メディア・アーティスト 藤幡正樹氏による特別講義を開催

 先端メディア表現コースでは、東京藝術大学名誉教授、オーストリアのリンツ美術大学、香港バプティスト大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校などの客員教授を歴任するメディアアーティスト 藤幡正樹氏をお招きし、特別講義を行いました。藤幡氏は、1980年代初頭からコンピュータグラフィックを用いた作品を発表、90年代にはネットワークをテーマにしたインタラクティヴな作品を制作。メディア・アートの黎明期から活躍し、メディアアートを芸術の一ジャンルとして確立した第一人者です。ジャン=ルイ・ボワシエ氏を介して90年代から竹内創教授とは知り合いで、そのご縁で今回の特別授業は実現しました。

 講義は、学生との対話から始まりました。藤幡氏は学生に「商品、製品、作品の違いはなにか?」という問いかけをします。学生からは、商品と製品の違いはわからないけど作品と商品なら渡す側と受け取る側との関係の違い、商品はお客さんのために作り、作品は自分が作りたいものを作る、製品は商品の中でも大量に作られたもの、商品と製品は人の生活を豊かにするもので商品と製品の違いは、すでに世の中で売られているものが商品で製品はまだ売り出されていないものも含む……など、さまざまな答えがあがります。
 藤幡氏は、商品と製品は似ていて、販売されていない試作品なども製品といえるもので、製品のほうが商品よりも大きな枠で捉えられる。商品と作品では、商品となり得る作品もあるわけで作品のほうが枠としては大きい。作品と製品・商品との根源的な違いは個人であると思うと述べ、そこには“気付き”があるといいます。
 個人のモチベーションが他者と共有されたとき作品が成立し、それを欲しいと思う人が出てくればそれは商品となり得る。しかし、初めから顧客が求めているものを作るのは作品ではなく、気づきがあり自分が気付いたことを他者に伝えるというところから作品は始まると説明します。自分が発見した気付きを伝えようとするところに作品と商品・製品の違いがあるといいます。

 何かを表現しようというとき大事なのは気付きであり、伝えざるをえないくらいのあふれるモチベーションがあって初めて作品になる。その作品が他者に届き、触れたいと思うと所有したいと思ったとき、作品が自分のもとを離れる。それは商品になることかもしれないし、自分から離れて自分のものでなくなるということを学生の間に一度でいいから味わって欲しい、と説きました。そして、伝えたい気付きというのは、皆がより新しい世界を知って自由になることを示しており、アーティストにはそうした役割があると説明します。

 こうした対話に続き、近年、藤幡氏が取り組んでいることを紹介していただきました。『「Brave New Commons」は、作品の価値について考える。』というプロジェクトでは、100万円の値が付けられたデジタル作品を希望する人で購入、人数で割って一人あたりの金額を下げてゆくプロジェクト。背景にはNFTがあり、Beepleの「Everydays – The First 5000 Days」がクリスティーズのオークションで75億円という途方もない金額で落札されたこととNFT(非代替性トークン、non-fungible token)について説明。Brave New CommonsもNFTの技術を用い、価値の捉え方についての逆方向を追求します。価値を下げ広く分散所有することで、作品が長く残ることを模索します。
 さらに、香港での「BeHere」、制作中の全米日系人博物館でのARを紹介。どちらも、古い写真や動画を使い、ARでその場の過去と現在をつなぎます。香港ではイギリス統治時代の香港のストリートフォトからARを制作、歴史を思い出し未来に繋げるプロジェクトです。全米日系人博物館のARでは、アメリカ議会図書館に残されている戦争中日系人が収容されたマンザナー強制収容所の写真・フィルムを使いARを制作、戦争中にどんなことが起きたかを身近に体験させる内容です。

 こうした作品を紹介し、本学とのコラボレーションして名古屋の街で同じようなワークショップを開催することが発表されました。完成した作品は3月に、中区大津橋の「あーとらぼアイチ」にて展示されることになります。参考として2014年の渋谷ARツアーを紹介し、この延長線で、名古屋でどんなものができるか楽しみにしています、と仰いました。
 講義終了後も多くの学生が、個別にNFTのことを質問するなど、今後の展開も楽しみな特別講義となりました。