名古屋芸術大学

ガラス工房の3人に聞きました

国内でも有数の設備を誇るガラス工房

工房の設備についてですが、なかなかないものなんですか?

松 藤:津坂先生は、日本でも有数の設備を保有している富山ガラス造形研究所の出身ですが、それと比べても遜色ないような設備ですよね。

津 坂:そうですね。人数当たりの設備の量が多いので、窯の数なんかでもそうですが、学生にしたらかなり贅沢に使えています。僕が始めたころはバブル景気と重なっていて、色んな大学でガラスの設備を整え始めた頃ですが、これから先はなかなかこのように設備を整えるということが難しくなってきていると思います。これから他所で設備が増えるということは考えにくいのではないかと思います。この設備を自由に使えるというのは本当に贅沢なことだと思いますよ!

松 藤:近年では、他大学や専門学校から3年編入として、またアジアからの留学生もガラスコースに来るようになりました。これも前任のマイケル・シャイナー先生が設備を整えてくれたおかげです。溶解炉は常時300kgのガラスが溶けているんですよ。

溶解炉の火を落とすことはあるんですか?

松 藤:春・夏休み以外は、火を燃やし続けて温度をキープしています。火を落とすわけにはいきませんから、燃料代がかかりますね。

たかぎ:教育機関だから出来ることですね。

松 藤:今は電気の溶解炉も増えてきていますが、将来は太陽光なんかでできるといんだけどなぁ……(願望)。津坂先生は個人工房をお持ちで、すごいなと思うんですよ。自分で、特に吹きガラスの溶解炉を維持となると、最初の初期投資だけじゃないですよ。毎月のランニングコストも大変だと思います。

津 坂:あれがなかったら、今ごろすごいリッチな生活ができるのに(笑)

チームワークが自然と身に付く

―設備の管理とか大変だと思いますがいかがですか?

たかぎ:そうですねえ。でもまずは、事故がないように気を付けています。学生が怪我をしないように怪我しないための使い方を、学生みんなにしっかり伝えています。始めたばかりの学生には何度も繰り返して教えなければいけませんが、私がいない時などは、先輩たちが後輩に教えるということができています。日常的なコミュニケーションやチームワークの良さを感じます。

津 坂:チームワークについては、吹きガラスの作業そのものに理由がありまして、1人でもできなくはないのですが、基本的には常に2人で組になって1人が作ってもう1人がアシスタントをやります。こういうこともあってチームワークは自然と作られるようになっています。チームワークの良さは、工房全体の雰囲気にもかかわっていると思います。

松 藤:この社会で、たとえ卒業して吹きガラスとかガラスに携わらなくても、コミュニケーションや人とのつき合いが大事ですよね。そういうことも自然と身に付くのではないかと思います。

たかぎ:たぶん、気も利くようになります(笑)。

―真剣に取り組んでいる学生がとても印象的でした

松 藤:そうですね、ガラスは専門性が強く、高校まで触ったことのない素材です。学生は一度学ぶと没頭してやっています。

津 坂:手で触って形を作るということができないので、集中してじっくりと取り組むしかないですからね。

松 藤:吹きガラスやバーナーワークなどはいくらデッサンがうまくても、実際にやってみるとその通りの形にはできないんですよ。それよりは、作りたいというエネルギーがすごく大事で、そのエネルギーで創作をやっていくようなところがあります。吹きガラスは、特にそういう傾向が強いですね。

やってみると伝わるガラスの面白さ

―アートクリエイターコースのお話を伺ったとき、平面に行きたがって入ってくる学生は多いものの、立体に興味を持ってくれる学生が減ってきていると聞きました。ガラスを選択する学生さんに変化はありますか?

松 藤:アートクリエイター以前は、工芸という領域でしたので、最初からガラスというふうにきめてくる学生しかいませんでした。でも、大きなアートクリエイターという枠組みになって、多くの学生に興味をもたれています。

たかぎ:アートクリエイターからこちらに来る学生は絵を描ける子が多いこともあって、ガラスに絵を描くエナメル絵付けに興味を持つ学生が増えました。

―やってみるとガラスって良さが伝わるものなんでしょうかね?

松 藤:そうですね。

たかぎ:そうですよね。

津 坂:(うん、うん、と大きくうなずく)

―学生には、どんなことを学んでほしいと思いますか?

松 藤:最初は、やっぱり興味を持ってもらうということですね。ガラスは、技術員のたかぎさんが工房にいて管理しつつ、4人の非常勤の先生で教えています。4人、それぞれの得意分野が異なっていて、僕はキルンキャスト、津坂先生は吹きガラス、ほかの先生にもそれぞれ得意分野があります。それぞれの先生が、自分の特色を活かして幅広く学生に伝えていけるようになっています。学生には、いずれかの分野に興味を持ってもらい、それを出発点にして自分の表現を高めていくようになっています。それぞれの先生の課題に取り組むことで、少しずつレベルがアップしていきます。1、2年生の間には技術を中心に教えて行きますが、3年生からはガラスという素材の勉強も同時に行いながら、表現力を養っていきます。

宝石、透明感、音、光……

―皆さんはガラス作家としての活動も行っています。一作家として、ガラスの魅力ってどんなことですか?

津 坂:僕は、宝石を扱うような感じで、ガラスに触れることを大事にしています。昔はダイヤモンドの代わりだったり、水晶と同じ価値があったりとか、300〜400年前は、ガラスに世界中が熱狂していたわけです。その時代の雰囲気を僕は作品の中で大事にしていきたいと考えています。ダイヤや水晶を溶かして形をつくっているという楽しさがあるという感じですかね。豪華な宝石のイメージですね。

たかぎ:私は、ガラスは色を付けたら透明じゃないものもありますけど、やっぱり光を通す透明感とか、光を通した時にうつる影とか、あと、音ですね。ガラス同士がぶつかったときに、ワイングラスで乾杯した時なんかの音、そういうことが自分では気になっていて、作品に取り入れたりとかしています。そういうところが魅力ですね。

松 藤:私はガラスに宇宙を感じますね。1300℃という超高温で熱せられ、そして冷やされた透明の物質、ガラスには、想像もできないような未知なるエネルギーが見えてきます。そして、どんな光にも対応できる性質のガラスは凄いです。

―作品ができていく過程もすごくドラマチックで、鑑賞する側はそこも一緒に見たい気がしますね。

松 藤:去年でしたが、大学院の授業でガラス工房へ行って、窯からガラスを巻いて見てもらいましたが、驚きがすごいんですよね。ガラスを巻いて1300℃のドロドロの状態が、ほんの1、2分で固まっていって、すぐにさわれるほどにまで温度が下がる。またそれを窯に入れれば溶けて戻る。ガラスの、面白さや不思議さを感じてもらったと思います。

津 坂:日常生活にないものばかりなんですよね。溶けたガラスも、割れたガラスでさえも。家でコップ割れたらおおごとじゃないですか。でも、工房だと砕けているのは当たり前ですし、作業中、あの細い棒をくるくる回すなんていうことも普段の生活にはない動きです。そういった、普段の生活にはないことばかりが集まっているので、そこがまた面白いところだと思います。

松藤孝一【非常勤講師】

1995年
愛知教育大学卒業後、財団法人ポーラ美術振興財団の在外研修助成により渡米
2001年
イリノイ州立大学美術学部修士課程を修了
2008年
「湛える宙」(テーマ展) 愛知県美術館 (名古屋)
2013年
「あいちトリエンナーレ」(企画コンペ)  伏見地下街 (名古屋)

ロックフォード美術館(アメリカ)やエベルトフト・ガラス美術館(デンマーク)などに作品所蔵

津坂陽介【非常勤講師】

1998年
富山ガラス造形研究所 造形科 卒業
2000年
富山ガラス造形研究所 研究科 卒業
ジム・モングレンGlassStudio アシスタント(シアトル/ UAS)
2007年
富山ガラス造形研究所 助手
2010年
個人工房「日の出ガラス工芸社」設立

たかぎあきこ【技術員】

2006年
名古屋芸術大学美術学部造形科卒業
2008–2011年 ガラス工房SILICA 勤務
2011年
大阪・東京のガラス工房 勤務
2013年
「Cute Little Things」(spectrum gallery)
2014年
「たかぎあきこ 展 –AKIKO TAKAGI GLASS EXHIBITION–」(ギャラリー龍屋)
2014年
クリエイターズマーケット ギャラリー&画廊招待ブース出展

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