名古屋芸術大学

前田ちま子

美術文化 教授

「社会の中の美術と教育」を研究テーマに、東京青山「こどもの城」で16年間、子どもや親子、指導者のための展覧会やワークショップを多数企画実施。博物館教育、美術館教育、参加体験型展示(インタラクティブ・アプローチ)、ワークショップを専門に研究調査。

作り上げていく力を養ってほしい

前田先生のこれまでやってきたことを顧みると、美術文化なんですが随分実践的なことをやってこられたように思います。

 そうですね。アートクリエイターコースには、美術文化関連は2種類あり、芸術編集は高橋綾子先生が、特に実践的な美術教育の普及を私が担当しています。実際に学生が美術館の現場に出て行って、ワークショップを実施しています。これまで、名古屋ボストン美術館、名古屋市美術館などでやらせていただいています。学生に対し個別に指導していくようなやり方で進んできました。その辺りは今年のファンデーションでも変わらず、学生が企画から始めてワークショップを実施するまで、プロセスを重視しながらやっています。現在進めているのは、愛知県児童総合センターでのワークショップです。

愛知県児童総合センターとの連携のワークショップですか。

 今回は、愛知県児童総合センターの方から大学と連携したいと声をかけていただきました。美術文化コースの2年生のグループとファンデーションの1年生だけのグループが参加します。初めてですが、アイデアも面白く、センターの方たちにとっても刺激になっていいと評価をいただき、まだ準備段階ですがスムーズに進んでいます。実際にワークショップを行うと、一般の来場者は、学生であってもスタッフとして接します。こうしたことを自分自身で体験すると、頭で思っていることと実際は違うということがよく分かります。作家というのは自分の思いで表現しますが、美術文化の領域では、子供であるとか来館者であるとか第3者がいます。そして、その人たちのために企画し実行します。テーマがあり、そのために計画して、組み立てて、どのような体験をしてもらうか、それらを考え作っていきます。独りよがりでやってしまうと全く違うことになってしまいます。ディスカッションしたり、グループワーク抜きでは、成立しないものですね。

ワークショップを企画して行うことにより、どんなことが学べるのでしょうか?

 ワークショップの意味が、じつは2重の意味になっていまして、学生は学外で実施するワークショップを組み立てているけど、この教室がすでにワークショップ空間になっているんです。学生たちもそれぞれバックグラウンドが違います。違うから無二で今しかありません。ワークショップというと通常、ものを作ったり講習会的なものになりがちですが、この授業で行われているワークショップは異なります。自分で独立してやっていっている個人が集まり、出会ったことで新しいことが生まれます。たとえ最初に提示する制作物が不十分であっても、みんなが共有しつつ、自分と人が協同する。そのことが重要だと思います。これは、私自身のコンセプトであり、ワークショップに対する変わらない考えでもあります。

アートクリエイターブロックになり、制作に携わりたい学生も選択するようになりますか?

 学生さんの気質として、構築していくことが好きな学生もいます。いろいろやっているなかで、そこに構築的なものも一本通しておいてあげないといけないなと感じています。しっかりと構築したものがあり、その中にその人なりのものが育つのだと思います。詰め込みじゃなく、自分の興味で調べたり能動的に考えることが、一番の学びになると思います。ファンデーションがあり、その次の専門に進んでも、自分が何に興味があって一生積み上げられることを見つけることが大切で、そのために大学があります。糸口はどこかにあるはずで、4年間のうちに見つけられるようにして欲しいです。大学を卒業すれば、否が応でも自分で考えていかなきゃならなくなります。そのために練習できるチャンスが今です。社会に出ても、人を受け入れたり考えを共有して、新しい環境や何もないところからでも何かを作り上げていく力を養ってほしいですね。

美文演習<歩く人制作>
彫刻の好きな学生がロダン作《歩く人》を取り上げ、説明している間に他の学生は耳からの情報でイメージした形を、練り消しゴムで制作中。作品解説を聴きながら想像したものを組み立て、「描く・つくる」実習のひとつ。見ているようで見ていないことは意外と多い。ここでは「聴く」ことで「見る」ことにさらに気づくことに焦点をあてた課題。第三者に話すことで「ものをよく見るようになり」、また聴くことで「他の人が“見た”モノを形としてあらわす」という、両者にとって五感の覚醒となる。

美文演習<ワークショップ企画>
愛知県児童総合センターとの連携ワークショップ「ちずであそぶ」。企画から学生が関わり、アイデアを出し、準備、ワークショップの実演まで行う。

「ちずであそぶ」より「球体地図」
5つの球体に、地球、宇宙、砂漠、ジャングル、未来をイメージし、さまざまなものを貼り付け、空想の世界を作る。

「ちずであそぶ」より「けっかんをなぞってみよう」
血管は、体のすみずみまで栄養を運ぶ体内の「道」。血管をペンでなぞることで見えるようにし、自分の体の中にある地図を浮かび上がらせる。身体の不思議を体感。

美文演習<視覚の遮断>
目隠し、視覚以外の感覚で感じることを体験する。五感で感じたことを“見る”ということに反映させ、美術文化を根源的な部分で見てみることを体験する。“見る”ということに積極的に関わり、五感で感じることがアートの始まりだということを再確認する。

美文演習<最終発表>
興味をもった名画を選択し、学生自身がそれをどのように見て感じたかを動画制作し、第三者に伝えることで「見る」ことを意識化する。最後に工夫点などを発表。

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