教授/副学長/アドミッションセンター長

津田佳紀

つだ よしのり

 1980年代よりメディアアートやメディアデザインについて制作、研究している。主な展覧会として「Japanese Art After 1945: Scream Against the Sky」※1(グッゲンハイム美術館他)、「第3回フランクフルト国際現代美術トリエンナーレ」(フランクフルト クンストフェライン)、「(共有)される視線」(東京都写真美術館)、「マニエラの交叉点―版画と映像表現の現在―」(町田市立国際版画美術館)、「COLD_SCHOOL MS004:講義としての芸術」(名古屋大学 豊田講堂)などがある。
(※1 岡崎乾二郎との共同制作)

名古屋芸術大学の“To Be”
伝承と革新、來住学長の理念とともに大学の存在を再構築する

“改革の準備”という現在地

 「今、大学というものの“立ち位置”が問われていると思います。AIの登場、戦争、社会の仕組みや世界の構造も大きく変わりつつある。世界の経済や文化の中心が多極化し、日本が必ずしも“中心”ではなくなる時代に入っている。そうした中で、名古屋芸術大学が“どこにいるのか”、つまり大学としてどう存在するのかを、明確にしておく必要があるんです」。
 津田副学長の言う『To Be』とは、単なる理想像ではなく、変化の時代における大学の存在理由を問う言葉である。
 津田副学長は、來住尚彦学長の掲げる『伝統=伝承+革新』という考え方を軸に、大学の未来像を具体的に描く。
 「来住学長は“日本のデザインは優秀である”と断言しています。それは単に技術や形が優れているという意味ではなく、背景にある思想、つまり“考えるデザイン”としての価値が高いということです。日本のデザイン思考には、簡潔さや余白の美、機能と精神性の共存といった独自の文化的文脈がある。それを“ジャパニーズ・デザイン・シンキング“として再定義し、世界に伝えていくことには需要があると思います。地域性を大切にしながら、世界とつながっていくこと、それが大学の将来像だと思っています。AIの進化も、国際情勢も、予測の範囲を超えている。だから今の段階では、変革そのものよりも“変われるための準備”を整えることが大事なんです」。
 津田副学長は、名古屋芸術大学の現在地を『変革の準備』と表現する。
 「焦って新しい制度や方針をつくるよりも、まずは変化を受け止めるための“思考の基盤”を鍛えることが必要です。社会が動くときに、何をどう見るか。それを支える考え方の基礎をもう一度、見直す時期にきています」。
 それは、大学の教育全体の構造を問い直すことでもある。
 「専門教育を横断する“基礎”の部分を組み立て直す。変化を理解し、自分で考え直す力を持つ学生を育てる。その基盤があって初めて、新しい大学像が見えてくると思います」。
 学長が語る『伝統=伝承+革新』という理念は、受け継ぐだけではなく、常に見直し、更新し続けることを意味する。それが、名古屋芸術大学が社会において存在感を持ち続けるための条件であるという。

メディアの変化に応答する大学

 『変化に適応する大学』とは、単に社会の動きに追従する大学ではない。
 「メディアは、私たちが世界をどう理解するかを形づくるものです。新しいメディアが生まれると、感じ方や考え方の構造が変わります。メディアの変化は人間の認識や思考の再構築を促します」 。
 大学は、その変化を観察し、翻訳し、次の世代に渡す場所であるべきだという。
 「新しいテクノロジーに振り回されるだけではなく、そこにどんな新しい思考の可能性があるかを見極める。芸術大学は、その変化を読み解く場所でもあると思います」。
 それは学長の『価値を社会に接続する』という考えの基盤になるもので、社会と思考の接点を模索するものである。芸術を社会の外に置かず、社会の構造を読み解く知の装置として機能させる。大学を社会と世界の中でどう機能させるか、一つの答えといえよう。
 「名古屋芸術大学は愛知に根ざした大学です。この地域の文化的なストックの上に立ち、その経験を世界の中で新しい文脈として発信していく。地域に立脚しながらグローバルとつながる。それが、今後、大学が目指すべき姿だと考えています」。
 地域性と国際性の両立、伝統と革新の両輪、その両方を行き来できる柔軟さを持つことが、来住学長・津田副学長が志向する名古屋芸術大学の未来像である。

デザインとメディア、思考を鍛える教育へ

基礎デザインの再構築、広がるデザイン思考

 デザイン領域で、今後進められる改革のひとつが、教育の根幹にある『基礎デザイン』の再構築である。
 「科学に基礎研究と応用研究があるように、デザインにも“基礎”があります。それは、どんなデザイン分野でも共通する考え方の仕組みです。けれど、時代が変わればその基礎も更新しなければいけない。デザイン領域では1年次にデザイン基礎(ファンデーション)というカリキュラムを30年以上前から取り入れています。長期的視点で見ても有効なカリキュラムとして構築されていますが、近年では新しい考え方も出てきて、デザイン基礎の内容をアップデートしたいという意見もあります」。
 デザインとは単なる形の操作ではない。
 「デザインは、ものごとを理解するための思考の方法なんです。社会や技術の動きを前向きに受け止めながら、ものごとの構造を読み取り、再構成していく。その柔軟な思考力こそが、これからの時代を支える基礎になると思います」。
 守るべき基礎を持ちながら、それを時代に合わせて書き換えていく。
 「デザインという言葉が指す範囲は、どんどん広がっています。以前は、“もの”をつくることがデザインでした。でも今は、情報や空間、環境、制度、コミュニケーション……、社会のあり方そのものをデザインする時代になってきています。デザインは社会の仕組みを考える力なんです」。
 デザイン領域ではその拡張を積極的に受け入れ、教育の中心に据えようとしている。
 「専門領域を超えて考えることが当たり前になってきています。グラフィックも、プロダクトも、空間も、そして人と人との関係さえも、デザインの対象になってきている。その幅の広さを取り込むようにしてきましたが、さらにそれを進めることになります。こうした垣根のない広がりが名古屋芸術大学の強みになっていくと思います」。
 学長が語る『伝統=伝承+革新』という理念を、教育現場でさらに広げ『考える力』として置き直していく。

“考える力”を鍛える場として

 先端メディア表現コースでは、映像、インタラクション、デジタル技術などを活用しながら、新しいメディアが人の思考にどう作用するかを探る試みが続いている。
 「メディアは、単に情報を伝える手段ではありません。先端メディア表現コースではアニメやゲームの業界に進んだ卒業生がいますが、他方ではメディアを社会のためにどう役立てるのか思考し、メディアを使った社会の進化を担う仕事に就いた卒業生たちもいます。生活の中の理解の仕組み(eureka)を、メディアを使って強化すること。メディアの変化は人の行動を変化させますが、その際に文化も変わるんですね。文化の変化の風下には、デザインの変化があります。そのような変化に対して、常に敏感でありながら社会と対峙するためには枝葉末節の技術に依存するだけでは無く、ベーシックな基礎デザインという部分を鍛えておく必要があると思っています。テクノロジーが発達しメディアが変わるたびに、世界の見え方が変わる。それに応じて、自分の発想も変えていけるようにしておく。それが“思考を鍛える教育”の本質だと思います」。

多言語化と異文化理解、世界に出ていく準備

 『思考のデザイン』を支えるもう一つの柱、それは多言語化への対応だ。來住学長もこの点を強調する。
 「東海地区は外国籍の居住者が多い地域で、名古屋芸術大学のキャンパスもすでに多文化空間になりつつあります。これからは、英語を学ぶだけではなく、いろんな言語が飛び交う環境でコミュニケーションできる、クロスカルチュラルな学習環境を整えることが重要です」 。
 異なる言語に触れることは、異なる文化に出会うことでもある。
「英語だけでなく、他の言語を通して異文化を知ることは、自分の考え方を見直すきっかけにもなります。言語の違いが、むしろ世界の捉え方を広げてくれる。その経験を積んで欲しいし、そんな環境になっていくと思っています」。
 大学の中で『世界に出ていく準備』ができること。それが、今後重要になってくるという。
 「名古屋芸術大学は、地域の文化を受け継ぎながら、世界の変化に呼応していく。その両方を行き来する大学であることが大切です。芸術大学は“社会を映す鏡”でもあります。社会の変化を冷静に観察しながら、自分たちの立ち位置を問い続ける場所です。基礎を見直し、思考を鍛え、地域と世界の両方に目を向ける。その営みを積み重ねていけば、きっと次の時代に通じる大学になれると思っています」 。
 地域に根を張る大学であること、そして世界の変化に対して開かれた大学であること。その両立こそが、名古屋芸術大学の『位置づけ』であり、目指す未来像である。
 「大きな改革よりも、日々の小さな更新を積み重ねていく。その繰り返しの中で、大学の未来は少しずつ形を変えていく。それが大学らしい変わり方だと思っています」。
 学長の理念と副学長の実践が重なり合う場所に、名古屋芸術大学の未来『To Be』のかたちが、確かに見えている。