教授/
子ども発達学科長
安部孝

教授/
学長補佐人間発達学部長/
人間発達学研究科長
溝口哲夫

再編
人間発達学部は、教育学部へ

 2007年4月の開設以来、多くの小学校・幼稚園教諭、保育士を輩出してきた人間発達学部は、2022年4月 教育学部へと名称変更します。もちろん名前だけでなく、中身も大幅にパワーアップ。情報化社会、グローバル化、いじめや貧困といった、子どもたちをめぐるさまざまな課題に向き合うことができる、これからの時代に求められる「新しい教育・保育の実践力」を身につけられるようコースを再編成。より広く、より深く、子どもたちを育むことはもちろん、学生自身の生きる力を育む教育学部なのです。

再編の背景を、人間発達学部長 溝口哲夫教授、子ども発達学科長 安部孝教授に伺いました。

求められる教師像は時代とともに変わってきています(溝口)

教育学部という名称になりますが、再編の背景を教えて下さい。

溝口:根本的なことをいえば、教育学部というのは先生になるための学部学科であり、それを学ぶ学部なんだとはっきりとわかるようにしたいということがありました。人間発達学部という名称に思い入れもあるのですが、高校生や高校の先生にわかりにくいという側面がありました。子ども発達学科といえば、子どもに関することだなとわかりますが、先生になるための学部学科なんだということがストレートに伝わることを重視しました。
中身については、これまでと同様に小学校、幼稚園、保育園の先生を目指すということは変わりません。ただし、日本中に先生になるための免許・資格がとれる教員養成系の学部がありますが、内容はほとんどどこも同じなんですよ。そうした中で、名古屋芸術大学という芸術大学にある教育学部として、特色ある学び、芸術大学だからできる学び、また附属幼稚園や保育園での実践的な学びを重視しています。
そしてもう一つ、現代の幼児教育、小学校教育が求める教師像、これは時代とともに変わってきています。端的にいえば、新学習指導要領で小学校に英語とICT教育が加わっています。これらの授業を行うことのできる先生が必要になってきました。そのため、学校教育系のコースでは「小学校教育コース」、「子ども英語コース」、「子どもICTコース」を設けています。
もちろん芸術大学ということで、「子ども創作・表現コース」も設置しています。これまでも「子ども芸術コース」を設置していましたが、幼稚園・保育園から小学校への連続性を考慮して、いままでとは少し違う形で考えています。

安部:幼児保育・福祉系のコースでは3つのコースを設けています。従来型の「幼児教育・保育コース」、発達支援の「子ども支援コース」、それからスポーツ関連の「子ども健康・スポーツコース」の3コースです。3つありますが、発達にかかわることと支援がひとつにまとめられて、どちらかというとこれまでよりコンパクトになったというか、濃縮されたように感じています。この領域ではこれまで人間発達で取り組んできて、大学院もありますから、どうなるかと思われる向きもあるかもしれませんが、濃縮されて一領域になったという感じですね。それからスポーツですが、小学校だと教科体育(運動を通して心身を全面的に形成し,生涯を通じて運動をする基礎的な知識や技術を身につける)が考えられますが、教科体育よりももっと基本的なこと、裾野というか、幼児から生涯体育や人間の健康なども含めてやっていけることがあるのではないかと思っています。ですので、学校教育系ではなく、幼児保育・福祉系のほうに入っています。

溝口:結局、幼児教育の一番のポイントは、あそび、運動だということです。だから、幼児教育の中の運動や健康教育というのが大事なんです。これから日本のことを考えれば、求められるのはその部分ではないでしょうか。もうすでに健康面のことは、高齢者を含め生涯を通して考えなければならないことになっています。スポーツといえば、どちらかというと競技になってしまいがちですが、そうではなく、健康のために身体を動かすこと、生涯学習の中でも位置付けられていますね。幼児期から、そうした運動の習慣や身体の使い方を身につけることが大事になっていくと思います。子どもは運動すること、動くことが大好きなはずです。そこを伸ばす。幼児教育の中で、それは培われるものではないかと思います。

7つのコースに細分化されるとなると英才教育的な感じになるのかと思いましたが、そうじゃなくもっと根源的な部分で捉えているのですね。

安部:僕の理解ですが、運動の髙德先生(髙德希 准教授 専門分野:健康・スポーツ科学、バイオメカニクス、子ども学)は、考えながら動くことを大事にされる先生。おそらく子どもたちの動き自体を観察する視点を持つことから入っていかれるのかな、と思っています。いままで本学でやっていた競技性の高いものとは、また違った視点かもしれないですね。

溝口:それから今後、小学校教育で求められているものに教科担任制というのがあります。いままでは、担任が全部の教科をみていました。これからは専門性。もっといえば、その先生の得意なものを教える、そういう方向へ向かっています。それも含めて、文科省は「チーム学校」(チームとしての学校)というのを提唱しています。学校にはいろいろな先生がいて、先生以外にも健康面や福祉面でのカウンセラーやソーシャルワーカー、部活動指導員、図書館司書など、それぞれ得意な分野を持つ人たちがひとつの学校を作り上げていくというのが「チーム学校」です。小学校の先生はすべての教科を教えていくわけですが、それぞれに得意や好きがあります。そういうことを生かしていく、その人が持っている得意なもの、好きなものを伸ばしながら教師になっていく。こうしたことが求められている教師像じゃないかと思います。

なんとかやっていく力が求められる(安部)

愛知県をはじめ東海地区は海外からの労働者も多く、保育園や小学校でも外国籍の子どもがいることが普通になってきました。小学校の英語教育も始まりました。ICTや英語コースの手応えはいかがですか?

溝口:オープンキャンパスでは、ぽつぽつとICT、英語に興味があるという高校生が来ています。ニュースなどをみて、小学校のカリキュラムの変更など新しい分野に興味を感じているのではないかと思います。 外国籍の子どもでいえば、小牧市、岩倉市など本学の近隣でも高い比率になっていますね。岩倉東小学校では、外国人児童比率はおそらく50%近くあるのではないかと思います。

安部:難しいなと思ったのが、大学のコースや専修の英語というと、学力的な英語、教科学力的な英語をイメージしてしまいます。でも、学部長がいうように、必要な英語はまた別なんですよね。コミュニケーションするための英語が必要で、そこをどうやって伝えていくかが問題です。英語専修コースというふうに、たとえば英語が好きな高校生が受験しようとしたとき、リーディングとグラマーが得意な専修のように受け取ってしまうのではないか、と心配なんです。

溝口:実際、近隣の場合でいえば、英語よりもポルトガル語のほうが有用かもしれませんし、そうした実体を踏まえて、そこをなんとかやっていく力が求められるわけですからね。

対処能力より、本来なら問題が起きないような学校作りを(溝口)

英語に限らず本来、先生という仕事は現場力がすごく必要ですよね。

溝口:今、教員志望者が減っているんです。不登校やいじめ、あるいは貧困や家庭の問題など、学校が対応すべき問題が増えています。先生にはこれらに対応するためにたくさんのことが求められるようになりましたが、どちらかというと対処能力という部分が多いように思います。でも本来なら、対処する力が必要なのではなく、そういう問題が起こらないようにする学校作りができることが必要なのだと思います。経験すれば、先生という仕事はすごく楽しい、やりがいのある仕事だとわかります。自分の得意を生かして、子どもたちと一緒に楽しい学校生活を送れるようにしていくこと。現場力というか、こうした力が必要です。問題に対処するだけでなく、楽しい学校作り、学級作りのできる先生が求められるのだと思います。
新型コロナで学校が休みになってしまったとき、子どもたちから「学校へ行きたい」というたくさんの声が聞かれました。新型コロナの影響で、そのことに気が付いた子どもたちがたくさんいると思います。それが基本だと思うんですよ。バーチャルだけでなく、現実も楽しいんだと。そして先生には、子どもと子どもをつなぐ役割があります。今ある問題をなくすには、学校は楽しい、仲間と一緒にあそんだり、勉強したりするのが楽しいんだと実感する。それがやっぱり一番必要なことではないかと思います。

将来目指す職業やイメージを明確にし、なりたい自分を実現する4年間

子ども・ファンデーションってなに?

 教育学部では、1年次に基礎教育として学科共通カリキュラム「子ども・ファンデーション」を導入。ファンデーションを通して、乳児期から青年期までの子どもに関する幅広い知識と教育・保育の技能を総合的に身につけ、子ども全般への理解を深めます。

クリエイティブな環境で、「感性」を磨き、「創造力」を養う

 地域や社会とかかわり合いながらよりよい社会をともに築いていくことが、今後ますます次代を担う子どもたちに求められるようになると思われます。そうした力を育むのが「共感する力」。「感性」を磨き、「創造力」を養うことで、共感する力を育むことができると考えます。そしてこれらの力は、音楽や美術、デザインといった芸術の学びを通して養われる力でもあります。芸術に打ち込む学生たちとともに学び、さまざまな表現活動に触れられる4年間。こうした環境が、現場で欠かすことのできない教育・保育の実践力をより本質的なものへと導いてくれます。

■特徴的な取り組み

春を呼ぶ芸術フェスティバル

 ピアノなどの楽器演奏やダンス、合唱など、芸術大学ならではの環境を生かし、学生が多彩な芸術活動を発表する本学の伝統イベント。一般にも公開され、毎年、地域のたくさんの子どもたちにも楽しんでもらっています。

子ども大学

 地域の小学生が本学に体験入学し、教育学部の教員による授業を実際に受講します。将来、小学校の先生を目指す学生がサポートしながら、理科工作、赤ちゃんのお世話体験、パソコンを使ったゲーム作りなどを通して楽しく学びます。

教員採用試験対策学習会

  教職を目指す学生が定期的に集まり、互いに切磋琢磨しながら、教員採用試験に向けた勉強や、面接の練習などをグループで実施しています。教員による丁寧な指導により、学生個々に応じたサポートを行っています。

7つのコースで身につける プラスアルファの専門性

 教師・保育者には、多くの複雑な課題に対して一層の専門的な力が求められます。教育学部では、これからの時代に求められる新しい教育・保育の実践力を身につけるため、多彩で専門的な全7コースを設置。免許・資格の取得にとどまらず、教育・保育の現場で大いに役立つ"プラスアルファの専門性"を身につけることができます。

取得できる免許・資格と取得率

 2年次以降は、選択するコースによって学修内容や取得を目指す免許・資格が異なります。将来目指す進路や職業を見据えながら、各コースの専門分野の学びを深めていきます。

小学校教諭(小学校教諭一種免許状)

 公立・私立小学校の教諭になるために必要な免許です。また、教育関連の職業に携わる選択肢を広げます。免許取得のためには、法律で定められた科目を履修、所定の単位数を修得することと、4年制大学の卒業が必要です。

管轄:文部科学省/学校教育法 対象:6歳から12歳まで

幼稚園教諭(幼稚園教諭一種免許状)

 幼稚園・認定こども園の教諭になるために必要な免許です。免許取得のためには、法律で定められた科目を履修、所定の単位数を修得することと、4年制大学の卒業が必要です。

管轄:文部科学省/学校教育法 対象:3歳から小学校就学まで

保育士(保育士資格)

 保育所・認定こども園で活躍する保育士になるための資格です。また、児童福祉施設・児童養護施設・乳児院など、子どもの福祉や教育に関する高度な専門性が必要とされる仕事を目指す際にも、有効となる資格です。

管轄:厚生労働省/児童福祉法 対象:0歳から18歳未満

 このほか、「児童指導員資格」(児童養護施設や障害者施設などで、子どもたちが健全に成長できるように生活指導をするのが児童指導員です。各自治体の地方公務員試験に合格した後、児童養護施設などに児童指導員として配属されます)、「社会福祉主事資格」(公務員が福祉事務所など福祉行政の仕事に就く際に必要な資格です。生活保護などを求める人の相談に乗り、援助を行うケースワーカーとして活躍できます)、「普通救命講習 I 修了証」(心肺が停止した傷病者に対して、救急車が到着するまでの時間に、その場に居合わせた人が適切に応急手当するための、「心肺蘇生法」とAED〈自動体外式除細動器〉を中心とした講習です)、「レクリエーション・インストラクター」(レクリエーションを通して、人と人との交流の促進、学習活動、生涯スポーツなど、幅広い分野の支援を行います。レクリエーション関係の所定の単位を取得し、日本レクリエーション協会に申請すれば資格が得られます)などの資格の取得が可能です。

小学校教育コース

地域との連携を生かし、確かな教育実践力を身につける

 小学校教諭の養成を主な目的としています。小学校で教えるための教科指導の方法はもちろん、学級経営、家庭や保護者とのかかわり、地域との連携など、小学校全体について幅広い視野から学びます。
 本コースの特長は、実際の教育現場にて、直接児童や先生方と交流することで、より実践的な力を身につける学修スタイルです。本学には小・中学校での校長経験を持つ教授陣が揃っており、地域の小・中学校と連携したり、隣接する附属幼稚園や系列の認定こども園での活動に携わったりします。そのため、昨今の教育課題である幼稚園や保育所、認定こども園から小学校への連続や、小・中学校間の接続なども視野に入れた実践力を磨くことができます。

子ども英語コース

英語教育を通して、国境や文化を越えて認め合う心を育む

 小学校英語の指導法を専門的に身につけ、異文化交流や多文化共生の視点を備えた小学校教諭を養成します。グローバル化が進む日本では、学校現場における外国籍児童の増加など、子どもたちの多様化が進んでいます。これからの学校で大切なのは、子どもたちがさまざまな言語でのコミュニケーションに親しみ、心を通わせ合う喜びを体感すること。そして教師には、多様な価値観を認め合い、ともに社会を築いていけるように、子どもたちを導いていくことが求められます。外国語教育を通して多様な言語や文化、価値観について深く理解し、互いを尊重しながら学び合うことの大切さを伝えることができる教員を目指します。

子どもICTコース

ICTを活用し、次世代の子どもたちの教育をリードする

 小学校におけるICTを活用した教育について専門的に学びます。これからの学びを支えるICTや先端技術の効果的な活用法、適切な指導法を探り、次世代の新しい教育の在り方を考えていきます。
 2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化され、あわせて「GIGAスクール構想」もスタートしました。そのため、近年の学校現場では時代の急速な変化に対応するために、ICTの専門的な知識とスキルを持った教育人材の養成が急務となっています。本コースでは、ICTを活用した授業方法や指導法、情報モラル教育などに関する専門性を深め、新しい時代の教育をリードする“学校ICTの専門家”を養成します。

子ども創作・表現コース

芸術教育を通して、子どもの可能性を拓く感性と創造性を育む

 芸術教育の専門的な指導を通じ、子どもたちの豊かな感性と創造力を育む教員を養成します。歌や楽器演奏などの音楽分野と、絵や立体・工作、鑑賞などの美術・図画工作分野を中心に、それらが持つ教育的な意義や指導法について学ぶほか、幼稚園や保育所から小学校への連続性も考慮しながら、附属幼稚園をはじめ実際の教育・保育の現場で実践を重ねていきます。芸術大学ならではの環境を生かして、芸術学部で開講する科目も一部履修したりしながら、さまざまな芸術活動に向き合うことにより、自分自身も豊かな感性と表現のスキルを磨いていきます。

幼児教育・保育コース

豊富な実践の機会で、現場力を備えた幼稚園教諭・保育士へ

 幼稚園教諭・保育士の養成を主な目的としています。特に、子どもたち一人一人の個性に寄り添い、成長に応じた教育・保育を行うことができる幼稚園教諭・保育士を目指します。子どもの発達や生活、文化などを詳しく学び、子どもが安全で健康に過ごすための教育・保育の方法を学ぶとともに、子どもの育ちに欠かせない“生活やあそび・適切な環境と援助・人間関係や家庭の役割”などへの理解を深めます。
また、実習をはじめ、普段の授業やゼミ、ボランティア活動などで実践の機会を数多く用意。附属園や地域の園などとの連携により、子どもたちと交流しながら幼稚園教諭・保育士としての資質と実践力を養います。

子ども支援コース

社会や家庭と連携しながら、子どもたちの成長と自立を支援する

 近年、教育や保育の現場は、児童福祉に関するさまざまな課題に直面しています。発達障がいや貧困の状況にある子どもたちへの支援、いじめ、虐待、居場所の問題など、解決すべき課題は数多くあります。
 本コースでは、0歳から18歳未満の子どもの発達や障がい、児童福祉に関する課題などについて専門的に学びます。特に、子どもたちの個性を尊重し、成長を促すための支援や子どもの貧困、児童虐待などについて、さまざまな角度からアプローチします。児童福祉や発達支援の専門施設・機関に実際に足を運び、現場の実情と向き合いながら学びを深め、福祉施設や保育所、幼稚園、学校などで子どもたちの成長と自立をサポートできる人材を目指します。

子ども健康・スポーツコース

運動あそびの楽しさを伝え、子どもたちの健やかな育ちを導く

 運動あそびは、子どもたちの基礎的な体力や動きの発達・向上だけでなく、人間関係やコミュニケーション能力が育まれるなど、子どもの心身の発達にとても効果的です。
 本コースでは、主に幼児の健康と運動面における指導の方法や効果などについて深く学びます。そして、子どもたちの心身の成長と発達を支援できる専門性を身につけた幼稚園教諭・保育士を養成します。たとえば、屋内でも楽しく安全に体を動かせるような工夫をしたり、一緒に働く他の教員に運動指導に関するアドバイスや提案をしたりしながら、子どもたちの心身の健康と健やかな成長をサポートできる教員を目指します。