名古屋芸術大学

落合紀文

大学院デザイン研究科長
デザイン学部長

それまでの教育と大学での専門をつなぐ教育

ファンデーション教育の今日

 現在、芸術分野での美術やデザインが、中等教育の中で、必ずしも積み上げられて来てはいないように思われます。専門の高校は別としても、本学に入学する普通高校からの多くの学生にとって、「デザイン」は未知で不確かなものかもしれません。約一年間基礎を学びながら、「デザイン」について、専門について考える事が出来る本学のファンデーション教育は、それまでの教育と大学での専門をつなぐ教育だと考えています。

 少し前までは、芸術系大学を受験する為に画塾や研究所等、受験予備校に通って、表現技術のトレーニングを重ね、ある程度大学での専門性の事や、自らの将来についてイメージを持った学生が多くいました。受験前に専門に向けての意識と基礎的な表現技術を持つ事は、理想的かもしれません。しかしながら現状では、それに至る間もなく受験を迎えているようです。従来よりも特別な色が付いていない素の状態の受験生の割合が増えました。入学生も同様です。現在の本学の入試選抜の状況は、入学後、教員スタッフとの遣り取りの中で、必ず成長するであろう学生を多種多様な試験内容で選抜しています。結果、基本的に真面目で吸収力のある学生の割合が増えました。その分、教員スタッフやカリキュラム内容による影響力も増して、ある意味責任が増したとも感じています。特にファンデーション教育の重要性を、再認識しています。

ファンデーション教育の昨日

 本学では、創立期より全国から様々な学生が集まる私立大学という事もあって、基礎教育に力を注いできました。専門コースの基礎を集約してカリキュラムを構築してきました。ヨーロッパに姉妹校があったり、過去に英国人スタッフが在籍していた事もあり、ヨーロッパの美術・デザイン教育の歴史や当時の状況を知る中で、そのノウハウを取り入れながらも、本学なりに何度もブラッシュアップしてきた結果が現在のファンデーション教育に繋がってきています。毎年度末に開催するレヴュー展で、学年ごとの学修内容と成果を展示発表(プレゼンテーション)して、相互評価しているのも英国スタイルのなごりであり系譜なのかもしれません。

ファンデーション教育の明日

 学生は、当然のことながら卒業して終わるというのではなく、大学は通過点であり社会に出て様々なデザインの現場(進学や教育の場も含めて)へ出てゆく事になります。入学時の素に近い状態と比べれば、ファンデーション教育を経て、専門コースを選択して学び、4年間を経てその結果の一つである卒業制作を見る限り、多様であるものの確実に個人として成長していると感じられます。ですからファンデーション教育から始まる4年間の仕組みが一定の効果を生んでいるように思います。

 しかしながら、社会の動向や学生を取りまく環境は固定的ではあり得なく、常に動的である中で、教育環境や教育内容が問われます。より広域化するデザインのフィールドと社会状況の明日を見ながら、入学生と直に接する中で、その都度、カリキュラム内容の検証が必要だと考えます。その中で昨日から続く時間を通して、不変的で継続的な意味や価値を見い出す事もありますが、一方でそれに縛られる事も無く、人も社会も時間も動いている事を思えば、動的でありたいと思います。ですから毎年内容は僅かでも変化し、スタッフの変更も続いていく事になるでしょう。もちろんその事の検証も必要でしょうが、新入学生にとってのファンデーション教育は、定食メニューである故に標準化や固定化に対しての慎重さもより必要となるでしょう。多くの学生がより多様なデザインの現場へ出て行きます。現場(社会)から求められる内容は、質・量ともに増々欲張りな状況です。多様な問題に対して解決するアイデアや実務を学生に求めています。まさに、デザイン本来の力を求めていると言えます。大学は就職予備校ではありませんが、そうした現場(社会)で答えを出していくことが出来る学生を送り出すべく、よりデザインの本質に根ざしたファンデーション教育と、デザイン力を発揮出来る専門教育を目指して展開してゆく事になると思います。

デザイン学部伝統のレヴュー展

 1年間の集大成として、年度末に行われるのがレヴュー展。1〜3年の学生全てが、2畳ほどスペースを使いその年に制作した課題を展示する。展示ブースの設営や展示方法に決まりはなく、各人の判断でより効果的に作品をアピールできるよう設営、プレゼンテーションも行う。1年生にとっては初めての展示となり、自分の作品をよく理解してもらうための方法を考える機会になる。ファンデーションで制作した課題も展示される。

▲ページの先頭へ