第51回 卒業制作展・大学院修了制作展アーカイブ

 2024年2月16日(金)〜2月25日(日)の間、本学西キャンパスで名古屋芸術大学卒業・大学院修了制作展を開催しました。
 本特集では、特に優秀だった作品をピックアップ、キーパーソンのコメントと共に、今回で51回目となる名古屋芸術大学卒業・大学院修了制作展を振り返ります。

第51回卒業制作展・大学院修了制作展を振り返って

芸術学部長/技術センター長/デザイン領域 教授 萩原 周

萩原周 教授
 今年度、卒業制作を行った学生は、大学へ入ってすぐ非常事態宣言が発令されオンラインで授業が行われた学生で、その影響が感じられました。講評会に参加していただいた方や卒業生からも、やはりそういった感想が聞かれました。コロナによって強制的に立ち止まらされ、自身の周辺、しかも自分にとても近い環境への気づき、そうした点に着目する作品が多かったように感じています。その傾向は昨年度も同じでしたし、今後数年間は続くように思いますが、変化も感じました。社会が再生し始めたことを受けてか、外へ向かって社会に押し出そうとするような、ポジティブな作品が増えたように感じました。昨年度、一昨年度は、内側に向き、少し沈んだように静かに考える傾向が強くなっていましたが、そこからまた外の世界に対して発信する視線に向き直った作品が多かったように思います。自己肯定をテーマとする作品も印象的でした。来年度は、さらに社会に対して広がっていくような作品が増えるのではと期待しています。
 それから、大学院生の作品、とりわけ留学生の作品にすごく良いものがありました。以前はなんとなく弱々しい学生が多い印象でしたが、変わってきたように感じます。日本で学んでいても自分の国のアイデンティティをしっかり持っていて、その上で日本を観察し、読み取り、編集する、そうした結果のアウトプットとしての作品を制作している。日本的でありつつも、それぞれのアイデンティティが作品の根底にはしっかりとある、どの作品からもそんな印象を受けました。
 こうした作品の一方で、今年度は生成AIが大きく進歩した1年でした。創作に対して危機感を持つ学生がいる中で共存していく、そういったことも少し意識に上がってきていると感じました。それは、作品だけでなく、評価する側へも影響していると感じます。例えとして適切かどうかはわかりませんが、ウィリアム・モリスは産業革命で工業化が進むことにより労働の喜びや手仕事の美しさが失われたことを嘆き、「アーツ・アンド・クラフツ運動」が始まりました。そこでモリスが陶製品の製造について語った際に、機能性や素材の適正使用の重要性とともに、職人の手の跡が残っていることが必要だと説いていますが、そのことを思い出しました。優秀賞の「moratorium machina」(橋本悦司さん)、「KAMIKIRI HOUSE」(大石京汰さん)の作品も、すごく長い時間をかけて手の中で生み出されたものの集積です。生成AIへの反動という単純なことではなく、人間のすごさのようなものを肌で感じられる作品が高い評価を得たように思います。
 卒業制作展の会場を愛知県美術館からキャンパスに変え6年目となりました。毎年、来場者数が増加していますが、今年度も増え、6000人を超える数となりました。期間中、天候には恵まれませんでしたが、平日でも多くの方に来場していただきました。楽しみにしていただいているとの声もあり、大学の地域への貢献という意味でも非常に嬉しく、有り難いことだと思っています。

制作者インタビュー