1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。みずほ銀行に入行し、支店長、銀行等保有株式取得機構運営企画室長などを歴任。全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)評議員、日本弦楽指導者協会(JASTA)顧問、名古屋音楽学校アドバイザーなどを務める。
著書に『音大崩壊』『「音大卒」は武器になる』『「音大卒」の戦い方』(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)、『AI時代最強の子育て戦略「ピアノ習ってます」は武器になる』(音楽之友社)がある。

教授/音楽領域主任
おおうち たかお
1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。みずほ銀行に入行し、支店長、銀行等保有株式取得機構運営企画室長などを歴任。全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)評議員、日本弦楽指導者協会(JASTA)顧問、名古屋音楽学校アドバイザーなどを務める。
著書に『音大崩壊』『「音大卒」は武器になる』『「音大卒」の戦い方』(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)、『AI時代最強の子育て戦略「ピアノ習ってます」は武器になる』(音楽之友社)がある。
音楽大学の存在意義が問われている。
ピアノやヴァイオリンを学ぶ学生が減り、全国の音大オーケストラが維持できなくなりつつある。大内孝夫教授は、自著『音大崩壊~音楽教育を救うたった2つのアプローチ~』の中でそうした現実を見据えつつ、崩壊させないために何をすべきかを問い続けてきた。
「20年前、音大生は全大学生の約2%を占めていましたが、いまは1%を切っています。これは単なる少子化の問題ではなく、社会全体が“芸術の学びの価値”を見失いつつある現象なんです」。
AIが作曲し、演奏を自動化できる時代に、人間の学びはどこに残るのか。
「AIが発達すれば、複雑な計算や理論はAIがやるようになります。でも、AIには美しいと感じる心はない。人の心を動かすものを創るのは人間だけです」。
音楽教育は、単なる技能訓練ではない。人の感情を理解し、他者の心を動かす力を育てる場である。大内教授は「人間のアイデンティティとは、美しいものを美しい、おいしいものはおいしいと感じること。喜怒哀楽や共感・反感などの感情があること」と語る。
音楽で学ぶことは、決して音楽だけに使えるスキルではない。大内教授は、このことを繰り返し述べてきた。
「先生とマンツーマンで学ぶことで、年齢の離れた人と対話できるコミュニケーション力が身につきます。演奏会という締め切りに向けて練習を重ねる中で、目標設定、工程管理、期日管理も自然と覚える。礼儀、正確・丁寧さ、段取りのコツ、すべて音楽から学べる力です」。
それに加え、AIが『正解』を導く時代にあって『答えのない問いに向き合う力』こそ、これからの社会に求められる学びであると語る。
「これからは、答えのない世界で“最高のもの”を考え出せる人間が生き残る。芸術とはまさに、その“答えのない最高”を追求する営みなんです」。
名古屋芸術大学の音楽領域には、他の音大にはない強みがある。
「名古屋芸術大学は音楽だけじゃない。舞台芸術、美術、デザイン、映像、照明などがある。芸術を“掛け合わせる”ことができます。音楽と美術、音楽とデザイン、あるいは音楽とテクノロジー。掛け合わせることでまったく新しい表現が生まれる。それが芸術大学の特権です」。
そうした環境を背景に、來住学長は『見せる力』を加えようと考えている。これまで音楽教育、とりわけクラシックの世界ではエンターテインメント要素を加えることをタブー視していた時代が続いていた。そうしたこれまでの在り方をアップデートしようという取り組みが始まっている。照明や舞台美術と組み合わせて『ステージを創る』ことまで学ぶことのできる場所、純粋な演奏技術を超えて観客に新たな体験を届けられるアーティストを育てる場所、大学を新しい学びの場所へ位置づける。
大内教授はこの方針を『演奏者=プレイヤー』から『舞台を総合的に創り上げるアーティスト』へと広げる教育の方向性と受け止めている。
「クラシックの枠を保ちながらも、観客を惹きつけるステージ演出やパフォーマンス力を学べる場にしたい。クラシックだけが音楽じゃない。ジャズやロック、声優も、真剣にやれば人の心を動かせる。多様な芸術にさまざまな面からアプローチできることこそ、名古屋芸術大学の強みです」。
大内教授は、音楽の価値を技術だけではなく、体験にも見出す。
「演奏が上手いだけでは公演に人は来ない。楽しくなければステージじゃない。どうやって観客に届けるか、自分をどうブランディングするかを考える力も育てていきたいです」。
音楽もまた、社会と共鳴してこそ生きる。学生が自分のステージを企画し、観客と対話しながら新しい音楽の形を探る。そうした学びを大学が支援する体制を整えていきたいという。
「小さな成功体験を持たせることはできる。できなかったことができるようになる、その繰り返しが自信になり、学ぶ意欲になっていくと思います」。
成果だけではなく過程を見守り、一人ひとりの達成を喜び合う。どうしたら伝わるか、人の心を動かすことができるかの体験を通して学ぶ環境をさらに充実させたいという。
AIの時代だからこそ、心を扱う芸術の意味が高まる。さまざまな音楽を核としつつ、他の領域も横断しながら音楽を『社会の中で生きる力』へと変えていく。
「演奏を見せるだけではなく、人を幸せにする音楽をどう届けるか。その力を育てたい。音楽が人の心を動かす限り、音楽大学の存在意義はなくならないと思っています」。