愛知保育園

園長田中伸代

人間発達学部 子ども発達学科長

教授安部 孝

「子どもが好き」ということが一番

五感を養い、感性を伸ばす

愛知保育園の特徴について教えて下さい。

田中:どの幼稚園、保育園も同じだと思いますが、子どもの幸せを第一に考える、情緒豊かな人格形成を養うというのが理念です。ポイントはそのやりかたにあると思いますが、ガチャガチャと気ぜわしくなく、ゆったりとした生活の中で子どもたち個々のいいところを見つめ、育む。職員も落ち着いて、じっくりと子どもを見る。そういうやりかたがだんだんできてきたのではないかと思います。
 情操や感性がどういうことなのかというのは、とても難しいと個人的には思っています。感性といっても一人一人違います。ですから、私は大雑把に受け取って、子どもたちの関心、個性を尊重して伸ばしてあげたいと思っています。なにか教える教育をするということよりも、五感で感じる、五感を養うことを考えています。
 今、力を入れているのが触覚と味覚です。最近では、管理栄養士さんも一緒になって「だし」を子どもたちと味わったんです。「鰹だし」や「昆布だし」を薄めて、それを舐めて当てるゲームみたいなことなんですが、子どもって敏感でよくわかるんですね。職員にとってもいい経験になりました。
 それから、他の保育園にはない特徴としては、やはり芸大とのつながりがあります。といってもクリスマス会に音楽領域の学生さんに来てもらっただけですが、それでも違います。生演奏は素晴らしく、小さな子どもでもしっかり聴いて、体感していることがよくわかります。もっと、もっとそんな機会を増やしてあげたいと思います。
 もう一つ、世代間交流も行っています。保育園のある地域は、中川区の工場と古い住宅が混在する地域で、高齢者が多いところです。近所の方にお声がけをして、お手玉や手遊び、歌など、伝承的な遊びを毎月やっていただいています。職員も、うちの保育園には20代から70代まで全世代いるんです。70代の職員は、泣いてる子どもでも抱っこして寝かしつけちゃう達人なんですよ。

安部:お話を伺って、とても安心しました。初めにおっしゃった子どもたちのことを見守ること、好奇心とか情操とかは、保育や幼児教育の表層がどんなに変わっても、決して変わらない考え方の根っこのところですよね。その部分のお話をされているんだろうと思って聞いていました。表面的なことよりもそういった根本のところを大事にされているんだなと思いました。五感って、子どもそれぞれが自分で持っているものですよね。だから、外側ではなくあくまで子どもの内側にこだわる、そのことを一貫して話されているんだなぁと。それが確認できてほっとしたといいますか、今日は来てよかった(笑) 。今度、学生を連れて、見学というか、遊びに来ますよ。
 世代間交流ですが、高齢者が子どものところへ行くと、最初、慣れていないのと怖そうなので、泣くんですよ。それが、どういうわけか子どもはすぐ慣れるんです。普通の大人より、高齢者の方が慣れるのが早いんです。すぐに一緒に遊ぶようになります。どうしてなのかわからないですけど、観察していると、高齢者の方は、前に立つ保育者ではやらないようなこと、こっそり服を直してあげたり、ちょっと世話を焼くようなことを見えないところでやっているんです。そういうことも子どもはわかっているんだな、伝わるんだなと考えたことがあります。この保育園では近所の方が来られて、そういうことが自然にできているんだと思います。

ゆったりと子どもを育てる

田中:お母さんたちは、仕事を終えてから子どもを迎えに来ているわけで、さっさと支度をして靴を履かせて連れて帰りたいわけですよ。でも、そこでゆっくりと子どもを待って下さいと。子どもは自分でできることをやろうとします。ゆっくりながらも一所懸命靴を履く。すると、お母さんはその姿を初めて見てびっくりします。そんなことがしばしばあります。入園して3ヶ月くらいすると、お母さんも自分が子どもだった頃を思い出すようで、だんだんとゆっくりとした、こちらのペースになってくるんですよ。

安部:今でいう特別支援教育に取り組んでいた頃です。僕を指導してくれていた先生が、配慮が必要な子の親御さんは、当然のことながら、心身共に負担が大きい。だから、その家族には、保育園、幼稚園に入っていた3年間、4年間をあとから振り返ったときに「幸せだった」と感じさせてあげなきゃ、ということをいわれました。子どもにも親御さんにも「あのときはよかったなぁ」という経験をさせてあげること、そういう役割も保育園や幼稚園にはあるのかなと思います。たぶん、子どもも大人も日々イライラを募らせながら生活していて、せめて保育園へ来たときにはほっと安心できる、そうした感覚や感じを与えていかなければと思います。ここの子どもたちみたいに、こんなに穏やかならいいですよね。お母さんたちも、トゲトゲしく帰らなくてもいいもんね。

田中:そうですね。保育園に慣れてくると、お母さんたちは先生としゃべって、スッキリして帰っていきますよ。

スキルは子どもと一緒に高めていけばいい

人間発達学部には、幼稚園や保育園の先生になることを志望する学生がいます。園長先生なら、どんな先生になって欲しいと思いますか?

田中:保育園としては子どもが大好きなことですね。「ピアノが弾けないと駄目ですよね」とよく聞かれるんですが、ピアニストみたいにピアノが弾けても子どもが乗ってこなければ一緒で、うまく弾けなくても子どもが集まってくればいいじゃないですか。子どもが好きな人、子どもを包みこめる人、そんな人がいいですね。
 スキルは、やっていくうちに身につけていけばいいんですよ。大学を卒業する段階では身についていなくて当然です。保育士というのは、子どもと接してそこから真剣になってスキルを上げていくものですよ。子どもと一緒に高めていってもらえばいいと思っています。机上の空論ではないんだけれども、いくら勉強してもそれがそのまま子どもに当てはまるとはかぎらないじゃないですか。

安部:ところが、実際に子どもと接したときに、自分の想像と違う。という最初の壁があって、「こんなはずじゃなかった」となる学生がけっこういるんですよ。

田中:なんでしょうか、子どもを美化しすぎというか。子どもって、もちろんかわいいですけど、かわいいだけじゃないですよね。子どもの正面だけでなく、ちゃんといろいろな角度から見て、それでも子どもが好きな人ですね。

安部:実習の途中で行けなくなった学生は、やっぱり自分の理想と違っていたんです。理想と違うと、この頃の学生は「教育ってそういうものじゃない」なんていったりしますよ。先生がおっしゃった美化されたところ、本当に表層的なところを理想と捉えてるんですね。たしかにそれは、子どもが育った理想の姿なんですよね。だからそうなるようにがんばって手をかけるのが保育なのに。
 僕は、保育者になるというのは、その園の先生になっていくことなんだよと説明してるんです。その保育園の先輩方に子どもと一緒にかわいがられて育っていくんだよと。無理せず素で行って、できないことや足りないことは悩む必要があってから悩めばいいと。
 子どもの前に行くのが嫌になるというのもあるけど、ちゃんと次の日に子どものところへ行ける学生であって欲しいですね。そういう学生に育てたいと思います。子どもって怒られても、次の日ちゃんと来ますよね。先生がそこにいないというのは、ちょっと駄目ですよね。

田中:以前読んだ本の一節に、保育のプロは子どもをかわいいといってはいけない、かわいいと思った段階でプロではない、みたいなことが書いてあったんです。プロとは、この子をこう育てたいと考えて、かわいいなんていっていられないと書いてあります。それを読んで、私、プロじゃなーい!(笑)。

安部:ああ、同じこと思った!(大笑)。
 学生が習っているのは、子どもの固有性やリアルな姿みたいなことを排除した部分なんだろうな。だから根本のところがわからない。学生たちにちゃんと伝えられていたかなと反省しますね。

田中:保育にかかわるということは、親御さんが見ることのできない一番大切なところを見ることができるんですよ。立った、歩いたを親御さんよりも先に私たちが見ることが多い!

安部:幼稚園の教員をやっていたときも、先生のおかげでこんなことができるようになりました、なんていわれたりしましたが、ごめんね、僕が一番いいところをいただいてしまってと。一番いいところに遭遇してるのが保育者。その現場に立ち会えるという感覚。こういったことのよさも学生にちゃんと伝えてなかったかもなあ。

田中:感動ですよ、歩いた!とか(笑)。

安部:そうそう! 歩いたーっ!ですよね(笑)。

愛知保育園

http://aichihoikuen.jp/

 愛知保育園は、昭和29年9月1日に名古屋市中川区愛知町において愛知県知事(当時は桑原幹根知事)から個人立の保育所として許可を受け、現在創立63年目を迎える歴史ある保育園です。平成29年4月1日から、名古屋芸大グループ法人である社会福祉法人NUAが運営を引き継いでおり、「何事にも興味・関心を持てる豊かな心を育む園」を保育目標として掲げ、職員が一丸となって運営しています。