名古屋芸術大学

水内智英

デザインファンデーション担当

《観察⇨発見⇨展開》のプロセスを繰り返し経験

ファンデーションの目的はどんなことですか?

 大学に入るまでのデザインの理解というのは平面と立体があるという程度の認識ですが、デザインにはコミュニケーションという要素や数学的に考えられた造形、また、クラフト的な側面もあったりと、たくさんの要素が集まってデザインというものができています。それらを一つずつ取り出してやっていくことで、デザインという大きなものを、より幅広く、より深く理解してもらおうというのが最終的な目標です。

 具体的には、2つあると思います。一つは、高校時代までに興味を持ったこと、例えばマンガやアニメに興味がある、などがあるかと思いますが、こういったことはデザインの一側面でしかないのです。高校時代、デザインのことを教えてくれるところがないのが現状です。そのまま突き進むのではなく、デザイン全体を理解できるように、やってみる機会を与えるという目的。もう一つは、自分が軸足をどこに置いて、2年生以降、自分の専門として突き詰めていくのか考えること。この2つが目的となります。

実際のカリキュラムはどんなことを?

 授業は、前期と後期、1年間です。A〜Hまでの8つの課題を、8クラスでローテーションしてやっていきます。1クラス25人程度です。

それぞれカリキュラムの実際は?

 8つの課題がありますが、前期と後期で緩やかに目的が変わっています。前期は、デザインの基礎の基礎、土台となる部分です。デザインには、観察して、発見して、それを展開して作り上げるという大きなプロセスがあります。そういう過程を前期の課題で学んでいきます。後期になると、やや専門基礎のような感じになってきます。前期で学んだプロセスを使って、もう少し具体化していきます。例えばE課題のお店のデザインというのは、ややスペースデザイン寄りですし、F課題のモーフィングは、変化ということでやや映像やメディア系の課題に位置づけられます。G課題のピクトグラムはヴィジュアルデザイン寄り、H課題の廃材はクラフト的な要素、そういったやや専門基礎になってはいます。2年生になっていくとここから発展してさらに専門的になっていきます。一つひとつのステップとして身に付けるべきスキルもあるんですが、大きな流れとしてはしっかり観察して、自分なりのものを発見して、しっかりと表現していくというプロセスは共通しています。前期にしっかりと経験しないと、後期の課題は散漫になってしまうと思います。

学生たちは課題の意味を良く理解していますか?

 説明はしていますが、理解というとやってみて初めてとわかるという感じだと思います。学生たちによく話しているのは、まず自分の思い込みを忘れてもらって、とにかく失敗してもいいと。ファンデーションは、失敗してもその中から学ぶことが目的で、上手な作品づくりが第一ではないと言っています。ファンデーションのうちにどれだけ自分を発見できたり、デザインの世界のことをどれだけ学べるかということが重要で、とにかくいろいろ挑戦して欲しいと思っています。やり終えて、2年生くらいになってくると、ようやく意味がひと揃いになってわかってくるのではないかと思います。デザインの広さとか多面性がわかってくるのではないかなと期待しています。

本人にとって変化や発見があったとしたらすごくいいことですね。

 そうですね。スキルが追いついていない学生でも一所懸命やると、作品に魅力が出てくるし、面白いものになってきます。毎回一人ひとり面談をして、指導していますので、そういったところも良くわかります。1年生として入った時から既に将来どのコースに進むか決めていた学生が、いろいろなデザインの側面に触れ、専門の先生からも話を聞いて、別のコースへ進むことがあります。彼らなりに魅力を見つけて、自分の進む道を決めてくれた、そういうことがうれしいですね。

基礎教育というのはどれくらいの学校でやられているものなのですか?

 今、日本でどんなファンデーションデザイン教育が行われているかという研究を僕自身も行っていますが、意外にやっている学校は少ないです。最初から専門に入ると、専門基礎になってしまうのが現状です。人数にも問題があり、巨大な大学では規模からして厳しいです。本学でぎりぎりだと思います。システム自体を持っていない大学もありますし、名古屋芸大にファンデーションがあるということは、すごく意味があるし、魅力になるだろうと思います。

専門性を高めることと相反することはないですか?

 デザインの世界も変わってきていまして、こういうことがより意味をなしてきているのではと考えています。例えば、今まではグラフィックデザイナーだったら、ポスターやパッケージなどをやっていれば大丈夫でしたけど、今、グラフィックに求められるものといえば、様々な要素の中で、それがどう関係しているかであるとか、複合的になってきています。レストランのメニューのデザイン一つとっても、それが内装とどう関係しているか、制服とメニューがどう関係しているか、お店の外装とどう関係しているか、もしかしたら、店員の言葉遣いとグラフィックがどう関係しているかなど、トータルデザインになってきているのが当たり前です。それがグラフィックの世界でも立体の世界でも、どの世界でも起こってきていて、相互浸透してきています。その中で、グラフィックのことはわかるけど、そのほかはまったく興味はないしやったこともありません、という人よりも、どこかに軸足を置きつつも、トータルにデザインを考えられる人材が求められてきています。今まさに、横断的なファンデーションがあるということの意義は大きなと思います。

8つの課題を通して、デザインの幅広い分野を体験

平面と立体を織り交ぜた8種類の課題を、1年間を通して実施。課題に取り組むうちに、
さまざまなデザインの分野を体験して基礎実技力を高め、デザインについての考えを深める。

前期

A

回転体による成型実習

回転成型によって石膏モデルを完成させる

 回転成型で作ることができる形態をイメージし、スケッチに起こして曲線・サイズ等を検討。図面を作成し、図面に基づき型板を製作。石膏モデルを作製する。

B

多面体と植物文様

針金のスポット溶接で多面体を作製する

 植物を観察した上で、要素や法則を抽出し、さらに針金で多面体を作製する。平面の集合体が立体として立ち上がることを体験して立体的な感覚を養う。

C

ミメーシス(模刻)〜色彩〜平面構成

自然物の観察から、平面表現、立体表現に展開

 野菜や果物などの細密描写を行い、紙粘土で模刻、彩色して仕上げる。さらに同じモチーフで平面に展開。構成や配色などに配慮して展開する。

D

あなたの素材観(感)

取材、リサーチ、情報編集のプロセスを体験する

 街を歩き、身の回りにある「素材」をスケッチ、メモ、写真など調査。それらを自らの視点を通して編集、一冊のブックとして提示する。

後期

E

あかりのデザイン・私の店

空間とプロダクトのデザインを体験する

 「あかりのデザイン」では、光の観察や実験、アイデア抽出を行い、モデルを制作。「私の店」では、実際の現場からアイデアを展開し、模型を制作する。

F

知覚とイマジネーション―AとBの間をイメージする

時間にそって魅力的に変化する過程を想像し、描き出す

 「色紙の混色/透明性の錯視」では、透明感を感じる混色をイメージし色紙で表現する。「モーフィング」では、あるモノから全く別のモノへの「変化」を想定し、かたちと色の変形過程を描く。

G

ピクトグラムとタイポグラフィを使って自分自身を表現する

「私のプロフィール」「私の一日」の中からテーマを選びパネルを制作する

 ピクトグラムを使い、言語の異なる人々にも自分自身の情報を伝達できるような作品を目指す。情報社会の中での視覚言語とタイポグラフィの重要性を理解する。

H

廃品による素材体験

廃材を組み合わせて造形物を制作する

 身の回りにある廃材を30種以上収集し、組み合わせて立体・半立体・平面を制作する。自分のイメージを表現するためではなく、素材を組み合わせて新しいイメージを創ることを重視する。

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