークショップも積極的に開催しており、身体表現を通じた創造的な学びの場を提供しています。

 木田さんは自身の経験を通じて、表現が時間の中で消えていく一方で、新たな創作の種として受け継がれていくことの重要性を強調しました。彼女がフリーランスとして多様なプロジェクトに関わる中で、「舞踊は単なる動作ではなく、文化や社会の中に痕跡を残すもの」であると再認識したと語ります。また、芸術において自己表現の枠を超え他者との対話を生むことが次の可能性を開く鍵であるとし、若いアーティストたちにも視野を広げる活動をすることの重要性を伝えました。

 学生たちへのメッセージとして、ジャンルに縛られず多様な分野の人と交流しながら創作していくこと、受け身ではなく創造的な姿勢を持ち影響を与え合う関係を保つこと、固定観念にとらわれず自由な発想で作品を創ること、自分の個性を大切にし自分らしい道を進むことを挙げ、短期間で結果を出すことにこだわらず自分のペースで成長し続けることが大切とアドバイスしました。