名古屋芸術大学

緊急座談会
“BORDERLESS” その先へ
〜新しい芽はここにある〜

松岡 徹

美術学部
准教授

1968年
愛知県岡崎市生まれ
1991年
名古屋芸術大学美術学部絵画科版画コース卒業
1992年
名古屋芸術大学美術学部絵画科版画コース研究生修了
1998年
パリ国際芸術都市(フランス)に短期滞在
2004〜05年
スペイン国立バルセロナ大学大学院に留学

2001年からアートによる地域活性化事業「三河・佐久島アートプラン21」に係わる。現在も継続するこのプロジェクトは全国的にも有名になり、島に点在するアート作品を巡るために多くの観光客が佐久島を訪れるようになった。社会とアートをつなぐ取り組みとしてひとつのローモデルとなっている。

「基本的に美術館やギャラリーで作品を発表するのが作家の仕事です。ただ、おそらく時代がギャラリーや美術館に行くということをあまり求めなくなってしまい、一般のお客さんが美術館に見に来なくなってしまいました。それで、僕らのちょっと上の世代の先輩たちが、作品を美術館の外へ持ち出しました。ちょうど僕が大学を卒業した頃からそういう動きが始まり、僕はその動きに合わせるように作品を作ってきましたので、佐久島のアートプロジェクトに大きく係わることになったのだと思います。最初はそこに作品を提供するというだけでしたが、だんだん、どうすれば島に人が来てくれるかとか、アート以外の部分で島の歴史や魅力は何かとか、求められることが変わってきました。僕としては、僕の制作自体も、自分の持っているアートの力をどうやって使っていけば自分も生きるし島も生きるかということがテーマに変わっていきました。自分を表現したいということだけではなく、それをどうやって社会で生かしていくか、どうすればもっと社会にアピールできるのか、あるいは社会に喜んでもらったり使ってもらえたりする存在になれるのか。そういったことも考えてもらいたいと思って授業をやっています」

水内智英

デザイン学部
講師

1981年
岡山県生まれ
2003年
武蔵野美術大学 造形学部 基礎デザイン学科卒業
同年 同校 基礎デザイン研究室に勤務
2004年
渡英、ロンドン大学 ゴールドスミス校 大学院入学デザイン理論を研究
2005年〜
大学院と平行して、ロンドンのデザイン会社へ勤務
2008
帰国、Wieden+kennedy Tokyoに勤務。広告デザインを手がける
2009年
no problem LLC勤務

新しい社会とデザインの関係を模索する様々なプロジェクトを行っている。

「現在、デザインの枠組みそれ自体が、少し制度疲労を起こしているのではないかと考えています。社会の枠組みが変わってきているにもかかわらず、デザインの考え方は変わっていません。例えば、産業の中で成立してきたデザインが、産業自体が変わっているにもかかわらず変わっていないとか、デザインの考え方は近代というものに近しいものですが、近代が移り変わっていっているのにそのまま続いているとか、といったことです。それに対し、もう1度デザインをデザインする、デザインはこうあるべきじゃないか、こんなあり方もあるよね、ということを研究し実践しています。現在は、社会の問題が複雑化しています。単純に原因と結果がわかっている世界ではありません。何がインプットになって何がアウトプットになるかがわからない、複雑な世界となっています。例えば、環境問題もそうですし、仕事や学校で心を病む人の問題もそうだし……、こうした複雑な問題に対しデザインは何も処方箋を持っていません。そういうことを踏まえ、もう1度社会の中で、デザインの立ち位置を考え直すということをやっています」

長江和哉

音楽学部
音楽文化創造学科長 准教授

1973年
愛知県生まれ
1996年
名古屋芸術大学音楽学部声楽科卒業
同年〜
録音スタジオ勤務、番組制作会社勤務
2000年
録音制作会社を設立
2006年
名古屋芸術大学音楽学部音楽文化創造学科 専任講師

2012年4月から1年間、名古屋芸術大学海外研究員としてドイツ・ベルリンに滞在し、ドイツの音楽大学で始まったトーンマイスターと呼ばれるレコーディングプロデューサーとバランスエンジニアの両方の能力を持ったスペシャリストを養成する教育について研究調査。現地のトーンマイスターとも交流を持ちながら、室内楽からオーケストラまでの様々な録音に参加。

「現在の音楽と電気技術やメディアとの関わりは、20世紀前半までと比べると、大きく変化しています。ポップスでのこれらの役割はいうまでもなく、クラシックの流れに沿った現代音楽やメディアアートの分野でも芸術表現に用いられており、以前とは大きな違いがみられます。また、録音や音響技術が発達したことで、本来「その場」でしか体感できなかった「音楽」を、世界中でリアルタイムに楽しんだり、過去に遡って聴くことができるようになりました。私の担当はサウンドメディア・コンポジションコース、専門分野は「音楽録音」です。音楽録音とは、作曲者や演奏者が求めるその音楽にとってもっとふさわしいかたちで記録し、様々な人に届けるという分野です。これまで日本の音楽大学では、音楽をどのように芸術的に録音し伝えたらよいかについて教育・研究することは多く行われてきませんでした。しかし、海外に目を向けるとドイツ・イギリス・オーストリアにはトーンマイスター、アメリカにはミュージックプロダクション&エンジニアリングなどの教育体系があります。今後、日本でもこれらと同じレベルに持っていくことはなかなか容易ではありませんが、音楽大学でのこれらの救育をもっともっと広げていきたいと考えています。」

早川知江

美術学部
教養部会 准教授

1977年
愛知県生まれ
2005年
シドニー大学(オーストラリア)に交換留学
2006年
東北大学大学院国際文化研究科博士課程修了
同年
名古屋芸術大学(美術学部)、名城大学(理工学部)、中京大学(生命システム工学部) 非常勤講師
2007年
名古屋芸術大学(美術学部) 講師
2017年4月からはリベラルアーツコースへ

専門は言語学。言語学の主流的な考え方であった「生成文法」ではなく、「選択体系機能理論」という社会的な状況においてそれぞれの場面にふさわしいことばや文法、色、音、形など使い情報を伝達しているという考え方を研究する。

「選択体系機能理論の面白いところは、ことばだけではなく画像なども一緒に扱っている理論ということです。言語と一緒にそれ以外の画像も同じ枠組みで分析することができるのです。そこから派生して、私はその両方を使って何かがしたいと考えました。それで最近では、絵本の研究をしています。絵本は、絵もあって物語もある、絵とことばの両方を使っています。絵本というものは、お話で書いてあることが絵でそのまま繰り返されているわけではなく、お話とはむしろ別のことが絵にしてあります。そのギャップから皮肉やジョーク、面白さを感じたりします。そういった技術でどうやって人を楽しませるか、そういう機能がどうやって生み出されているか、そんなことを研究しています。しかし、言語学というのは、ことばでも、画像でも、絵本でも、すでにあるものを分析することしかしていないことに気が付きました。芸大で働いているとまわりには、実際に絵を描いている人たちがいる、実際に自分で作品を作っている人たちがいます。そこにできあがったものを分析している私がいます。一緒に働けたらきっと面白いことができるんじゃないかと考えています」

カギはアートプロジェクト

 お忙しいところ、ありがとうございます。本日は、「BORDERLESSのその先へ」ということで、若手の先生方にお集まりいただき、ちょっと先のことを考えてみたいと思います。事前に改革準備室の萩原先生にお話を伺ったところ「枠組みは整った、これからが本当のスタートである」という旨のお話がありました。たしかに、カリキュラムを改正し4年間やってみて評価、さらにその結果を反映させて調整、また4年して評価、ということになるので、改革の成果がより明確に固まってくるのは最短でも8年ということになるでしょうか。こうしてみると、大学の変革は10年単位で考えるべきものということがよくわかります。さて、そこで10年という単位でものを考える時に、現在30代、40代の先生方の活動や、考え方が大きく大学に影響してくると思われます。それで、今回は皆さんに集まっていただき、これからの名古屋芸術大学について考えてみたいと思います。  始めに「BORDERLESS」ということで、来年度から学生は一定の条件のもとではありますが領域を超えた選択ができるようになります。これまでにも学部を超えてプロジェクトを行うようなことがあったと伺っています。これまで係わってきたBORDERLESSな活動について教えて下さい。

水内:僕がこの大学に勤めだした時の感想として、専門分野がしっかりと確立している半面、それぞれが少し分かれているのではないか、という印象がありました。加えて、他者と上手く協力していくような体験がなければ、卒業生たちが社会に出たとき苦労するのではないか、とも思いました。専門は専門で深めていく必要がありますが、それを横につなげていくような取り組みがあればもっとうまくいくのではないかと思い、いろいろなところに協力を仰ぎ、特別客員教授の服部滋樹先生、ライフスタイルデザインの萩原周先生、スペースデザインの駒井貞治先生らと一緒に、いろんな学部のいろんなコースの学生が係われる地域プロジェクトをやろうと思い、「土と人のデザインプロジェクト」を始めました。そのプロジェクトの中で「晩餐会」を開きなさいというお題を与えまして、学生たちがゼロから晩餐会を作る、ということをやりました。「晩餐会って何だろうね?」から始まり、食べるものもいるし、テーブルもいる。音楽もいるし、お皿もいるし、案内状もいるし、学生はそういったことを考えていって、それらすべてを地域のもので作りなさい、というルールにしました。すると、地域に探しに行くんです。探しているうちに、例えば木材をどうするかというと、お風呂屋さんの薪として使う木材を見つけたのでこれを使えないかとか、建物どうしよう、ビニールハウスがあるじゃない、農家の人に借りよう、となる。食べ物はどうしよう、おいしいお豆腐屋さんがあったとか、畑を借りて地域のおじいちゃんから作り方を教わりやってみる、料理も自分たちで考えて作ってみる。招待状も出さなきゃいけないんだけど紙を買うわけにはいかないので、草を刈って漉いて紙にして。学生は皆、何かしらものづくりのできる人たちばかりなので、できるんです。テキスタイルの学生は紙を漉いたりもしていますし、グラフィックが得意な学生は旗印になるプロジェクトのマークを作ったりします。マークというのは大切で、それだけでみんなの気持ちが盛り上がったり、チームとしてまとまるきっかけができます。家具を作れる学生もいるし、マネジメントのできる学生もいる。それぞれの専門性や役割を活かし、地域の方々と関わりながら晩餐会を作っていきました。最後にはお世話になった地域の方々をゲストとして招いておもてなしをしました。
 晩餐会を終えた後、展覧会と座談会をやりました。そこで印象的に残っていることは、お招きしたデザイン評論家でプロデューサーの紫牟田伸子さんが「すごくみすぼらしいですね。だけどもすごく豊かですよね」とおっしゃったんです。ひとつひとつのものがすべて地域の材料で手作りされたもので、パッと見は派手ではなくみすぼらしい感じなんです。だけれども学生ひとりひとりが、この木材はとか、この料理はとか、これはそこのおじちゃんのとか、全部語れると。「その物語性の豊かさというのは本当に豊かですね。これからの豊かさというのはそういうところにあるのかもしれないね」といっていただいたのが印象に残っています。そういう活動が今も続いています。来年度からの枠組みで「アートプロジェクト」をいただけたので、今度は、美術の学生や音楽の学生がもっと入ってくれる土台ができて、さらにオープンなかたちでできると期待しています。

●土と人のデザインプロジェクト

早川:学生に絵本を作らせるというプロジェクトを何年か前からやっています。私が提案したわけではなくて、2014年から「キャンパスをつなぐ、在校生と卒業生をつなぐ、教員と学生をつなぐ、教員と職員をつなぐ、地域と大学をつなぐ」をコンセプトにした「つなぐプロジェクト」が始まりましたが、その中で、心理学の木村美奈子先生と事務員の方で絵本を作って読み聞かせをするのがいいんじゃないかと始まりました。
 絵本というのは、その時点で名芸にあった全部の学部の要素を含んでいます。絵は美術・デザインの学生が描き、絵本ができたら、人間発達の学生がクリエ幼稚園で読み聞かせをやる。子どものことが得意な学生ですから、どんな絵本が面白いか、どんなふうに読んだら伝わりやすいか、意見をアドバイスしてくれる。音楽の学生もいるので、読み聞かせの時に一緒に音楽を演奏することができる。実際にいろんな学部から有志でやってくれる学生を募って、クリエ幼稚園などで発表しました。すごく面白かったです。皆それぞれ専門があって、それが協力してひとつの読み聞かせという活動になる。本当に楽しんでやれました。これは授業外のプロジェクトでしたが、来年度からは、アートプロジェクトという授業でできることになります。横断科目なので全部の領域の学生が履修することができるようになります。「つなぐプロジェクト」では、学生たちが本当に頑張ってくれたのですが、何も単位にならないので、もったいないと感じていました。来年度からは、ちゃんと単位に含まれるわけですし、人間発達学部と芸術学部の4領域の学生が集まって、いい活動ができればと考えています。
 今現在「教養講座(社会)」でも絵本制作をしているのですが、残念ながらちょっとバラバラにやっている感じがあるんです。どうしても、西キャンパス開講の時には美術とデザインの学生しか取りませんし、東キャンパスでは音楽と人間発達の学生しか取りません。時間割の組み方でそうなってしまっていることもありますが、せっかく読み聞かせを最後にやろうという授業なのに、結局片方の学生しかいません。来年度、もしもいい具合に時間割を組むことができ、全領域の学生が履修できるようになり、理想のかたちになるのではないかと思っています。

●「つなぐプロジェクト」絵本読み聞かせ活動

長江:サウンドメディアでは、デザインの津田佳紀先生と竹内創先生と以前からつながりがありました。「カレイドスコープ」というコンサートを毎年開催しています。学生が作曲した楽曲の作品発表コンサートなのですが、この8年ほどは、デザイン学部の学生とコラボレーションして、サウンドメディアコースの学生が作曲した楽曲イメージに沿った映像制作をデザイン学部の学生が行い、当日プロジェクションするということを行なっています。音楽と映像が融合したアートですね(写真参照)。昨年からは、照明もエンターテインメントディレクションコースの学生に担当してもらっています。来年度からの新しい、サウンドメディア・コンポジションコースのカリキュラムでは、2年と3年次にマルチメディアアート(音と映像の融合)1、 2が半期づつ入っています。これらのコラボレーションは今までも行なってきましたが、今後は、単位に含まれる授業として行うことができることとなりました。

●カレイドスコープ

松岡:若手じゃなくてスミマセン(笑)。アートクリエイターコースも、飛騨との連携プロジェクトでミュージカルの舞台美術をこれまで4回程、やらせてもらっています。ミュージカルコースの森泉博行先生が書いた脚本に対し、依頼を受けて学生が制作します。ああいう取り組みは、学生にとっても非常にいい経験ですね。泊まり込みで高山へ行って、一緒になってリハーサルを見て、作っていきます。

●飛騨との連携プロジェクト

連携することで興味を持ってもらえる

こういった取り組みの背景には、どんなことがあるのでしょうか?

松岡:佐久島のことを始めたのが30歳ちょっとくらい前からですね。それからずっとやっていて、今では岡山の方だったり静岡の町で同じような取り組みを行っていますし、トリエンナーレもそれこそあちこちの町でたくさん行われるようになりました。そういうことを含めて、そうしないとアートというものが受け入れてもらえなくなってきたのではないかと思います。ほかの領域と連携しながらやるのも、その流れと同じなんじゃないかと思います。いろんな領域と連携して活動することで、受け入れてもらえるようになるのではないかと。美術でいえば、自分を表現するという意識が強すぎるのではないかと最近思うことがよくあります。今の時代、中学生でも自分の表現はできてしまいます。twitterだったり、YouTubeだったり、スペインの10歳の少年のパフォーマンスを朝のニュースで見てしまったりする世の中です。自分が人の表現に興味を持つということが、変わってきました。奇抜な作品を作ったくらいでは誰も魅力を感じなくなってしまいました。個性が強いからといっても、その個性が見たいと思わなくなってしまいました。社会と係わるということをもっと積極的にアーティストやアートにたずさわる人間が考えていかなきゃいけないと思っています。

専門的すぎてわかりにくくなっているんでしょうか?

松岡:僕らが学んでいるのは西洋美術なんですよね。西洋から大事に重箱に入って届いてきたものを、まだ重箱に入れたまま大事にしていて、重箱から出してはいけないと思い込んでいるように思います。美術では「俺はこの仕事なんだから、これを勉強してこういうことをしなきゃいけない」そういった枠組みの中でやっていて、でもそれは一般の人から見るととても遠い話になってしまっている。いつまでもそこに美術があると信じている人は、ずっとそこを信じているんだけど、社会の人は、遙か違うところに移動してしまっている。僕には、それが何かとても虚しく感じます。もちろん美術館で展覧会もしますし、グループ展にも参加しますが、本当に来る人が少ないんです。ギャラリーの人と話をしていても「知り合いの誰それさんが来てくれたからいいんですよ」みたいな、仲間内だけで回っているような、卒業生が展覧会をやっても見に来るのは関係者ばかりで、普通のおじさんやおばさん、近所の人が見に来てくれるというと来ない。それでいいと思えてしまうこと自体が問題だと思います。学生たちは、すごい技術を身に付けていくわけですよ。でも、それをどう使うかというところに間違いがあるとはいいませんが、大きなズレがあるのではないかと思います。それをもう少し気付かせたいということが心にずっとあります。

水内:デザインも一緒ですね。

長江:「カレイドスコープ」を行なってきて、東キャンパスの学生は、西キャンパスの仲間ができたときに、彼らと自身の考えがとても違うことに毎回驚いています。デザインの学生でも、音楽に触れてみたいと言う部分は共通なのですが、お互いの専門分野になると考え方が異なるわけで、これは、私も学生時代、デザインの友人の発想にとても驚いた記憶があり、是非とも学生に体験してもらいたいと思っています。卒業して実際の仕事となると、どちらかの分野がイニシアチブを取るかは内容によるので、その意見に沿っていくのが常ですが、毎年学生は、お互いの考えをぶつけあって作品を制作していっています。それらは学生ならではのかけがえない経験であると思います。

学生たちは自然に領域を越える!?

松岡:最近面白いことがあって、アートクリエイターコースの1年生の学生たちが7〜8人くらいで、自主的にアニメーションを作っているんです。それで時々見ているんですが、音楽を音楽コースの学生にやってもらいたいんだといいはじめて「じゃあ、僕が誰か先生に頼んでみるよ」と言っていたのですが、自分たちで東キャンパスに行って、声をかけてスカウトしていたんです(笑)。

●学生自主制作アニメ『私はまだ、まっしろなカンヴァス』

早川:どうやって音楽学部の子だとわかったんだろう?授業に出てみて探したんでしょうかねぇ??

松岡:たぶん東キャンパスへ来てその辺にいる学生を見て、良さそうな、何が良さそうなのかはわかりませんが、声をかけてみたらドンピシャで(笑)。音楽を自分たちのアニメーションに付けてもらうからといって、毎週会って曲を付けたり効果音を付けたり、というのをやってもらっているようです。勝手にやってるんですよね(笑)。

水内:そういうのは、ありますよね(笑)。

松岡:やってますよね。意外と学生たちはやってるんです。

長江:うん、うん。

松岡:僕らの方が構えちゃう。学生の方が意外とスルっといっている。

水内:学生にはだいぶ先見性があって、僕らが考えている以上に音楽も美術もデザインも一緒だというふうに考えているようです。学生同士でやりたいと思っているんです。でも枠組みがないので、気持ちだけで終わってたんです。これからはおそらく学生のモチベーションがどんどん違ってくるんじゃないかと思います。

早川:日ごろから交流があるかどうかが、すごく大事ですよね。普段何をやっているかがわからなければ、どんなことができる子たちが向こう側のキャンパスにいるのか、わからないままです。それでは、そもそも頼もうという発想にはならないじゃないですか。それなりに授業を見たり一緒にサークルをやっていたりだとか、相手がどんなことをできるか知っていれば頼めることも増えていくのではないかと思います。普段からいろんな領域の授業を取れるのは絶対いいことだと思います。

水内:僕ら自身も楽しいですよね。先日、国際交流でデンバー大学ラモント音楽院のクリス・マロイ先生と田中範康先生の演奏会に行かせていただいたんですが、すごく楽しかったですよ。前衛的な電子音楽の演奏会で、僕は専門的な部分は全然わからないですけど、これはぜひデザインの学生たちにも行かせたいと思いました。

●デンバー大学ラモント音楽院・名古屋芸術大学音楽学部 交流演奏会

長江:うん、うん。

早川:私も、田中先生の作品を初めて聞かせていただいた時に、すごくびっくりしましたね。

水内:学生のためではあるのですが、僕らのためでもあるんではないかと思います。すでに自分の専門に凝り固まりはじめていて、僕ら自身も楽しいことを求めて近づいていくという姿勢は大事だし、学生から学ぶものもあると思います。楽しまないと駄目というと語弊がありますが、教員側が楽しんでいれば学生も楽しいだろうし、いい効果があると思います。

東は西へ、西は東へ

萩原先生は「バスが混雑するようになっただけじゃ駄目なんだよ」と心配していましたが。東と西がもっと近づかないといけない?

長江:来年、時間割がどうなるかは、これから決まると思いますが、ある分野のこの授業は東西どちらかのキャンパスに行かないと施設の関係上、履修できないというようなことが出てくると思います。つまり、「その授業を履修したいので、わざわざそこにいく」、や「視野を広げるためにあそこにいって、他コースの学生と一緒に作品やコンサートを作る」といったことが自然に始まり、まさに、音楽・デザイン・美術の交流やコラボレーションがスタートすると思います。

早川:週に1度でもいいので、この曜日は西で過ごすんだとか、午前中はここへ行くんだみたいなようになれば、そのついでにほかの授業も取ってみようかななんていうことが起きるかも知ませんね。水内先生がおっしゃったように、大学でいろんなイベントがあり、私も水内先生のデザインフォーラムに行かせていただいたじゃないですか。違う先生がやられているイベントに実際に行ってみるとすごく面白いんですよ。教員もほかの先生がやっているいろいろなプログラムに参加してみたりコンサートを見に行ったりすれば楽しめるし、ほかの人のやられていることも理解しやすくなる。

専門性を持ち寄って、社会に生かす

水内:“専門性を持ちながら”というのが教員側にとって大きなキーワードになるのではないかと思います。専門性を持ちながらそれを開いていく。

長江:そうですね。

水内:専門性をどう開けるかということだと思うんです。隣でやっている美術やデザインに開いていくということもありますが、それを超えて社会にどうやって開いていくかということでもあると思います。松岡先生がおっしゃったことはたぶんそういうことだと思うし、僕が考えていることもそうだと思うんです。どう音楽をもって社会の中で生きていくんだということもまさにそうだと思います。これを、インターディシプリナリーではなくてトランスディシプリナリー(専門コミュニティの枠を超えたセクター横断の教育体制の下での「学び合い」。現実社会の諸課題に即応する実践的教育・人材養成。インターディシプリナリーは専門を持ち寄ること、トランスディシプリナリーはさらに相互に行き来して関係する)だと思うんです。これまでは分野分野をつなぐということで終わっていたかもしれない。それをどうやって全く違う社会の中に開けるか、ということが領域が一緒になることで、できる気がします。
 ひとつの分野だけではどうしてもその専門に凝り固まってしまいます。音楽の人たちというのは電子音楽であんなことをやっているのかとか、そういう中で、デザインやアートの視点が交われば、そこから社会へ広く開いていく可能性が見つかるかもしれないと考えられます。全く異なった分野に入っていき、その中に自分を生かす方法が見つかる、ということがBORDERLESS化した時に大事になるのではないでしょうか。だからやっぱり専門を、ということだと思うんです。片足で自分の地面を踏んでいるけど、もう一方の足でどこに行けるのかということを探っている、そういう状態が望ましいのかなと。

松岡:大学を選ぶ時に高校生が「就職とか卒業後はどうなってますか」と聞いてきます。美術とデザインを見た時に、「デザイン」は仕事の名前だけど、「美術」は趣味の名前なんです(笑)。だから絵を描くことが好きで、本当に描ける子が、デザインを選ぶということがよくあります。音楽もそういうところがあると思うんですが、なかなか食えないという現実があります。そういう意味では、その中でどうやったらアートで食っていけるかということを、僕自身が実践をしながらひとつのサンプルとして、卒業生でもあるわけですし、やっています。ただただ自分の好きなものを作っているだけじゃ駄目だということを、とにかく伝えたい。高い技術を一生懸命高めているだけの学生が本当に多いんです。どうやってその力を社会へ持っていくか。直接、絵を描くという仕事でなくても、そういう感性やセンスを生かせる仕事、たくさんあると思います。そういうことに気付いて欲しいなと思います。

長江:音楽メディアの世界では、2005年にYouTubeができ、激変しています。CDが売れなくなって厳しい時代になったともいえます。実際に学生に聞いてみるとほとんどCDを買っていない学生もいます。でも、それは悪気があってというわけではなく、もはやとても普通にYouTubeで音楽を聴いています。このようなこともあり、音楽の世界では、メディアを売ってというビジネスから、ライブコンサートビジネスにシフトしてきています。以前ならば、ポップ、ロック分野は、毎年CDを出してそれを買ってもらって、コンサートツアーをしてという活動スタイルであったのが、現在では、YouTubeやSNSで広報して新譜を知ってもらい、興味を持ったらコンサート会場に足を運んでもらう。そして、その場でリアルタイムに音楽を体感するということを多くの人々は求めているようです。また、コンサート会場でのタオルやTシャツなどのグッズ販売も収益上、とても重要な要素になっています。これらのコンサートでは、音のみの表現ではなく、映像や照明との演出が当たり前となっており、今後、これらの結びつきを学び研究することはとても大切なことであると思います。
 音楽は、私たちの生活を豊かにするとても大切なものです。インターネットが発達しメディアを通して世界中の音楽を聴くことができるようになり、音楽ファンにとっては音楽の選択肢がとても増えたと思います。そして、人々が音楽のどのような部分にお金を払って体験したいかということについては、メディアを通してのみではなく、音楽のもっとも原始的な行為である「その場で演奏家が演奏し、その場で音楽を聴く」ということに回帰してきていると思います。今、エンターテインメントディレクション コースに入学する学生の多くは、これらのコンサートに感銘を受け、卒業後は、舞台全般や企画制作、音響、照明のプロとして活動することを視野に入れて勉強に励んでいます。私自身もそうでしたが、10代の頃は、音楽を聴くことについて自身の趣味嗜好でそれらをチョイスしています。ただ、これが仕事になるとそうは行きません。音楽分野に進みたいというきっかけは十人十色ですが、特に、音楽制作やエンターテインメントの分野を大学で学ぶということは、さまざまな音楽分野の歴史や背景、音楽理論、それぞれの音楽の美学を知ることがとても重要であると思います。知らない分野があるということは、将来の仕事の幅を自ずと狭めていることになります。また、音のみではなく、映像や照明との表現や英語の習得もとても大切なことであると思います。
 そもそも音楽分野で身を立てていくことは、日本だけではなく世界的に見ても、とても難しいことですが、大学で音楽を学ぶということは、大学側は、最終的にどのように「音楽人として身を立てていくか」ということを、教えていく必要があると思います。そういう意味では、たとえば、演奏分野は、演奏技術以外の部分も、教えていくということを視野に入れる必要があると思います。また、これからは、演奏者が、自分自身をどのように世の中にプレゼンテーションして仕事に繋げていくかについても知らないといけない時代になってきていると思います。演奏者自身でコンサートを企画し、それらをどうプロモーションするかも大切な要素となると思います。例えば、自身の演奏を録音や録画して、YouTubeやSNSを使用して広報をするということも、もはや自身で行なうことが必要であると思います。

●トーンマイスターワークショップ 2016

早川:みなさんの話を聞くと、リベラルアーツコースは、また方向性が違うなと思います。芸術教養はもともとが他の3領域と違って、ジェネラリストを作るという感じです。何かが専門というわけではないんです。就職も、一般企業や行政などに進んでもらえればいいのかなと思っています。その時に芸大にこのコースがある意義は、大学の時に芸術の学生と一緒に勉強してきた、そういう世界をかじってきたという経験を、社会の中で生かすことです。プロジェクトを依頼する行政側で、アートのことがわかる、話の通じる人材を育てなきゃいけないと思っているんです。
 リベラルアーツは、スペシャリストの人たちがやっていることを理解しているジェネラリストを育てる領域です。専門家の人たちがやっていることを社会に生かせるような人材を育て、他の領域とこのコースが協力してやっていければいいなと思っています。
 どんな仕事をしててもデザイン的な側面やアート的な側面、それから音は、必ず絡んできます。例えば会社だったら広報、どんなwebページを作るか、ポスターを作るか、そういうのはやはり専門家にお願いして作ってもらうと思いますが、そういうことを全く知らない人たちが注文するのでは話も通じないし困ります。アートも含めた教養を身に付けた人が世の中にもっと増えれば、逆に芸大への需要も増えてくるのではないかと思います。リベラルアーツの人が、世の中に美術の需要を作りだす可能性を秘めていると思うんです。このサイクルが上手く回ればいいなと思っています。

思いきりやろう!

水内:名古屋芸大の特徴なんでしょうか、すごく自由な雰囲気があります。僕にプロジェクトができたのは、この学校に来て2年目ですよ。「別に失敗してもいいよ、好きな先生を呼んでやりなよ」といっていただきました。学生たちの雰囲気もすごく自由で、自分たちでやろうみたいな雰囲気があります。それがすごく大事だと思うんですよ。そういう名芸の良さは、これからも大事じゃないかと思います。

一同:うん、うん(大きくうなずく)。

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