第53回 卒業制作展・大学院修了制作展アーカイブ

 2026年2月14日(土)〜2月23日(月・祝)に、本学西キャンパスで名古屋芸術大学卒業制作展・大学院修了制作展を開催しました。
 本特集では、特に優秀だった作品をピックアップ。キーパーソンのコメントとともに、今回で53回目を迎える 卒業制作展・大学院修了制作展を振り返ります。

第53回卒業制作展・大学院修了制作展を振り返って

副学長/芸術学部長/技術センター長 萩原 周

萩原周 教授
 近年、AIをめぐる議論が社会のさまざまな場面で語られるようになりました。芸術やデザインの分野においても同様で、学生たちの制作の環境もこの数年で大きく変化してきているように感じます。昨年までの卒業制作展では、AIと人間の関係そのものをテーマにした作品が多く見られました。AIとは何なのか、人間の創造性とどのような関係にあるのかといった問いが作品の中で提示されていたように思います。しかし今年の展示を見ていると、その段階からさらに一歩進み、AIを実際に制作のツールとして用いる作品が中心となってきた印象を受けました。AIに対する期待や不安を語るというよりも、すでに制作の現場の中に組み込まれ、実装の段階に入ってきたという感覚です。そうした変化は、表現のあり方そのものに新しい状況をもたらしているように思います。
 そのような環境の中で、多くの作品から感じられたのは、いわば「確からしさ」への意識でした。AIによって高度なイメージや表現が容易に生成できる時代だからこそ、身体的な感覚や手仕事の痕跡といった、人が制作することによって生まれるリアルな実感を取り戻そうとする姿勢が見受けられたように思います。人が時間をかけて考え、試行錯誤しながら形にしていく過程そのものが、作品の意味を支える要素になっているようにも感じられました。
 一方で、展覧会全体を見渡したとき、どこか印象の薄さのようなものも感じました。発想としては興味深いものが多くありながら、もう一歩踏み込めば大きく展開しそうなところで止まっている作品が少なくなかったように思います。そのことには、学生自身だけでなく、教員側ももう少し踏み込むことができたのではないかという思いが残ります。そうした感覚も含めて、今回の卒業制作展にはどこか「せつなさ」のようなものが漂っていたように感じました。
 その背景には、現在の社会の空気も関係しているのかもしれません。誰もが慎重にならざるを得ず、少しの隙があれば足をすくわれてしまうような時代の中で、大胆に踏み出すことが難しくなっている。そのような状況が、表現のあり方にも影響しているのではないかと思います。
 しかしながら、今回の展示を見ていて感じたのは、多くの学生が社会の状況や自分の置かれている環境を、自分自身の問題として引き受けて制作に向き合っていた点でした。与えられたテーマを処理するのではなく、日常の中で感じている違和感や不安、あるいは個人的な経験を出発点として作品を立ち上げようとする姿勢が随所に見られました。
 こうした姿勢は、芸術表現の根本に関わる重要な部分でもあります。現状を自分事として受け止めその中から表現を立ち上げようとする試みは今回の卒業制作展の特徴の一つであり、今後の制作にもつながっていく重要な動きであるように感じました。

制作者インタビュー